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【懺悔室のシスターさん】に悩み相談すると決まって聖女な『義姉』が全肯定で甘々に甘やかしてくるけど、俺はその理由をまだ知らない~スクールカースト最底辺からのやり直し~  作者: 水瓶シロン
第五章~筒抜け恋愛相談編~

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第46話 どうも、一周回ってアリの男です

 それは放課後のことだった――――


「ねぇねぇ、諸星くんってさ。彼女いるの?」

「あ、気になる~」

「好きな人とかは? いる?」


 何のことはない。

 終礼が終わると同時に、提出し忘れていた課題を持って職員室へ向かうという用事を済ませたあと、対して気持ちの籠っていない「失礼しましたぁ~」を言って扉を閉めた。


 そのまま真っ直ぐ玄関へ足を向けていたのだが、その道中で「あっ」と何かに気付いたような女子の声がどこからか聞こえたかと思えば、女子数名が小走りで寄ってきて、こうして唐突にインタビューしてきたというワケだ。


 ……いや、どういうワケだ?


 一人はクラスメイト。

 二人は俺の記憶漏れでなければ他クラスの女子。


 あまりに急な質問だから戸惑ってしまったが、ここは見栄を張らずに素直に答えておこう。


「いやいや、こんな男捕まえて愚問にもほどがあるだろ。彼女がいるように見えるか?」


 おっと。

 素直に答えるつもりが、やはりこの口はつい曲がった言葉を吐き出したくなるらしい。


 しかし、それがユーモアとでも受け取られたのだろうか。


 女子達は特に気分を害した様子もなく、顔を見合わせてから笑いを溢した。


「っぷ、あはは!」

「なにそれ~!」

「自信たっぷりに言うことじゃないよ~」


 中には目尻に浮かんだ涙を拭う女子がいるほどに、三人はたっぷりと可笑しさを堪能してから、呼吸を落ち着かせる。


「でもそっかぁ、いないんだって~」

「ね~」


 女子は恋バナが好きだとよく言うが、確かに楽しそうだ。


「私てっきり、諸星くんは天羽さんか玲美ちゃんのどっちかと付き合ってるのかと思ってたんだけどな~」

「え、私的には楓夏ちゃんが怪しいと思ってた!」

「あっ、確かに……!」


 何が『確かに』だよ!?

 恐ろしいことを言うんじゃありません!


 まぁ、しばらく九重に周囲をウロチョロと付き纏われていたのは確かだが……それを色恋沙汰とごっちゃにされては困る。


 俺は背筋に冷たいものを感じながら否定した。


「あ、あのなぁ。その三人が特別俺と仲が良く見えるのかもしれないけど、実際は俺の交友関係がほぼその三人しかいないってだけなんだよ」


 自分で言ってて悲しくなってくるが、事実その通りだ。


 そして、そうならざるを得なくなった原因は、俺が一切の気力を失って落ちぶれたことと、そのタイミングで学園中に流れ始めた根も葉もない悪い噂。


 それには女子達も思い至るところが多々あったようで、複雑な表情を浮かべた。


「あぁ~、なるほどね……」

「そう、だよね」

「……あ、あのねっ、諸星くん!」


 一人が胸の前でギュッと両手を握り合って声を上げた。クラスメイトの女子だ。


「今までごめんね! ずっと謝りたかったんだ。諸星くんの変な噂を流したのは私じゃないし、それを広めたこともないって誓えるけど、見て見ぬフリをして周りの空気に流されてただけで同罪だと思うから」


 本当にごめんなさい、と改めて頭を下げてきた。


 その様子を見た隣の二人も「私もゴメン」「酷いことしたと思ってる……」と、一緒に謝罪してくる。


 俺は目の前に並ぶ三つの頭頂部に、慌てて手を振った。


「ちょ、ちょいちょい! 別に謝らなくていいから! そう言うの求めてないから……!」


 おずおずと持ち上がる三人の顔。

 まだ完全に罪悪感の拭いきれていなさそうなその表情を見て、俺は安心させるように少し笑った。


「結局のところこんな状況を作り出したのは俺に原因があるんだよ。俺がだらだら無気力に過ごして、そこらで噂されてることに何の弁明もしなかったから悪化したんだ」


 そう。

 俺はこの状況を他人のせいにするつもりは毛頭ない。


 確かに悪意を持って俺の噂を流布した元凶はいるのかもしれないが、そのごく一部の人間を除けば、原因を辿って辿って辿った先には俺がいる。


 結局は、俺の怠慢が招いた結果。


「だから、お前らが変に申し訳なく思う必要はないよ。ってか、勝手にそんなこと思われても困るまであるね」


 俺は肩を竦めてみせる。


「もし他にもそういう奴がいるなら言っといてくれよ。こうして普通に接してくれればそれで充分だってさ」


 な? と理解したかどうかの確認を取ると、三人はそれぞれの顔を見やってから気の抜けたように表情を綻ばせた。


「うん、わかった」

「ありがとね、諸星」

「まぁ、でも。残念なことに諸星くんの言う普通とはちょっと違う感じになりつつあるけどね~」


 一人の女子が可笑しそうに言うので、どういうことかと首を傾げると、代わりに隣の女子が意味深に答えた。


「ん~、なんて言うか。諸星って一周回ってアリだよねって感じになっててねぇ~」


 アリ?

 それは何の有り無し判定だ?


 と、そんなことを聞こうとした矢先――――



「ちょっと、こんなところで何の集まりかしら?」


 聞き馴染んだその声は、天羽のものだ。

 背後から聞こえた声に振り返ると、俺の聴覚機能が正しかったことの照明のように天羽が腕を組んで立っている。


 そして、


「大丈夫? トラブルとかじゃないよね?」


 なるほど。

 放課後に生徒会の用事でもあったのだろう。


 天羽の隣には、この英誠院学園高等部生徒会の副会長――陽葵が並んでいた。


 少し心配そうに見詰めてくる陽葵の姿に、俺は気付けば胸の奥を騒がしくしてしまっていた。


 それはもちろん、実が俺達が義姉弟であるという秘密を抱えている相手とこうして学園で鉢合わせてしまったということもある。


 しかし、一番の理由はやはり、今現在絶賛恋慕中の相手が目の前に現れたからだろう。


 俺が口籠っていると、後ろの女子達が代わりに答えてくれた。


「あぁ、違います違います」

「たまたま諸星くんの姿を見掛けたから話してただけで!」


 と、そう二人が真っ当に説明する中で、一人が可笑しそうに追加情報を提示。


「あはは。まぁ、話って言っても恋バナなんですけどね~」


 ピクッ。

 ピクッ。


 微笑む陽葵の眉が揺れ。

 腕を組む天羽の片目が一度痙攣する。


 え、何この空気。

 後ろの女子達は「変なコト言わないでよ~」と何やら楽しげに笑っているのに、目の前の二人は穏やかそうに見えて何故か怖い。


「じゃ、私達はこれで~」

「失礼しまーす」

「諸星くん、また明日」


「あ、ちょ……」


 一人にしないで……、と伸ばした手は空を掴み、女子三人の背中は玄関へと消えていく。


 俺は行き場のなくなったその手で後頭部を二、三度掻いて――――


「じゃ、じゃあ俺も帰るので――」

「――待って?」

「――待ちなさい」


 陽葵と天羽が同時に、去り行かんとした俺の制服の裾を掴んだ。


 これが反射神経の違いだろうか。

 俺の手は空を掴んだというのに、二人の手はこうもあっさり俺を捉えて離さない。


「つかっ――諸星くん、実はお願いがあって……」


 と、陽葵。


「今日、生徒会メンバーの欠員が多くて人手が足りないの。付き合いなさい?」


 と、天羽。


 うぅん、これは。

 断れる雰囲気ではなかった。


「……せ、誠心誠意お手伝いさせていただきます」

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