第45話 寒さとは裏腹に色々熱い時期らしい
まるで俺が九重に変な性癖を開拓したように捉えていた天羽に、それは誤解だと弁明プレゼンに熱を入れることになった昼休みのあと。
五限目の体育はバドミントン。
男女関係なく自由にペアを組んでのダブルスで、トーナメント戦形式によって試合が行われていた。
スパァーン!
タッタッ、キュッ!
パァアンッ!!
流石は名門私立と言わざるを得ない広い体育館に、シューズの底が擦れる甲高い音と、ラケットがシャトルを叩く小気味良い音が響いている。
試合を終えた多くの生徒が視線を向ける先のコートでは、ちょうど決勝戦の大詰めも大詰めだった。
男子二人のペアと男女のペア。
前者は両方運動部なうえに一人はバドミントン部ということもあって、大半の生徒がそちらの勝利予想を立てていた。
しかし、意外にも点数は拮抗したままの接戦で白熱し、それどころか男女ペアがマッチポイントを掴んでいる。
そのペアというのが――――
「さっすが【極星の女王】だよね~!」
「うんうん! 天羽さんカッコ良すぎ……!」
「勉強もトップなのに、運動も体育会系男子に張り合えるとかヤバいよなぁ!?」
そう。
ここ英誠院学園なら誰もが知る才女――天羽梓沙が片翼を務めているペアだ。
そして、その相方は――――
「マジきっつい……!」
冬であることを忘れて、全力で汗を掻いている俺だ。
キツイ。
本当にキツイ。
期末テスト後の一件のお陰で、多少は俺の印象も改善されたが、それでも学園において交友関係が狭いことに変わりはない。
そんなところに、出来れば避けたいグループワークの中でも、気まずさランキング首位を堂々獲得するペアワーク実施だ。
だが、辟易していた俺に天羽が、
『はぁ、貴方どうせ組む相手いないんでしょ? 仕方ないからこの私の片腕を務めさせてあげるわ』
と、誘ってきてくれたのだ。
可愛げのない言い方はともかく、俺としては非常にありがたい申し出だった。
まぁ、ペア締結までに――――
『え、でもお前、他の奴らから引っ張りだこだろ?』
『そうでもないわよ? 大抵の人は私と組むのを恐れ多く思って一線引いてくるから。私も私で、ぬるい相手と組みたくないし』
『つまりお前もボッチ?』
『違う。他人に依存してないの。孤高なの』
『はぁ』
『で、組むの? 組まないの?』
『組みます、組ませていただきます』
『最初からそう言えばいいのよ。あ、もちろん私と組むからにはお遊びの授業だからと言って手は抜かないように。目指すは優勝よ』
――と、そんな感じのやり取りがあって、俺も適当に『へいへい』と頷いたのだが……まさか、本当に決勝戦にまで残る羽目になるとは思ってもいなかった。
日々コツコツ筋トレや運動をこなしているから何とか食らいついていけてるだけであって、帰宅部には流石に荷が重い舞台だ。
「でも、さ。諸星くんも凄くない……?」
「あ、実は私も思ってた……!」
「だ、だよね! 余裕があるって感じじゃないけど、天羽さんと並んで戦えてるし!」
「なんかこういうの、カッコ良いよね……」
「わかるぅ……!」
予想だにしなかった接戦のお陰だろう。
遠巻きに観戦している生徒達もざわざわと盛り上がりを見せているようだ。
まぁ、正直そんなものを気にしている余裕は今の俺にはないが――――
「はっ、はっ――諸星……!」
「わかってる」
試合中に作戦会議など出来るはずがない。
だから、俺は天羽が掛けてきた一声で意図を汲み取る。
俺も天羽も流石に体力が厳しい。
このままラリーを続けていたらジリ貧だ。
とはいえ俺が決めにいったところで、運動部ペアには容易に返されるだろう。
決め球はやはり天羽に任せる。
なら、俺の役目は、天羽への決め球へと繋げるプレーだ――――
ドライブの攻防が落ち着いてからしばらくロビングのラリーが続いていたところで、俺は大きく振りかぶってロビングで打ち返す――フリをしてドロップショット。
ネットギリギリを狙えるほどのキレはない。
だが、突如としてロビングのラリーが打ち切られて驚いた相手が、その場しのぎの浮いた返球をしてくる。
バド部男子のテリトリーを狙っていたらこう上手くはいかなかっただろう。
運動部とはいえ、流石に返球の仕方にまで気を遣えるほど器用ではなかったようだ。
「天羽」
「任せな――」
持ち前の瞬発力で飛び上がった天羽が、頭の斜め上高い位置でインパクト。
「――さいっ!」
スパァンッ!!
獲物を狙うハヤブサの急降下の如く、鋭角にスマッシュが相手コートに刺さった。
「「「うおぉおおおおお!!」」」
「すっげぇ!」
「勝った!?」
「運動部ペア相手に~!」
ゲームセットの合図は、そんな生徒達のどよめきだった。
何とか勝ち切った安心感から一気に疲れが押し寄せて座り込んでいると、運動用にプラチナブロンドの長髪をポニーテールに束ねた戦友が右手を差し出してきた。
「よくやったわね」
「よくやらないとあとが怖いからな」
「……何か言ったかしら?」
「いえ、なんでも」
小さく笑って天羽の手を取ると引っ張ってくれたので、その力に助けられて立ち上がる。
「それにしても、汗掻いたぁ。寒いから大丈夫かと思ってタオル持ってきてないわ……」
取り敢えずは体操服で拭こうと、裾を持ち上げて顎に伝う汗を取る。
うぅ……チラリと出してしまったお腹に、冬の空気が冷たいよぉ。
「それはご愁傷様。まぁ、あの辺りで盛り上がっている子達に頼めば、もしかすると一人や二人くらいはタオル貸してくれるかもしれないわよ?」
天羽が腕を組みながらそう言って視線を向けた先を辿ると、女子数名がこちらを見て何やらヒソヒソと話していた。
一瞬陰口叩かれているのかと邪推してしまったが、どこか楽し気で悪意は感じない。
って、いやそうじゃなくて――――
「貸してくれるワケないだろ。話し掛けた瞬間『え、なに? わざわざ女子にタオル借りようとするとか変態じゃん。きっも』って罵倒される未来しか見えねぇよ」
ツッコミ待ちのボケかと思って自虐風に乗ってみたが、何故か天羽は肩を竦める。
「そう? 私には別の未来が見えているわ」
「というと?」
「まぁ、クリスマスも近いし――って考える子は多いって話よ」
うん、ゴメン。
ぜんっぜん、何言ってるのかわかんない。
これはあれ?
俺と天羽の頭の出来の違いを見せつけられた感じですかね?
結局、天羽が言わんとしていたことを理解する前に放課後がやってきてしまい。
俺は――――
「ねぇねぇ、諸星くんってさ。彼女いるの?」
「あ、気になる~」
「好きな人とかは? いる?」
女子数名に突撃インタビューを喰らっていた――――




