第43話 どんな顔して会えば良いのかわからないよぉ
《聖陽葵 視点》
『――俺、義姉に恋をしてしまったかもしれません』
『――まずは俺を一人の男子として見てもらえるように頑張ってみようと思います』
うっ……うぅ…………!
ど、どうしよぉ……!?
同日、夜。
明日の学校の準備も整え、すっかり寝る準備も済ませてベッドに寝転がっているというのに、睡魔が夢の国へのチケットをくれる気配が一向にない。
バタバタバタ。
熱を蓄えた顔は枕に。
居たたまれない脚はマットレスを叩きつける。
時間も時間なので、もちろん騒音は控えめに配慮しながら。
……はぁ。
まさか、司くんが私のことを……その、そういう風に想ってくれてたなんてなぁ。
……嬉しい。
うん、嬉しいって、思っちゃった。
多分私も、司くんのことを好きになっていたから。
純粋に家族として仲良くしたいっていう気持ちが、無意識のうちに段々……段々と、素敵な男の子だなって感じるようになっていて…………
「……気付いたときには、手遅れだったんだよぉ……」
というか、司くんはその気持ちを抑えるつもりでいたのに、つい背中を押しちゃったんだよね…………
自分で自分への恋路を応援するって、凄く変な感じだけど。
ドクッ、ドクッ、ドクッ…………
身体が熱い。
顔が燃える。
心臓がうるさい。
同じ家族として司くんと過ごした時間はまだ多くはないけど、それでも私にとって好意を抱くには充分な瞬間の連続だった。
家庭での問題、学校での問題。
司くんの境遇はとても順風満帆とは言い難いもの。
努力して結果を生み出す意義を見失って彷徨い歩き、根も葉もない悪意ある噂に傷付けられてきた。
ずっと、ずっとずっとあの懺悔室で向き合ってきた私が、一番よく知っている。
それでも司くんは再び前を向いて歩き出した。
手放していた絆を取り戻した。
逆境の中で努力して成績を取り戻して衝撃も与えた。
一見泥臭くも見えるかもしれない。
でも、義姉として、シスターとして傍で見続けてきた私の目には、とてもカッコよく映っていた。
目が離せない。
目を離したくない。
力になってあげたい。
苦しんだ分、甘やかしてあげるつもりでいた。
でも、昨日気付かされた。
私が支えて、甘やかすんだと思っていた司くんは、私の想像以上に頼りになって、大きな存在で……逆に私が甘やかされてしまった。
いつでも甘えて良いと言われて、頭を撫でられて、もう駄目だった。
甘やかしてダメダメにしてやろうと思っていた私の方が、逆にやられてしまった。
薄々どこかで自覚し始めていた気持ちが、あの瞬間に確信へと変わった衝撃は、この先忘れることはないと思う。
好き。
司くんが好き。
義弟じゃない。
もう、義弟には見られない。
一つ年下の男の子に。
諸星司くんに、恋をしてしまった。
「っ、りょ……両想いだよぉ……!!」
枕の中で悲鳴を上げる。
くぐもった悲鳴。
え、これって、私も司くんに想いを打ち明けたらもう……こ、恋人になれちゃうって、こと、だよね……?
ひゃぁ……どうしよう、どうしよう……!
私、どうしたらいい……!?
で、でも今、司くんの顔をまともに見られないよぉ……!
今日夕方に帰ってきてから、一度だってまともに司くんと視線合わせられなかったもん。
だ、だって。
懺悔室で半分もう告白されたようなもので。
その直後に家で二人きりになるんだよ……!?
どんな顔すれば良いのってなっちゃうよぉ……!
も、もちろん、司くんは私がシスターさんだって知らないわけだから、司くんの前では普通にしてればいいだけなんだけどさぁ……!?
な、何も知らないフリなんて出来ないよぉ~!!
と、というか、司くんがおかしいよ!
私が帰ってきても『あ、おかえり』だったよ?
懺悔室であんなに私への気持ちに悩んでおいて『あ、おかえり』!?
私なんてまともに司くんと顔合わせられないって言うのに、なんで司くんはあんなに平然としてられるの……!?
ぽ、ポーカーフェイスってやつ……?
平然としているように見えて心の中では動揺してる、とか?
うっ、だとしたら可愛すぎるよぉ……!!
……で、でも。
ちょっとは司くんも恥ずかしそうにして欲しいかな。
私ばっかり、ズルいよ。
ま、まぁ、司くんも自分を一人の男子として見てもらえるように頑張るって言ってたし、何かアプローチしてきてくれるってことだよね?
ふふ、楽しみにしとこ。
ちょっとは司くんの余裕なさそうな顔、見られるかな?
これでなーんか余裕そうにやってきたら、ちょ、ちょっとはやり返しちゃうんだからね……?
……でも、取り敢えずは私が耐えられるか、だよね?
まずはちゃんと司くんの顔見られるようにしないとなぁ。
「よ、よぉし……」
……。
…………。
………………。
って、眠れないよぉ~!!




