第35話 私のことそんな風に思ってたんだぁ
《聖陽葵 視点》
「――俺はしばらくシスターさんと会えなくて寂しかったんですけどねー? そっかぁ、シスターさんは何とも思ってなかったんですねー」
カーテンと格子状の壁を隔てた向こう側で、迷える子羊の司くんがどこかわざとらしく拗ねたような声を出す。
そんな司くんが可愛く思えて、意図しない間に頬が緩んでしまう。
「ふふっ、すみません。なんだか子羊くんとはあまり久し振りな感じがしなくて」
確かにシスターとしての私が司くんとこうして言葉を交わすのはテスト期間振り。
でも、私は聖陽葵として、義姉として、いつも司くんのすぐ傍にいた。
まあ、司くんは知らないもんね?
ふふっ、おかしいんだ。
家でも懺悔室でもこうして会ってるのに気付いてない。
でも、ちょっと複雑かも。
司くんにとって私とシスターは別人なワケで、司くんが久しく会えなくて寂しかったと思っている相手は、私ではなくシスター。
本当はどちらも私なんだけど……なんだか、聖陽葵という私が、シスターという私にヤキモチを妬いているような感覚になる。
――って、何変なコト考えてるの私!?
や、ヤキモチって……私、いつからそんな独占欲みたいなものを持つようになったの……!?
あぁ、もう。
しっかりしてよぉ、私ぃ……!
「――二人で夜にこっそり食べて、背徳感が最高のスパイスでした」
司くんがここ一週間のことを話してくれた。
もちろん、聞かなくても大体のことは知っているけど、シスターとしての私がその内容を知っていたら司くんはビックリしてしまう。
エスパーですか!? とツッコミを入れられそうだ。
でも、義姉としての私の話を楽しそうにしてくれるのは、凄く嬉しいな。
やっぱり、まだまだ関わって月日が浅いし、私も家族として、義姉として、司くんに正しく接することが出来ているか不安だもん。
そして、多分それは司くんも同じ。
本当はこうやってシスターの仮面を被って、私に対する思いを聞き出すことには罪悪感を感じてしまうんだけどね。
でも、この調子なら私に対して何か不満があるとかではなさそうで、良かった。
「ふふっ、お義姉さんと上手くやれているようで安心です」
「まぁ、困ることもありますけどね」
「えっ……そ、そうなんですか……?」
う、うっそぉ……!?
私、何かやっちゃったかな!?
気付かない間に、司くんに嫌な思いをさせてたかな!?
あぁ、安心するのはまだ早かったよぉ……!
何だろう。
こういうことこそちゃんと聞き出して、私の行動を改めないと――――
「何と言うか……可愛すぎるんですよね」
「……はぇ?」
え、今なんて言った?
司くんが、私のこと――――
「めっちゃ可愛いんですよ、ウチの義姉」
「~~っ!?」
なっ、なななっ……なになに……!?
え、司くんだよね?
この壁の向こうにいるの司くんで間違いないよね?
わ、私のこと、かっ……可愛い、とかって……思ってくれてたんだ……?
はわぁ……顔熱いよぉ……。
……でも、それって困ることなのかな?
私としては、う、嬉しいことなんだけどな。
「ただ、これが結構厄介なことに本人無自覚系で……自分の可愛さが周りにどんな影響を及ぼすかまったく理解出来ていなくて……」
えっ、なになに?
私って歩く公害か何かなのぉ……?
「無防備すぎてドキッとするんですよ……」
む、無防備……?
思わず首を傾げてしまっていると、壁越しにため息が聞こえてくる。
え、私がピンと来てないこと、バレてないよね……?
「――あの人めっちゃ距離感近くて気付けば頭撫でてきたりスキンシップしてくるし、ふとした瞬間の上目遣いなんか【秘奥】聖女式極上悶絶昇天対人眼光とかいう確殺攻撃だし、油断してるときチラチラ見えてはいけないものが見えたりして……!」
ひ、秘奥?
聖女式……昇天……眼光……?
え、何その物騒な単語……?
それはよくわからないけど、確かに私スキンシップは多いかも……?
油断してるときに見えてはいけないものが見えるって言うのは……むぅ、それは家だし、私だって気を張っておきたくないし……それに、別に司くんになら…………
と、ともかく。
それに関しては、ちょっと司くんが気にしすぎなんじゃないかな……!?
ま、まぁ、年頃の男の子だし……気に、しちゃうものなのかな……?
……えっち。
でも、なんだろう。
司くんの話しぶりからして、困っているけど不愉快ではないってことだよね?
もし、そうなら…………
「――い、いいのでは、ないでしょうか……?」
「えっ、いいんですかっ!?」
うぅっ……自分で許可みたいなものを出すのも恥ずかしいなぁ。
でも、私は別に気にしないし。
というか、司くんが私のことを可愛いって思って見てくれてるって知って、どこか嬉しい自分がいるし…………
も、もちろん、だからといって私のことをえっちな目でジッと見てくるのは困るけど、ちょっとくらいドキドキしてもらうのは……わ、悪くない、かも……だし……?
「す、少なくともわたっ……お、お義姉さんは好きでそうやって子羊くんと関わろうとしているはずですから……」
「その心は?」
り、理由かぁ。
そりゃ、私が本人だからなんだけど、そんなこと言えるワケもないし…………
そうだなぁ。
やっぱり、こうなるのかなぁ。
も、もちろん、他意はないけどね……?
「子羊くんのことを好意的に見ていないと、そういう距離感にはならないはずですから……」




