第34話 シスターさんの助言ほど心強いものはありませんよ
「――それで、今日の相談は結局、お義姉さんの距離感が近くてドキドキする、ということで良かったのでしょうか……?」
「あぁ、いえ。実は相談に乗ってもらいたいことは別にあって……」
久し振りにシスターさんと話せた嬉しさからついテンションが上がってしまっていたのと、話の流れで陽葵の無防備さについて愚痴ってしまったせいで、危うく本題を忘れるところだった。
そう。
俺が今日この場所に足を運んだのには別の理由がある。
とはいえ、それも結局陽葵関連の相談になるので、先程までの話の流れから繋げやすくて助かった。
「実は、その義姉と明日スイーツを食べに喫茶店に行くことになっているんです」
「へ、へぇ……デート、ですね?」
「いやいや、ただのお出掛けですよ」
「年頃の男女が二人きりでお出掛けするんですから、デートではないですか?」
おぉっと、シスターさんはもしかして男性経験があまりおありにならない様子。
見えていないのをいいことに、俺は澄ました笑みを浮かべて首を横に振った。
「シスターさん、今回は珍しく俺から一つ教えてあげましょう。いいですか? そりゃ俺だって女子と――それもとびきり可愛い相手と二人きりで出掛けられるんです。めちゃ嬉しいですし、内心では『いやこれもうデートで確定だろ』と思ってますよ」
「か、かわっ……」
「ですが、それは胸の内に秘めておかないといけないんです。もしこれをあからさまに表に出していたらどうなるか……」
「こ、コホン。どうなるんですか?」
「女子はこう思います――『えっ、あぁいや、別にデートとか大袈裟なもののつもりはなかったんだけど。ってか、一緒に出掛けたくらいでデートとか……ハッ、いかにも非モテって感じ』と」
気怠い雰囲気で、やや鼻に掛かった声で、呆れた感じを醸し出しながら漠然としたイメージを演じてみせた。
我ながら迫真の演技。
もしカーテンで遮られてさえいなければ、曖昧に笑いながらちょっと流し目に言っている表情まで再現してあげたのに、残念だ。
さて、これを聞いたシスターさんの反応は…………
「えぇっと……経験談ですか?」
「ぐっはぁっ……!!」
純粋なシスターさんの疑問が、俺の豆腐メンタルを深く抉った。
危ない危ない。
致命傷になるところだった。
もしこれを本当に経験談として持っていたら、もう再起不能だった。
「い、いえ、流石にこんなことはなかったですし、ちょっと誇張はしましたが……とはいえ、こうならないために俺は変な思い上がりをせず、お出掛けはお出掛けでしかないと受け止めているんですよ」
もちろん陽葵がまんまこんな風に思うとは俺も考えていないが、思い上がった哀れな男子に対して、このように思う女子も少なくはないだろう。
私そんなつもりじゃなかった、というやつだ。
その点俺の周りの女子はわかりやすくて助かる。
玲美とは小さいことから何度も、天羽とも中等部の頃に数回遊びに出掛けたことはあったが、いつもハッキリ明言してくれる。
玲美の場合は――――
『司、その……ちょっと付き合って欲しかっただけで、別にデートとかじゃないから……そこんとこ、よろしく』
天羽の場合は――――
『か、勘違いしないでほしいのだけれど。コレはあくまで交友を深めるための一環としてプライベートの一部を貴方とシェアしているだけ。そう、ただのお出掛け。それ以上でも以下でもないから、変な勘違いはしないように。い、いいわね?』
――といった具合だ。
デートではなくお出掛け、とあらかじめそう明言しておいてもらえると、俺も気が楽で助かったものだ。
いやぁ、良い友人に恵まれたな、俺。
「うぅん、そういうものでしょうか……」
「そういうものですよ」
イマイチ納得しきれていない様子のシスターさん。
まぁ、もしかしたら本当はデートのつもりなんだけど、そうと認めるのは恥ずかしくて素直になれないからただのお出掛けという建前にしておく、なんていういじらしい女子も中にはいるのかもしれない。
だが、そんな可能性を考えていたら、それこそ思春期真っ只中の男子は「コイツもしかして俺に気が!?」とか「ツンツンしてるけど実は!?」とか儚い幻想を夢見てしまうことになるのだ。
止めとけ止めとけ。
九割方そんなことはないし、残りの一割の可能性をお前が引き当てることはない。
――と、俺は戒めのように自分に言い聞かせる。
「あっ、また脱線してましたね。えっと、それで相談なんですけど、このお出掛けは義姉への恩返しみたいなものなんですよ。だから、明日のお出掛けを最高に楽しんでもらえるようにしたくて」
「こ、子羊くん……」
「そこでシスターさんのアドバイスが貰えたら嬉しいなって思って来たんです。何となく、シスターさんって義姉と雰囲気が似てるので、義姉の気持ちもわかるかなぁって」
「そ、そうなんですね……!? へ、へぇ、私と似て……な、なるほどなるほど……ほほぉう……」
何かシスターさんが動揺しているように感じるが……まぁ、気のせいだろう。
「もちろん目的地は喫茶店なんですけど、その道中とか店を出たあととかに多分どこかに寄ったりする流れになるじゃないですか。そのときにこう……何かしたいというか……」
何かしたい、というあまりに漠然としすぎた言葉しか出てこなくて自分でも恥ずかしくなってきたが、それくらいどうすれば陽葵が喜んでくれるのかがわからないのだ。
まだ、あまりに陽葵と関わった時間が短い。
そのうえ、ある意味どんなことでも喜んでくれそう――それがもしあまり嬉しいことでなくてもそう振舞ってくれそうなので、余計に不安なのだ。
「こ、子羊くんのお悩みは理解しました。そ、そうですねぇ……」
シスターさんが唸りながら考える。
「例えば、そう……手を繋ぐ、とか?」
「シスターさん、相手は義姉です……」
「あ、あぁ、そうでしたね。そうでした……」
例えばこれが付き合いたてホヤホヤのカップルとかの場合であれば、男から思い切って手を取れば喜んでくれるだろう。
しかし、義姉――これから家族になっていこうとしている相手にそんなことをしたら、自分のことをそういう目で見ているのかと警戒されかねない。
「……わかりました。では、こういうのはどうでしょうか――」
告げられたシスターさんのアドバイスを、俺は明日活かすためにしっかりと脳内メモに一言一句漏らさず書き留めたのだった――――




