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種族チート持ちなのに無双できないヒロインは、静かに居場所をつくる(仮)  作者: 東雲 小百合


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5. 魔族の天才転校生

リュカが不意のときめきに(ほう)けている間に、三人目の転校生の紹介が始まった。


「最後に、イスヴァルから来たヴァルクリストだ」


イスヴァル、という単語が出た瞬間、教室の空気が一気に引き締まった。

それは極北の大陸にある魔族の国であり、かつてノーア王国を含めた諸国と戦争をしていた国ーーいわば人間族の敵の名だ。


少年の、人間にはありえない紫がかった空色の髪や尖った耳、そして縦に裂けるような瞳孔を持った金色の目。どれをとっても、いかにも魔族的な特徴だった。

先程からノーア貴族達は、英雄の孫と魔族の転入を見てとって騒いでいたのか、とリュカは遅れて理解した。


「ランクはーー驚くなよ。なんとAAランクだ!!」

「なんだと!?」

「馬鹿な!!」


緊張感が高まる中、魔族の少年のランクが告げられると、何名かの生徒が堪えきれずに叫び声をあげた。

中等部3年への進級時点でのAAランクとなると、さすがに前例も少なくなってくる。卒業要件であるAランクと、それを超えた優秀者の証明であるAAランクとの間には、それなりに大きな壁があるからだ。


そもそもランク認定の機会が年一度であることや、中等部入学からの2年間だけで指定の授業を取り切るのが難しいこともある。加えて何より大きいのは理論・研究系の授業の比重が上がることだろう。

年齢による発達的な問題もあって、それらの難解な授業で必要な点数を取れる生徒はそうそういない。


転校生の場合、転入試験と前の学校での成績等が考慮されてランクが決まるため、実際に彼が学園の指定授業で単位を取得した訳ではない。

それにも関わらず、AAランク相当として認定されたのだ。彼が何十年に一度の逸材であるということだけは、疑いの余地がなかった。


(・・・本物の天才が来た。わざわざ最後に紹介したのは、そういうことか・・・)


リュカからすれば、もはや妬む気力も起こらなかった。

正直に言えば、魔力頼みのリュカにとってAAランクは座学系の追加点が必要な分ハードルが非常に高く、これから死に物狂いで勉強して、ようやく到達できるようなものだったのだ。少なくとも今年度末の取得は無理だろうと見積もっていた。

今の自分にはまだ超えられない高い壁を、同い年にして既に超えている存在。少なくとも今まで学園の同学年にはいなかった、明らかに圧倒的に優れた存在。

そんな存在を前に、何を思えばいいのだろう。


「ヴァルクリスト、お前も一言自己紹介して、席に着いてくれ」


ゴンズリー先生に促され、少年はその猫のような金色の目で教室全体を見渡した。


「はじめまして。セレス・ヴァルクリストと申します。趣味は読書です。

遠方からの転入になりますが、皆さんと同じ教室で学べることを楽しみにしていました。

至らぬ点もあるかと思いますが、どうぞよろしくお願いします」


まだ声変わり前の、優しげで少しだけ高い声だった。

ゴンズリー先生に小声で「良い挨拶だったが、学園では同学年には敬語は使うなよ」と言われ、ニコニコと次から気をつける旨を返している。


周囲の反応を待たずに席へ向かう彼を、リュカはまじまじと観察してみる。それほど上背もなく細身の身体つきに、少しクセのある長めの髪。全体的に中性的な印象を受ける。


(全然強そうに見えない・・・けど、上手く魔力を隠してるんだろうな)


彼は迷いのない足取りで平民・外国人・異種族達が座っている方に来ると、比較的前方に座っている生徒に声をかけた。


「ここ、座ってもいい?」

「えっ?!・・・ど、どうぞ」


答えたのはノーア王国の平民の男子生徒だ。視線に含まれた恐れに気づいたのか、少年はその男子生徒より前の、誰も座っていない列の席に腰掛けた。

魔族との戦争が終わって数十年。当時を知らない世代であっても、語られる戦争での悲惨な記憶は、魔族に対する負の感情を生みやすい。

ましてや、その魔族がAAランクでわざわざ転入してくるような、得体の知れない強者ならば。


(なんで転入して来たんだろう・・・)


その後も新学年のオリエンテーションは続いた。


「以上で新学年オリエンテーションは終わりだ。明日から履修登録期間が始まるから、どの授業を履修するか計画を立てて過ごすように。

・・・あとは、飯でも食って転校生達との交流も深めろ」


そう言ってゴンズリー先生が教室を出ていくと、教室内に一瞬不自然な沈黙が落ちた。


「ユミア様、そろそろお昼時間ですので、食堂にご案内いたしましょうか?」

「学園の食堂は庶民風でお見苦しいところもあるかと存じますが・・・」


ノーア貴族達が沈黙を破り、王女を中心とした大所帯で教室を出て行った。


「おれ達も行こう」

「そうだな、腹も減ったし」


逃げるように出て行ったのは、普段リュカ達とさほど交流がない方の平民・外国人の男子を中心としたグループだ。

教室にはリュカのいつもの友人グループと、二人の転校生が残された。


「えーと・・・ヴァルクリストさん、私達でよければ食堂まで案内するよ。一緒に行く?」


気まずい沈黙を振り払い、リュカは魔族の少年に声をかけた。


「ありがとうございま・・・ありがとう。

あ、僕のことは名前で呼んでほしいな」


彼の申し出は、学園のルールに反したものではない。

学園の公的な場では名字にさん付けが原則だが、私的な場であれば生徒同士が名前や名字の呼び捨てで呼び合うことが許されている。


身分が下の者は上の者の許可なく話しかけてはいけないとか、そう言った礼節の違いから起こる摩擦を排除するためのルールであるため、礼節が自発的に簡略化されることについては特に制限がない。

逆に、例えば様付けなどの尊称や敬語を要求するようなことは、外部の身分秩序を優先する行為として、たとえ私的な場であっても禁じられている。


「わかった」


思いがけずにこやかな反応が返ってきたが、友人達はまだ微妙にどうしたらいいかわからない顔をしている。特にレイは彼が隠しているらしい魔力まで感知してしまって、余計に緊張しているのかもしれない。

唯一、隣で「爽やか優等生系イケメン尊い・・・」とつぶやいている別の友については、完全に通常運転なので心配しないことにした。

リュカは心の中でよし、と気合を入れると、離れた席で静かに荷物をまとめているもう一人の転校生に声をかける。


「イールワードさんも、一緒に行く?」


穏やかな青い瞳がリュカを捉え、ほんのわずかに細められた。

なんとなく安心感を覚える、不思議な瞳だ。


「ありがとう。助かる」


こちらに向かってきた彼は、少し考えるような素振りで立ち止まり、こう付け加えた。


「俺も、名前呼びでいい。

あと、学園について色々聞かせてもらえるとうれしい」


話し方は淡々としているが、異種族を含んだグループに誘っても素直にお礼を言い、頼ってくるのだから、やはり異種族に敵対的な人ではなさそうだ。

リュカは自分も自己紹介をすべきか一瞬悩んだが、まずは食堂に向かうことを優先しようと思い、頷きを返した。


「わかった。じゃあ、まずは食堂へ行こう」

「食堂は色々な料理があって、結構自由に選べるんだよ。早くしないと人気の料理がなくなっちゃうかも!」

「着いたら二人の話も聞かせてね〜」


ようやく友人達もいつもの調子を取り戻したらしい。

何を食べようか、などと明るい声で話しながら、リュカ達は急ぎ足で食堂へ向かった。

セレスの髪色:

セレストブルーくらいをイメージしています。

(R(赤):160 G(緑):210 B(青):242)

でももう少し紫みがあってもいいかな。



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