2. この国で最も高貴な少女
話の区切りの関係で今回は少し短めです
新年度初日の朝、アルダーワース王立魔法学園の大講堂に、全校生徒が集められた。
「なあ、年度初日に全校集会なんて初めてじゃないか?」
「知らないのか?今日は・・・」
通常、年度初日には学年ごとの集まりがあり、そこで担任や転校生の紹介、休暇中の課題提出などが行われる。
大講堂は中等部・高等部の入学式で使われるはずだが、式に参加するはずの新入生達までまとめて集められている。
いつもと違う状況にとまどう生徒が多い一方で、訳知り顔で耳打ちするのはこの国の貴族階級の生徒達だ。
「リュカ、もう聞いてる?」
「いや、何も。一体どうしたの?」
リュカは友人から事情を聞こうとしたが、ちょうど司会を務める副学園長が話し始めてしまった。
「本日、我々は新たな年度を迎えた。今日から諸君は、それぞれ新しい学年、新しいランクのもとで授業を受けてもらうことになる。
新入生諸君にとっては、学園生活の始まりの日である。
各自、学園生としての立場を自覚して、日々の自己研鑽に努めるように」
副学園長は厳格な人柄で有名で、威厳に満ちたその声を聞くだけで、自然と背筋が伸びる。
自己研鑽に努めよ、というのは彼の口癖のようなものだった。
いつもどおりの簡潔な挨拶の後、彼は厳かに言葉を続けた。
「学園生としての立場とは何か。能力と責任はどうあるべきかーーこのことは、我々が常に問い続けるべき問題である。
高い地位、そして優れた力を与えられた者が、いかなる自覚を持つべきか。
本日ここにお越しくださったお方は、ここに集う誰よりも、それを深く理解しておられるお方だ。
我らが偉大なる王ノーアによって拓かれ、
強く、誇り高き一族の住まう、永久に栄えたる王国。
その正当なる血を受け継ぐ、ノーヘイン王家よりーー
第一王女、ユミア・エデリン・フロレア・ノーヘイン殿下にご挨拶を賜る。
王女殿下、どうぞこちらへ」
副学園長の声が止んだ瞬間、空気が変わった。
元々、咳払いひとつ許されない空気で静まり返っていた大講堂から、わずかに残っていた音すらも消え去ったかのようだった。
布が擦れる音も、靴底が床に触れる気配もなく、誰もが無意識のうちに息を潜めている。
副学園長の視線の先、この国で最も高貴な少女は、言葉の代わりにわずかに頷きを返した。
壇上にあがる歩みに迷いはなく、その顔はかすかに微笑んでいるようにも見える。
「はじめまして。ノーア王国第一王女、ユミア・エデリン・フロレア・ノーヘインです。
本日より、中等部三年生としてこの学園に身を置き、みなさんと同じ一学徒として学ぶことになりました。
未熟な身ではありますが、持てる者としての在り方と責任について、共に学んでいきたいと思っています。
よろしくお願いします。」
魔法を学ぶ学園に来て、持てる者としての在り方と責任?
そもそも、なぜ突然第一王女が?
リュカの頭に浮かんだ疑問は、一部の生徒による拍手でかき消された。
「王女殿下、万歳!」
「ノーア王国、万歳!」
礼を失しないよう、声量を非常に抑えてはいるものの、感極まったような歓声もちらほら聞こえる。
今の挨拶のどこに感激する要素が?と、冷めた思いで見回してみると、拍手や歓声の主はやはりというべきか、ノーア王国の貴族階級の生徒達だ。
対して外国人や異種族の生徒達は、不思議そうに首を傾げたり、眉をひそめたりしている。
王女の挨拶も、副学園長の言葉も、少し抽象的ですぐには理解できなかった。それでも、なんだかきな臭い気配だけははっきりと感じ取れた。
ノーア王国では何十年か前まで魔族と戦争をしていた影響で、今も魔族を筆頭とした異種族への悪感情が強く残っている。その戦争を主導していたノーア王家は、人間を最上位とし、異種族を統制の対象として扱う姿勢を今も崩していない。
身分制度を撤廃し、議会制へと移行した国も多い中で、ノーア王国はいまだに王政を敷き、王族を頂点とした身分制度を厳然と残している。
いずれも、この学園が掲げるーーあらゆる身分・国籍・種族の平等という理念とは、真逆の考え方だ。
(能力と責任を、やけに強調してたな。
身分の話なのか、それとも、特別生に何か新たな規範でも課そうとしているのか・・・?
何にせよ、これからもっと息苦しくなるのは間違いなさそうだね・・・)
解散し、各自の学級へ向かうように指示する教師の声を背に、リュカは大きく息を吐いた。
色々と説明不足な部分も多いかと思いますが、追々話の中に出てくる予定です。




