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種族チート持ちなのに無双できないヒロインは、静かに居場所をつくる(仮)  作者: 東雲 小百合


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1. 高魔力バカの少女と変わった少年

世界のどこででも、「学園」といえばアルダーワース王立魔法学園を指す。


長い歴史を持ち、国内外から優秀な生徒達が集うアルダーワース王立魔法学園において、Aランクというのは一つの大きな目標である。

学園では主に修得した授業の種類と単位数によって、生徒がランク分けされている。中等部に入学してすぐはGランクで、1年の学年末にFランク、2年の学年末にEランク・・・とランクが上昇していき、高等部3年の学年末にAランクをとって卒業、という流れが一般的となっている。

とはいえ、必修科目以外は自由に授業を選べるため、難度の高い授業で優秀な成績を修めることを重ねれば、短期間で高ランクに到達することもできる。

例えば、リュカ・エリュアールのように。


リュカ・エリュアールは、中等部2年の学年末のランク認定でAランクを取得した。

学園の生徒はAランクを取得しなければ卒業できないが、別にAランクを取ったからといって、すぐに卒業する必要はない。むしろ優秀な生徒は早めにAランクを取得し、残りの時間でさらに高い技術や知識を得ようと励むものだ。

多くの高等教育機関には18歳(成人)にならないと入学が認められないこともあり、学園に残って優秀な教師陣やライバル達と切磋琢磨することには一定の意味があった。


そのように、Aランクを取得後も学園に残ってより高いレベルの授業を受ける生徒達のことを「特別生」と呼ぶ。


学期の開始前に行われる特別生用の授業説明会は、リュカにとってまるで針の筵だった。

説明会に参加するのは今年度特別生になった生徒達だが、リュカ以外は全て高等部の生徒である。色の違う中等部の制服は嫌でも目立ち、しかもリュカは見るからにーーとにかく目立つ髪なうえ、目も深い紅のーー異種族。たとえ何も知らない生徒がいたとしても、一目で状況がわかるだろう。


「この異種族、中等部のくせに特別生になったのか?」

「知らないの?魔法の天才、中等部のエリュアール・・・魔法学の先生達に随分可愛がられてるらしいわよ」


学園では身分も国籍も種族も問わず全ての生徒は平等である、というのが建前だが、誰もがその建前を守っている訳ではない。特にこの国の貴族階級出身者には異種族嫌いが多く、いかにもな異種族で平民のリュカに対しては、遠慮なく敵意が向けられるのが常だった。


「はっ!天才なんて言うけどな、魔法学以外の成績は並だって聞いたぜ。ようは異種族によくいる高魔力バカだろ?」

「だろうな。本当の天才ってのは、うちの副学園長みたいな人のことを言うんだ。副学園長は中等部3年になる時にAAAを取って早期卒業して、高等教育に進むまでは研究に励んでいたそうだぞ」

「まあ、さすが副学園長先生だわ・・・やはり高魔力頼みの下等種族とは頭の出来が違うわよね!」


同学年の誰よりも早くAランクを取得したとはいえ、種族等を理由に蔑んでくる者達の態度はそう簡単には変わらない。その中でも、特に教師や特別生というのは厄介だった。

彼らは何かしら目に見えて秀でたものを持っていて、その上でこちらの弱い部分・劣っている部分を的確に見抜いてくる。

リュカ自身、魔法系の授業のおかげでAランクを取れたものの、他の成績はそれなりに優秀な程度であるという自覚はあった。剣術も武術も、ある程度魔法で補助していてそれなのだ。生まれ持った高魔力や魔法制御力がなければ、優秀者ばかりのこの学園では埋没していただろうと思うし、そもそも入学できたかも怪しい。


(異種族によくいる高魔力バカね・・・言ってくれるじゃん。本当に、腹立つ・・・。)


誰かから見れば信じがたい快挙であっても、別の誰かから見れば“とても優秀な生徒”によくある躍進に過ぎない。

学園の教師ーーかつて彼ら自身も“とても優秀な生徒”であり、高等教育機関を経て学園に戻ってきた本物の実力者達を比較対象としてみれば、たしかに中等部3年でのAランク取得はそこまで驚くほどのことでもない。むしろ人間より高い魔力を持つ異種族ならば、人間よりも取得は容易なはずだ。


・・・そういうことにしておかなければ、上級生達は自分の矜持が保てないのだろう。

卒業前にAランクを取得できたことを喜びたいのに、自分より遥かに早くAランクを取った生徒(しかも異種族)がいるせいで喜べない・・・そんなことは、仕方のないことだと受け入れて、ただひたすらに自分の実力を高めていくしかないのに。

彼らだって高い魔力や優れた魔法制御力を持って生まれ、恵まれた環境に育ってきたはずだ。それを棚に上げて他人の努力に砂をかける方が、よほどみじめだとは思わないのか。

・・・言ってやりたいことは山ほどあったが、言っても何も変わらないことはもうわかっている。なかば八つ当たりのように悪意を向けられることにも、最近は慣れてきてしまっていた。


「この学園で学びとれる最良のものをもって、次の道へ進めるよう準備をしてほしい。では、また特別授業で会おう!」


授業説明会は粛々と進行し、最後は教師による激励で幕を閉じた。

リュカにとって幸いなことに、説明会の担当教師は共存派のーーつまり身分や国籍、種族を平等に扱うというこの学園の理念に忠実な教師だったため、説明会の最中に教師からも当て擦りを言われるという事態は避けられた。

特別生のみが受講できる発展的な授業についての説明を聞けばワクワクしたし、より高いランクを目指すためにこれからどうするべきかの良い指針になった。


(・・・Sランクを目指そう。私にできるのはそれだけだ。)


不毛な輩にからまれるのを避けるためにも、リュカは真っ先に教室を出る。

説明会が開かれていたのは職員室や学園長室のある、職員棟の教室だ。異種族嫌いの教師に出会うと厄介なので、早めに寮に帰りたい。

早足で歩くリュカに、たまたま通りがかった顔見知りの教師が笑顔で声をかけた。


「エリュアール、Aランクおめでとう。よくがんばったね。」

「先生、ありがとうございます!」


祝福の言葉に笑顔で応えつつも、気分は晴れなかった。

Aランクをとっても何も変わらない。むしろ、上級生からの嫉妬が悪化してしまった。

気にしないように努めていても、ふとした瞬間に心無い言葉の数々が思い返される。


うつむいたまま廊下の角を曲がると、その先に一人の少年がいた。

この国では見かけない黒い髪を見るに、おそらく外国人なのだろう。

少年と呼ぶには大人びた雰囲気の彼は、リュカに気づくと立ち止まり、こちらをじっと見返してくる。


「・・・銀、髪?」


ひとりごとだったのか、それとも話しかけているのか。表情に驚きをにじませてこちらを見ている少年に、さしあたり敵意は感じられない。

静かな青い瞳にかすかに安心しつつ、リュカは苦笑いしてみせた。


「あぁ、この髪の色、珍しいよね。プラチナブロンドともまた違って、なんか目がチカチカするっていうか・・・私の種族の特徴なんだ。」


リュカの髪の色は、一般的に銀髪と表現される。色はほとんど白に近く、金属のような光沢のある美しい髪だ。そして角度によっては、その銀色の中に淡い虹色が踊るのが特徴的だった。リュカの師匠はよく「お前の髪はオパールみたいで綺麗だね」と言ってくれたものだ。

しかしこの国では遠い異国の珍しい宝石(オパール)を知っている人はほとんどおらず、ただ異種族の象徴として気味悪がられている。

そのことを思ってわざと、少し卑下するような言い方をした。


「そうか・・・初めて、見た。すごく綺麗だな」


だからこそ、少年が発した素直な褒め言葉に、逆に驚かされた。

驚きながら何度も相手の気配を確認したが、間違いなく人間の気配。

異種族ではない、初対面の人間に、肯定的な態度をとられるのは初めてのような気がする。


「あ、ありがとう」


それに普通、自分たちのような年齢の、しかも男の子というものは、こういうことを言わないものではないだろうか?

なんだか気恥ずかしくなったが、言っている方は淡々としているので、こちらもなるべく平静を保とうと顔の筋肉に力を入れる。


「転校生?」

「ああ・・・職員室に行く」

「そっか。職員室の場所はわかる?」

「大丈夫」


決して愛想がいい訳ではないけれど、普通に会話しているというだけで、なんだかホッとしてしまう。

最近悪意を向けられてばかりだったから、だいぶ疲れていたらしい。


「・・・それじゃあ、また」


少年はスッと軽く頭を下げると、職員室の方へ歩き出した。異国風の礼が物珍しく、なんとなくその姿を見送る。


(・・・「また」?)


少年は静かな足取りで廊下を曲がっていく。

確信に満ちた言い方からするに、おそらく同級生になるのだろう。

リュカはその背に向かって、次会う時も彼が普通に話してくれるよう、そっと願った。

髪の虹色はシャボン玉みたいな原理なんですが、このファンタジー世界、シャボン玉が一般的な世界線ではなさそうなので、オパールで説明しています。

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