11. イケメンと恋の話
今回はまったり女子会回です
「・・・という事があったんだけどさ」
リュカが特別生向け魔法理論学での出来事を友人達に話すと、返ってきた反応は三者三様だった。
「セレスくんが戦闘狂で、アランくんが紳士なんだ・・・意外」
「割りに行くんじゃなくて、通り抜けるって発想なのかぁ・・・」
「嘘でしょ、爽やか系優等生イケメンに腹黒属性まであるなんて・・・美味しすぎる・・・。
あ、アランくんが良い人でよかったね」
メイだけは一瞬別の世界に行っていたようだが、すぐに戻ってきた。
「アランくんがリュカの魔法破ったって、ちょっと信じられないよ。イスヴァル先輩も、セレスくんも無理だったんでしょ?」
「そうだね、あの二人の魔力量を超えてるとは思えないけど」
「さすがはイールワードってことか・・・害意のない《魔力弾》なんて」
「魔力制御がすごいんだろうね。あの後みんな教えてもらってたけど、誰もできてなかったし」
そうなのである。
ゴンズリー先生による理論的な説明の後、各自で魔法のアレンジを考えることとなり、アランに教えを教えを乞おうとする生徒も多かったのだが、誰も彼の魔法を再現できなかったのだ。
「まぁ・・・ドーン!じゃなくスーッだ!みたいな説明だけでできる方がおかしいというか」
「フィリアもたまにそんな風になってない?」
「人間族の英雄バルダシルがそんなに感覚派だったとは・・・」
「おじいちゃんの教え方、可愛いよねぇ」
「うーん、バルダシル様のイメージが崩れ・・・あっ、でも結構そういう逸話あったっけ」
落ち着く場所での、気のおけない友人達との会話に、美味しいお菓子。最高だ、とリュカは思う。
ガリガリと精神の削れた授業の後は、こういう癒しが必要なのだ。
「それにしても、セレスくんも戦闘狂だったとは、意外だね」
「さすが魔族って気もするけど」
「強さこそが価値、ってやつ?」
一日の授業が終わった後、女子寮の談話室で過ごす時間は、周囲の目を気にせずに過ごせる貴重な時間だった。
中等部女子寮には大小5つの談話室がある。一階には全学年共用の大きい談話室があり、各階に学年ごとの中くらいの談話室、そして階段上の空きスペースに小さな談話室が一つである。
リュカ達がいる最上階の小さな談話室は、元は倉庫として使われていた場所で、暖炉がないため冬は寒く、狭くて質素な造りの場所だ。
一応は上級生用ということになっているが、ノーア貴族達はここを「屋根裏部屋」と揶揄して、共用の大きな談話室や各学年用の豪華な談話室ばかりを好んで使っている。
とは言え、この小さな談話室にも良いところはたくさんある。
レイに言わせれば簡易的な施錠が可能なところ、メイは内装が質素で落ち着いているところ、フィリアは明るいのに静かなところがいいと言う。
リュカは天窓から星が見えるところがいいな、と思っている。
今夜も星が綺麗だ。
「魔族ってみんな戦闘狂なの?」
「その傾向が強いらしいね」
「うわぁ・・・」
数日前から色々と私物を持ち込んで様子を見ていたが、今年はほぼリュカ達専用の空間として使えるとみてよさそうだ。
これまでは誰かの部屋に集まっていたので、こういう秘密基地めいた空間というのはとてもワクワクする。
なお、レイによる盗聴遮断魔法も展開してあるので、多少迂闊な発言をしても安心である。
「っていうか、ヴァルクリストって公爵家の名前だったんだね。さすがに魔族の家名は知らなかったなぁ・・・」
「イスヴァル先輩の尻拭いってのがねぇ。どうせ打つなら、もっと早くに手を打つべきだったと思うけど」
「もう散々やらかしてるもんね」
魔族の王子相手にも容赦はない。
ルシアード自身と交流はないが、色々とリュカの愚痴を聞いているため、その印象が強い三人だった。
「結局アランにばっかり人が集まってたしなぁ」
「イールワードの技術を間近で見られるのはいいなぁ」
「はぁ、わたしも爽やか優等生イケメン(腹黒)に指南されたい・・・」
「・・・メイがあそこにいたとしたら、まずはイスヴァル先輩に結界割られて『俺様色に・・・』って言われるけど」
「それは嫌・・・」
メイは露骨に嫌な顔をしている。
「イスヴァル先輩もイケメンなんじゃないの?」
「セクハラ残念イケメンはお呼びじゃないの!わたしは品のある人が好きなの!」
「ぷっ、残念イケメン・・・ウケる」
「あの人も存外不器用だよねぇ・・もっと上手くやれば、ゴロゴロ女の子転がせそうなのに」
「だよねぇ!同じ魔法でもさ、『お前みたいなイイ女に傷なんてつけられねえぜ。俺様色に染めちまって悪かったな』とか言ってくれれば・・・」
「えっ、どのみちセクハラだよね?」
「言い方とか状況とか全然違うじゃん!・・・っていうかさ」
メイは少し声のトーンを落として、リュカの方をじっと見た。
「イスヴァル先輩って彼女できたんだよね?なのに、まだリュカにもグイグイ来てるの?」
リュカは苦笑いした。
「そう聞こえるのは私の勘違いで、距離感が近過ぎる人なのかなとも思うんだけど」
「でもなんか嫉妬っぽいよね、ちょっと」
「男といるのが珍しいって・・・言い方がもう、ねぇ?」
「イールワード家への対抗心とかもあるのなって。直後にアランのこと煽ってたし」
「あー・・・そう考えると微妙だね。リュカのこと気に入ってるのは間違いないんだろうけど・・・」
なんとなく全員でため息をつく。
「どこかに、わたしだけのイケメンいないかなぁ・・・スパダリ執着は萌えるけど、相手持ち残念イケメンの所有欲に付き合うのは無理だわ」
「バッサリだねー。でも、ホントそれ」
「あれ?セレスが理想的なイケメンなんじゃないの?」
「身分的に無理だよ・・・ノーア平民女子には興味ないでしょ」
イケメンを見てキャーキャー言うのは好きだが、現実はしっかり見ているらしいメイだった。
「もうさー、名門アルダーワースに来たら、身分も種族も平等で、わたしだけを見てくれる人いるかな?・・・って思ってたのに、現実厳し過ぎじゃない?
ノーア貴族は平民になんて興味ないし、平民は貴族に近づくことしか考えてないし、外国人も異種族も身分高い人ばっかりだし」
「そうだねぇ・・・」
アランやセレスのように、学園に在学している外国人や異種族の男子生徒は大抵が貴族、あるいはそれに相当するような階級の出身者である。
彼らが外国からノーア王国へ来るのには、それ相応のーー例えば将来の人脈作りや学園制度の視察のような目的がある。
学園の中では生徒は平等とは言うものの、さすがに恋愛のような深い交流の相手を選ぶ際は、政治的な意図と無関係ではいられないだろう。
「母国に婚約者がいるけど、こちらにいる間だけ遊びませんか?とか言われても嫌だし・・・」
「あとは愛妾とかねぇ」
「やだー!!もう、絶対ありえない!!」
ノーア貴族の基準で言えば、初等部を卒業した時点である程度婚約が決まっているか、内定しているパターンが多い。
彼らにとって結婚は家と家とのつながりを目的とした政治の一環であり、よほど運命的な恋に落ちたとか、火遊び目的でもない限りは、わざわざ平民の女子生徒を選んで恋愛をする理由がないのだ。
ちなみにノーア王国は一夫一妻制の国だが、既婚の貴族男性であれば愛妾を持つことが許されている。愛妾に選ばれるのは若くて見目の良い女性で、ほとんどが平民の身分だ。
平民の女性の中には、貴族の愛妾になって贅沢な生活することに憧れる者もいるが、メイが望んでいるのはその方向ではなかった。
「外国ではもっと恋愛って自由なんじゃないの?!」
「エオルテは自由だよね」
「ねー。身分制度はないし、異種族間の恋愛もよくあったよ」
「ああっ、わたしもエオルテに生まれたかったー!!」
「エオルテに進学しな」
リュカやレイが住んでいた隣国エオルテは、一夫一妻制かつ恋愛結婚が基本の国だ。
ノーア王国で息苦しさを感じる人間、特に女性が高等教育をエオルテで受け、そのまま移住する・・・というのは、比較的よくある話だった。
「聖国も一夫一妻の自由恋愛なんだけど」
「それは聞いたけどさー・・・わたし、聖国基準だとめっちゃブスなんでしょ?」
「金髪碧眼が最も美しいんだっけ?」
「髪は輝くような金髪、瞳は空のような鮮やかな青がいいとされてるよ」
「・・・髪の色は金に近いほど美しく、瞳の色は鮮やかであるほど美しい、でしょ?
それで、フィリア、わたしの髪と目の色は?」
「・・・私は、メイ、すごく美人だと思うんだけどなぁ」
天使族は美しいものを好み、恋愛でも見た目が重視される。
顔の造形はもちろん、髪と目の色、羽を広げた時の形や色、つや等も重視されるらしく、一般的に天使族は同族との婚姻を望む傾向が強い。
「うう、悲しい・・・」
メイのため息と共に、消灯時間を告げる鐘が鳴った。
「もうこんな時間かぁ・・・」
「部屋に戻らなきゃね」
「じゃ、また明日」
魔導ランプの灯を消すと、室内は薄青い闇に包まれた。
天窓から差し込む星明かりだけが、ひっそりと談話室を照らしていた。
次の回ではヒーローも出てきます。




