第27話 強くなるしか……ない……
結論からいおう。
ボクは『掃除の魔術師』ではない。
「……雷が落ちる絵が描かれたカード、か……」
あの時、『雷撃の魔術師』サラマン・イスクの肩から落ちたカード。
大空から大地へと一筋の雷光が走る絵が描いてあるカード。
どう考えても攻撃魔法っぽいカードだった。
どう考えてもこのカードで掃除はできない。できるはずがない。
ボクは……『掃除の魔術師』なんかじゃなかった。
3ページ目の『子葉』で増やすまではうかつに使えないけど、いろいろと試してみることはできる。
まずは1ページ目。
ここは戦いに関するページだ。
カードの枠に近づけると……うん。これはぴったりはまる感じがする。まちがいない。
攻撃魔法だろう。
見た目の通りだと思う。
そして2ページ目。
こっちは戦い以外に関するページなんじゃないのかって思ってる。
……うん。この感じは、はめ込むことができない時のやつだ。
やっぱり、雷のカードは攻撃魔法なんだろう。
3ページ目はまだ残り時間があるけど……っと、あと回しだな。
とりあえず4ページ目は……うん。ここも、使えそうだ。
そうすると、このカードは合成することでこれ以上の強さになるってことだ。
ほうきと同じなら……一筋の雷光が3になって、さらに10になる。
そして……その先は? まさか、あのなぞカードと同じくらいの範囲になる?
……そうなったらヤバすぎる。
いや……それが今の『雷撃の魔術師』の強さなのかもしれない。
そりゃ戦争に駆り出されるだろうなぁ。
あの人、魔法の威力って部分では本当に危険な人なんだろう。
ボクには……そこまで厳しい接し方じゃなかったけど。
やっぱり仲間意識みたいなものがあったのかもしれない。
あの人にも……ボクにも。
……やっぱりボクにはなかったかも。このカードをみるまでは掃除しかできないと思ってたし。
ま、そんなことはあとで考えよう。
次だ、次。
5ページ目……ここはどうだろう?
あ、これは……はまるな。
……このカード、さらに弱くできるのか。
それならまずはこっちからでもいいのかもしれないけど……。
いや、やっぱり増やしてからじゃないとな。
ひょっとしたらあのドアノブみたいな魔法まで弱体化させてしまうかもしれない。
あれじゃダンジョンでモンスターを倒せないし。
で、ここだ。
お楽しみの6ページ目。『試用』でこのカードを試してみる。
雷のカードをはめ込んで……うん。頭に起句が浮かんだ。
「『試用』」
ピカっとカードが輝いて……これが! 雷撃! すごい!
……今、どうみても10メートルくらいの範囲は軽くあった気がする。パッとみただけだから20メートルくらいだったかも?
このページのカードはそのまま残ってる。
あ、もう1回、試せばいいのか。
今度はどのくらいの範囲に攻撃できるかを中心にみてみればいい。
「『試用』」
……やっぱりすごいな、この魔法。さすがは大陸一の魔術師の魔法だ。
範囲は20メートルから30メートルの間くらい。ざっくり25メートルくらいだろうか。
一筋の雷光でこの範囲って……そりゃ、5ページ目でカードの分解と弱体化ができてもおかしくない気がする。あまりにも強力すぎる。
いや待て。
これ、雷が3とか10とか……あのなぞカードみたいになったら……。
ボクはごくりとつばを飲み込んだ。
……ボクが大陸最強の魔術師になる? 掃除じゃなくて本当に?
それは……。
思い浮かぶのは『雷光の魔術師』サラマン・イスクのこれまでの生き方。
強力な力をもちながら……なおかつ身分は平民だったから起きた、起きてしまった出来事。
……ダメだ。めちゃくちゃめんどうくさいことになる。
絶対に隠さないと……でも、いざという時には使えないと、ボクは自分を守れないだろう。自分だけでなく、ボクにとって大切な人も……。
ぞくり、と。
背中が寒くなった。
エリン……それにソードアーク……。うん、ソードアークはそこまでじゃないけど、まあ一応。他にも孤児院の子どもたちや、先生たち。
それにアリスティアお嬢さま。あとオマケでナイスクマリーも。
もちろん、イセリナ先生は……大事だ。ついでに学園長も、か。シェンエント先生はものすごくどうでもいいけど。むしろ滅びてもいいか。
ボクにもそれなりに……守りたい人はいる。
ボク自身よりも大切かといわれたら……判断は難しいけど。
どうなんだろう。
でも、守れるのならソードアークやナイスクマリーだって守りたい。
本当に難しい問題がそこにはあった。
強い力があると知られてしまうと……それを利用しようとする人たちと、どうにかやっていかなければならない。
場合によっては、戦うこともある。
ひょっとすると、エリンが人質にされたり、アリスティアお嬢さまが人質にされたり、イセリナ先生が人質にされたりするかもしれない。
……うん。そうなったらきっと、相手を殺すだろうと思う。守れなかったら……仕返しはやる。それはサラマン・イスクと同じ道だ。でも、そうなる。なってしまうのもわかってしまった。
今のまま、『掃除の魔術師』だと一部の人だけが知ってる状態だと……いずれどこかでこの魔法を使わざるを得ないだろう。
……もしもキイマカリーから暗殺者とかが送り込まれたら?
学園長や女王陛下は守ろうとしてくれるかもしれない。
でも、守れずにボクが死んだとしても『掃除の魔術師』が死んだだけだ。
それなら……ボクが殺されたことを理由に、何かをするって道を選ぶのか……。
そうならないために学園長や女王陛下にこの魔法が使えるって伝える……か?
それはそれで……サラマン・イスクと同じ道を進むことになるかもしれない。
今のボクにはまだサラマン・イスクとはちがう道を選べる可能性が残ってる。
……バレてないから。
学園長や女王陛下にこの魔法のことを伝えるにしても、今じゃない。
いつか、その必要がある時に、だ。
そうしないと別の道は消えてしまうかもしれない。
……この国を出ていくという考えもあるけど。
キイマカリーの話を知ってしまえば、どの国にいっても同じだ。
国ってものはいずれにせよ強い力を必要としてる。
あの人がいう通り、むしろ今ならキイマカリーの方が都合がいいのかもしれない。
誰もいない山の中みたいなところに隠れ住むような暮らしならともかく。
そんな不便な暮らしは……いや。どっちがマシか、わからないかもしれない。
なんでこんな『なんとか魔術師』なんかにボクはなってしまったんだろう……。
「この魔法のことをまだ伝えないとすれば……少なくとも、ボクは自分で暗殺者から身を守れるようにならないとダメだ……」
そのためには強くならないと。
ソードアークとの訓練はもちろん続けるとして、剣だけでなく魔法でも強くなる方法がほしい。
属性魔法が使えるようになれば一番いい……魔力量は大陸で2番目らしいし。
うーん。そこができてないのは痛い……。
どうにかして魔ほ……ん?
できるかもしれない。
サラマン・イスクの肩から魔法のカードを手に入れたみたいに。
他のカードを!
他の攻撃魔法のカードを!
よし、やってみるか――。
――と思ったけど、ダメだった。
そりゃそうだ。
イセリナ先生、学園長、他の先生方なんか、いろいろ近づいてみたけど……あの時のサラマン・イスクみたいにピカピカすることがなかった。
なんでサラマン・イスクだとカードが手に入ったのに、他の先生だとダメなのか。
よくわからん。
でも、ダメで当然だとも思った。
だって、今まで他の先生方から手に入らなかったんだから、そりゃそうかって話だ。
先生方からカードが手に入るんなら、この学園に入学してから今までにもうカードを手に入れてるはずなんだから。
……うまくいくと思ったのに。
とりあえず、今は雷魔法のカードを増やしたり、強めたりすることが大事なのかもしれない。
同時にほうきのカードもなくさないようにしないとダメだ。
こうなると、カードが時間切れで消えてなくなるのは苦しい。
「どうにかして……って。あ……」
雷魔法のカードがあの人から手に入ったから先生方を狙ったけど……。
そもそもほうきのカードはほうきから手に入ったはず。
……人じゃなくて、物からでもカードは手に入るのか。
それなら、いっそのこと……。
ボクはとある思いつきが浮かんだので、学園長室をめざして歩きはじめたのだった。




