第25話 パイセンのガチアドバイスがヤバすぎる!?
「それじゃ私はしばらくいなくなるから」
「シェンエント先生!? そんな!?」
「いや、だってサラマンがふたりきりで話したいっていってたから」
「だからって!?」
ボクはシェンエント先生を必死で引き止めた。
サラマン・イスクとふたりきりで話すと、本気で勧誘される可能性がある。
勧誘以外の危険もあるし!?
サラマン・イスクには国に対する忠誠はないらしいけど、ボクを勧誘できた場合の見返りが大きいという可能性は捨てきれないからだ。
例えば……ボクを身代わりにして『雷撃の魔術師』は引退する、とか。
学園長の話だと、『雷撃の魔術師』はもう10年くらいはキイマカリーの戦争には加わってないらしい。
そのせいでキイマカリーは戦争をしないように動いてるんだとか。
かつての戦争でキイマカリーを恨んでる国も、もし『雷撃の魔術師』が参戦したらと思うと動けない。
そのお陰でこの大陸は今のところ平和というか……そういう状態が維持できてるみたいで。
でも、戦争ではない場合には『雷撃の魔術師』が積極的に動いてるという。
キイマカリーだけでなく、周辺国で主にモンスター討伐を引き受けてるのが現在の『雷撃の魔術師』サラマン・イスクだ。
それも、普通なら倒せないような……多くの人が大変な目に遭うようなモンスターを倒してるという……まさに『平民の英雄』っぽい感じで。
学園長はどっちかというと『雷撃の魔術師』をいい人であると考えてるから、その学園長の言葉の全てを信じるわけにはいかないけど……。
「ボクがキイマカリーに勧誘されたり、脅迫されて連れていかれたりしたらどうするんですか!?」
「え? 勧誘されたのに断らなかったら自分のせいでしょ。脅迫されても断ればいいし。そもそもサラマンは脅迫とかしないから。そんじゃ」
シェンエント先生はそういい捨てて研究室を出ると、バタンとドアを閉めた。
めちゃくちゃだよ、あの先生!?
なんでそれが全部ボクの責任にるって思えるんだ!?
ボクも慌てて研究室から逃げ出そうと――。
「うわっ!?」
――したら、ドアノブからめちゃくちゃビリビリしてビビった。
何これ?
触れないんだけど!? 手が痛いし!?
「申し訳ないけれど、キミとはゆっくり話したいからドアを開けられないようにさせてもらいましたよ、シーアルドくん」
おだやかな口調のサラマン・イスクをボクはおそるおそる振り返った。
……さっきのあれは、雷魔法ってことか?
ドアノブをピンポイントで指定して雷魔法が使えるとしたら……?
ボール系魔法みたいな形式をそろえて使えば魔法はすごく簡単になるってイセリナ先生にはいわれてる。
ボクには使えないから本当はどうだかよくわからないけど。
形式をそろえずに魔法を自在に変化させて操ってるとすれば、魔術師としての力量はおそろしく高い人になるってこともイセリナ先生からは教わった。
つまり……雷魔法の達人が『雷撃の魔術師』ってことか。
ドアノブ限定なんて、そんな繊細な使い方まで……威力は繊細じゃなくてけっこう手が痛かったけど。
あ、いや。
ボクの掃除の魔法も範囲指定はかなりいい感じで使えるな。そういえば。
最近わかった新事実だけど。
やっぱり元『なんとか魔術師』だからなのか?
魔法の使い方がすごい気がする。
「逃がしませんよ、シーアルドくん。さあ、こっちで座って話しましょうか」
「……はい」
ビリビリが痛いのは嫌だ。
それに痛いだけで済むとは限らない。
とりあえず、殺されないようにここは従うべきだろう。
……この大陸でもっとも人を殺したといえる存在だし。
この人が本気になったらボクは一瞬で殺される。
そう思ったら丁寧な言葉づかいの方がむしろ怖くなってきたかもしれない。
ボクはいろいろとあきらめてソファに座った。
サラマン・イスクは目の前にいる。
「シェンエントには貸しがあるのですよ」
「貸し、ですか?」
「ええ。彼は古代神聖文字の研究に人生をかけていますからね。この前の研究会ではキイマカリーが隠していた未解読の古代神聖文字をいくつかこっそりと教えました。キミとの話し合いの場を提供してもらうために」
ボクは古代神聖文字で売られてたみたい。
あの先生はもう……許さん……。
「もちろん、シェンエントは昔からの友人でもあります。私もキミと同じで『なんとか魔術師』でしたから、古代神聖文字はたくさん学びましたよ」
「ああ、そういう部分も……」
確かにそうか。『なんとか魔術師』の「なんとか」は読めない未解読の古代神聖文字だという。
ボクも古代神聖文字の講座を受講する予定だけど、『雷撃の魔術師』も若い頃には古代神聖文字を勉強したっていうのは納得だ。
……あんな先生と友人関係って部分は疑問しかないけど!
そういえば隣国の研究会にシェンエント先生が参加してたせいで、まだ古代神聖文字の講座がはじまってないんだった。
その隣国ってキイマカリーだったのか。
しかも、まんまと古代神聖文字で釣られてるし。
おのれシェンエント先生め……ボクは絶対にシェンエント先生の古代神聖文字の研究に協力しない。
そう決めた。絶対に、だ。
この恨み……忘れない……。
「……やっぱりキイマカリーへの勧誘、ですか?」
「勧誘というよりも……シーアルドくん。キミはこれから自分がどういう人生をすごすことになるか、考えたことはありますか?」
どういう人生って……ああ。
王城でのあの時も、言葉づかいはちがったけど、それがいいたかったのか。
軍隊とか戦争の話、だ。
ボクが『なんとか魔術師』として強力な魔法が使えるのなら……国としてはそういう場面で利用するだろう。
「……おそらく、国のために魔法を使う人生、になるんじゃないかと思ってます」
「つまり、私のような人生を送ることになるということです」
うっ……それはすごく嫌だ。その言い方がひどい。
ボクが学園長からいろいろと聞いてるってことも知ってるのか……。
あ、でも、ボクの場合は掃除の魔法なので、『雷撃の魔術師』のように戦場でどうのこうのってことはないと思う。
「キミはまだ魔法が使えない。今ならまだ、キイマカリーへ逃げられます。魔法が使えるようになったらカンシドレーは絶対に逃がしてはくれないでしょう」
それは……強力な攻撃魔法が使えるようになった場合だろうと思う。
掃除の魔法だからボクは例外、かな。
「逃げなかった場合、キミはこの国で……私がやったように戦わなければならなくなります」
「ええと……どのように?」
「私は公爵家、侯爵家などの高位貴族を含む7つの貴族家を潰し、12の貴族家を私にとって都合がいい跡継ぎへと交代させました。表には出ていませんが、王子もひとり、殺しています」
「……」
聞くんじゃなかった。
ヤバすぎる。高位貴族だけじゃなくて王子までとは!?
……いや、何もいえないですよ、こんなことを聞かされても。
しかもそれって、聞いたらダメなやつなんじゃないかな……。
ボク、掃除の魔法なんでどうにかなります、とかいいたい。
極秘だからいえないけど。
いった場合にどうなるのかって予想もつかないし。
「もちろん反撃はありました。すでに私の大切なひとはみな、生きていません」
……隣国キイマカリーはエグい!? ヤバすぎるだろう!?
「私は傲慢に振る舞うように演技を続け……命令に逆らい、敵とみなした相手を全て倒してきたのです。二度と命令されないようにするために。……もはやどちらが本当の自分なのか、よくわかりませんけれどね……」
そういってサラマン・イスクはさみしそうに笑った。
いや、笑えないけど!?
うぅ、『雷撃の魔術師』サラマン・イスクが戦闘民族すぎる……。
それとその人生が厳しすぎる……。
強力な魔法が使えるとそうなってしまうんだろうか?
「私と同じようにそこまでやり通してしまえば、キミにとってこの国は居心地がよくなるかもしれませんが……私はキイマカリーの居心地がいいとは思っていないので、どう感じるかはキミ次第でしょうか」
そこまでやっても居心地よくないってどうなんだ!?
おかしいだろう、キイマカリー!?
あ、反撃で大切なひとがみんな殺されたから……?
あぁ、あとは恨まれてる可能性もあるのか、いろいろと……。
ひょっとしたら今でも暗殺とかは狙われてるのかもしれない。
わからないけど。
それにしてもキイマカリーがヤバすぎて、怖いんですけど!?
そんな国に勧誘しないでほしい!?
「すでに周辺国は考えています。この先、どうなっていくのか、を」
「え……? どういうことですか……?」
周辺国って関係してくるの……?
カンシドレーとキイマカリーの話じゃなくて……?
ボク、掃除の魔法しか使えないんですけど……それなのに国際問題になってるのっておかしくないか……?
「こういってしまうと、うぬぼれていると思われるかもしれませんが、今、この大陸ではキイマカリーの発言力が強いのです。私がいるので」
特別なことは何もないという感じで、ごくごく普通に『雷撃の魔術師』サラマン・イスクはそういった。
それは確かにその通りだろうと思う。ただの事実だ。
「そして、新しくキミ……シーアルドくんが『なんとか魔術師』としてジョブを授かりました」
そうですね。
ボクが選んだわけじゃないけど。
女神さまが授けるらしいし。
「カンシドレーが将来的に影響力を強めるという予想はできるはずです」
「……ボクが強力な魔法を使えるようになるから、でしょうか?」
「そうですね」
……掃除の魔法なんだけどなぁ。
「そして、キミは若い。私はもう30歳を過ぎています」
「え?」
「順番通りにいけば私が先に死にますよ」
……順番通りにいかないこともあるって隠された意味も聞こえますけど!?
いや、ボクを殺しても掃除の魔法だから意味が……あ。
ボクは魔法がまだ使えないことになってる。
つまり、今なら……簡単に殺せるって、そういう話も含んでるのか……?
それに……掃除の魔法は極秘だから、周辺国はボクが将来的に『雷撃の魔術師』みたいなヤバい人になるかもしれないと不安に思ってる……。
いやいや! 掃除の魔法でそれはできないから!?
貴族家を潰したり、当主を交代させたり、王子を殺したりとかできないから!?
そういう大掃除はできないから!?
でも、極秘だからいえない!?
……あぁ。
いったとしても嘘だと思われる可能性すらあるのか……。
えぇ……どうすれば……。
ボクの未来が過酷すぎないか……?




