第23話 パイセンどもっス! よろしくっス!(よろしくしない)
「そういえば、学園都市の外の壁って、王都の壁よりも低いですよね」
「ふむ。シーアルドくんはなかなか着眼点がいいね」
学園長が楽しそうにそういった。
よし。
成功した。これでいい。
今、ボクは学園長と一緒に王都へ向かう馬車に乗ってる。
隣国からやってきた『雷撃の魔術師』と面会するためだ。
その人は国賓とかいう大事なお客さまって扱いらしくて、ボクのために学園都市まできてくださいってわけにはいかないみたい。
だから、ボクの方から王都へいって面会する。
その王都までがだいたい3時間くらいかかるんだけど、馬車の中はボクと学園長のふたりきりだ。
「学園長は理由をご存知なのですか?」
「まずは都市としての規模、つまり人口だね。そもそも王都の方が人口が多く、学園都市の方が人口が少ない。都市における人口とはその都市の力そのものだ」
「なるほど。都市の力がちがうから外壁の高さにもちがいがある、ということですね」
馬車の中で学園長とふたりきりは気まずい。
身分が上の学園長はともかく、身分が下のボクは気まずいんだ。
だから、こうやってちょっとした質問をする。
そうすると教えたがり学園長はご機嫌になっていろいろと説明してくれる。
ボクの馬車内の処世術です。はい。
「そうだ。また、都市としての重要性のちがいも関係してくる」
「重要性とは?」
……女王陛下がいますもんね、王都は。学園都市よりも重要なはず。
「女王陛下のおわす王城は王都の中にある。これを守ることは学園都市の諸学園を守ることよりも重要なのだ」
もちろんわかってる。
わかってて、この馬車での移動をどうにかこなすために質問してる。
「だが、それだけではなく……学園都市の騎士学園、もしくは魔法学園、このどちらかには王家から学園長が任命されることも関係している」
「それは……どうしてなんですか?」
なんでだろう?
「王国史を学べばわかるんだが、200年ほど前に、学園長に任命された王族が反乱を起こしたことがある。王族を王都一か所に集めないことには王統の血脈を保つという意味もあるが、王族であることで旗頭となることもできる。野心があれば、ね。もちろん私に野心はないよ?」
いや、学園長が野心をもってたらすでに国王になってるんじゃないかな?
今、この国は美幼女王なんだし。
「かつてのように学園都市の王族が反乱を起こしたとしても、学園都市の外壁が低ければ制圧は簡単になる。表向き、そういう風に語られることはないが……これが主たる理由だね」
こうやって、知らないことを学べる瞬間もある。
気まずい馬車移動の時間がボクにとっての学びの時間になるわけで。
……いや、それにしても王族怖いな!?
そんな感じでボクは3時間の特別講義を楽しんだ。
「はっはっは! おまえがカンシドレーの『なんとか魔術師』か?」
そういいながら、ボクの肩をばしんばしんと叩いてる人がいる。
おかしい。
王城って場所での礼儀作法ってもんはどこいった!?
この人、大丈夫なの!?
いや、たぶん大丈夫じゃない。
周りの人たちの半分くらいは苦い顔してるし、中にはすごくにらんでる人もいる。
苦々しいって顔に出てるし。
もちろんにらまれてるのはボクじゃなくてこの人です。
あぁ、こんな感じになるんだ……礼儀作法をちゃんとやらなかったら。
礼儀作法をめんどうくさいって思うのはほどほどにしよう。
何もしなくても見下してくるような人はいるけど……礼儀作法があれば表面上は相手もとりつくろうことが多いし。
でも、この人はそんなのガン無視してる。ある意味ですごいし、強い。
いや……大陸最強の魔術師だから当然強いんだった。
「イスク卿。少し落ち着かれよ」
「うん? 誰だ? 俺に命令する気か?」
「い、いや、命令など……」
「なら黙ってろ」
「う……」
マジやばい人だ。
声をかけたのはたぶんかなり上役なんじゃないかと思う。
でも、それを黙らせちゃったよ!? ひとにらみだったし!?
黙ってろっていって黙らせちゃったよ!?
「……そのくらいにしてくれないか、サラマン殿。この子を紹介したいのだが?」
「うん? おお、カーインドの旦那か。久しぶりだな」
ため息とともに割り込んだのは学園長だった。
女王陛下はいないから、この場で一番身分が高いのはたぶん学園長だろう。
……意外だ。身分が高い相手には全部噛みついていくんじゃないかと思った。
温和で老紳士な学園長が声をかけたら、ヤバい人が落ち着いた。
ここでまさかの猛獣使い!? すごいな学園長!?
「この子がシーアルド。『なんとか魔術師』のジョブを授かった。シーアルド、名乗りを」
「……神殿で『なんとか魔術師』のジョブを授かりましたシーアルドと申します」
一応、その場にひざまずいてあいさつをした。
……その前から至近距離でバンバン叩かれてたんだけど。
「おう。やっぱりそうか。俺はサラマン。あぁ、そっか。こういう時はあれだな、ちゃんというのか。サラマン・イスクだ。よろしくな。一応、侯爵ってことになってるが気にすんな。まあ、立てよ。この角度だと話しづらいだろ?」
サラマン・イスクさまはそういってにやりと笑った。
……これが『雷撃の魔術師』サラマン・イスクか。
隣国キイマカリーの英雄とかいわれてるけど……礼儀作法めちゃくちゃだろう?
これでいいの?
本当に? しかも侯爵っていってたし!
国賓ってすごい大事な国のお客さまって意味じゃなかった?
まさか、これを……自分の国でもやってるんじゃ……いや。さすがにそれはないかな?
ないとは……思うけど……うーん。あるかも。
それをやっても許されてしまうだけの……力があるから。
「そういや、『なんとか魔術師』のパイセンとしてアドバイスって話だったなぁ」
いやいや、パイセンって!?
パイセンって何!? 先輩のこと!?
確かに『なんとか魔術師』の先輩だけど!?
ひょっとしてボクは勘違いしてたのか?
実はここ、王城ではなかったとか?
いつからボクはここが王城だと錯覚していた???
……いや。王城だよね。まちがいなく。錯覚してないし。
「おまえさ、まだ魔法が使えるようになってないんだって?」
「は、はい……」
そう。
ボクはまだ魔法が使えない。
そういうことになってる。
使えるのが掃除の魔法だから。
傍若無人な『雷撃の魔術師』を苦々しくみていた人たちの中に何人か、ボクのことを見下した目でみた人もいる。
魔法が使えないという部分に反応したのか、それともボクが掃除の魔法しか使えないということを知っていたのか。
どちらにせよ、ボクに対してあまり好意的じゃない人なんだろう。
ここにいる最強魔術師はそんなことを全部まるっと無視できてしまう。
すごくうらやましいような気もするけど……そう思うのはマズい気もする。
「でもなぁ……考えてきたアドバイスはなんか無駄になっちまったみてぇなんだよなぁ……」
「考えていただけただけでも光栄です」
あ、本当にアドバイスを考えてきてくれてたんだ。
「おう。とにかくしっかり体を鍛えとけってアドバイスするつもりだったんだが、なかなかいい体してやがるじゃねぇか。魔術師とは思えねぇよ」
えぇ……? そういう感じのアドバイス……?
魔術師に対するアドバイスではないような……?
「か、体を、鍛えとけ、ですか……?」
どう考えても魔法のアドバイスじゃないし?
どういうことだろう?
この人、実は脳みそが筋肉なタイプなんじゃ!?
「そうだな。魔法が使えるようになったらたぶん軍に入る。そんであちこち連れ回される。休みなんかねぇぞ? 体力勝負になるからな?」
「な、なるほど……?」
「そんで、人を殺しまくって英雄っていわれるようになるだろうな」
「っ……」
……これ、アドバイスなのかな?
どっちかというと予言というか、未来予測というか?
そういう感じ?
いや……この人はそういうことを経験してきたってことか……。
……それに、ボクに向かっていいながら、この内容を別の人たちに伝えたいのかもしれない。そんな感じがいる。
特に、国のえらい人たちに。
おまえら、どうせこいつを戦争に使うつもりなんだろう? って感じか。
……戦争に批判的な感じがするのはたぶん気のせいじゃないはず。
ボクへのアドバイスのフリをして、この国の上の方の人たちに大きな釘を刺してるみたいな気がする。
でも、ボクの場合はあくまでも掃除の魔法だから……せいぜい雑魚モンスターの殲滅くらいしかできないんだけど。しかもそれはまだ秘密にしてるし。
人を殺しまくって英雄にはなれないはず。
「まあ、どうしても魔法が使えるようになりてぇっつぅんなら……」
ぽん、と肩に手を置かれて、そのままぎゅっと肩を掴まれた。
「……俺の弟子になってキイマカリーにくればいいんじゃねぇの?」
ああ、やっぱり学園長の予想通りなのか。
これは、勧誘だ。
あの腐った侯爵令息とは規模がちがう。
キイマカリーという国からの、勧誘。
でも、学園長の予想を超えてきたのは……この国、カンシドレーの要人が集まってる面会の場ではさすがに勧誘しないだろうって話だったところ、か。
最初からあの態度だから、学園長の予想が甘かったんだろう。
それに……。
「お言葉はありがたいと思いますが、お断わりさせていただきます」
……この国の要人の前で、ボクが「喜んでそっちにいきます!」なんていえるはずがない。
「そっか。残念! がははははっ!」
ボクの肩からあっさりと手を離して、『雷撃の魔術師』は豪快に笑った。
……本気で勧誘するつもりはないだろうという学園長の予想はあたってたのかもしれない。
キイマカリーの『雷撃の魔術師』サラマン・イスクは、キイマカリーって国に本気で忠誠を誓ってるわけじゃないって話だったから……帰りの馬車の中でもっとくわしく教えてもらっておいた方がいいかもしれない。




