第22話 ダンジョンぼっちスタイル
「キミと『雷撃の魔術師』との面会が休み明けにおこなわれることになった」
「あ、はい」
明日は休みという浮かれ気分だったところに学園長から呼び出しがあって……学園長室でそんなことをいわれた。
ボク以外の学園生も学園長室に呼び出されたりしてるんだろうか……?
休みにはダンジョンにいこうと思って……それでボクの気持ちは高まってたから、呼び出しで嫌な気持ちになって気分が沈んだ。
この恨み、忘れませんよ、学園長……。
「『雷撃の魔術師』はすでに入国しているが、女王陛下をはじめとする王都の有力な貴族たちとの面会が続いていた。ようやくキミとの面会の時間を確保できたようだ」
……ボクが望んだ面会ではないけど、元々は『なんとか魔術師』だった『雷撃の魔術師』には興味がある。ボクと同じような経験をしてる可能性があるからだ。
「だから王都へ向かう。私が付き添うのでそのつもりで」
「はい」
また学園長と王都までの馬車の旅か。
王都までの車内でいろいろと教えてもらえるからいいんだけど……身分差での緊張感はなくならない。
学園長が平民になったらいいのに……。
あ、いや。ダメだ。
それだとボクを守ってもらえないか。
しょうがないなぁ……公爵のままでいてもらうか……。
今回の休日は、ダンジョンへとやってきた。
もちろん、あのダンジョンだ。
ボクひとりで。
うん。ひとりだけ。
こういうの、ぼっちとかいうらしい。
このダンジョンはとんでもない事件が発生して……しばらくの間、騎士団が調査を続けてた。
なんと100人体制での大型調査だったらしい。
ダンジョンの異常はスタンピードというモンスターの大発生および氾濫につながりかねないので、騎士団も調査に本気だったみたいだ。怖い。
でも、調査の結果……ダンジョン浅層の隅っこの方で、数は少ないけどトゲネズミやオオアゴコウモリがみつかった。
滅亡してたわけじゃなかったらしい。あれは誤報だった。
その誤報が先生方のやらかしというわけではなく、先生方が3人だけで調べるにはダンジョンの浅層が広すぎて限界があったって話だ。
数日間の封鎖でトゲネズミやオオアゴコウモリの数も順調に増えて……すでに騎士団は王都へと帰還した。安心だ。
そして、ダンジョンも再び開放された。封鎖は終了だ。
そこにボクはやってきたというわけだ。
もちろん、ダンジョン内で、ほうきのカードの掃除の魔法が使えるかどうかの実験である。
ボクがひとりぼっちなのは……掃除の魔法をダンジョンで使うところを誰にもみられたくないから。
ボクが掃除の魔法を使えると知ってるナイスクマリーやアリスティアお嬢さまであっても、だ。
……アリスティアお嬢さまが必要もないのにダンジョンへ入ることはないけど。
ナイスクマリーにとってはボクと同じでおこづかい稼ぎという部分がある。
だけど、ナイスクマリーに掃除の魔法でモンスターが倒せると知られるのはマズい気がする。
だから、ボクはぼっちなんだ。
これはボクに友人がいないって話ではない。うん。
ボクはひとりでも平気なんだよ、問題ないんだよって態度でダンジョンへと入る。
他の人にみられないように、あんまり人がいない方へと入っていく。
ダンジョンの地図はこの前の実習の時に手に入れてたから問題ない。
ボクは誰もいないところで掃除の魔法の実験をして、もしそれでモンスターが倒せたら魔石を回収する。
それを売ってお小遣いという……ありがたい休日だ。
「さて。このへんには誰もいないし……そろそろかな。お、いたいた」
実験対象モンスター、トゲネズミを発見。
7匹の群れだ。
魔力の本の1ページ目にはほうきのカード、ほうき3本のカード、ほうき10本のカードがはめ込んである。
もちろん、あのなぞのカードははめ込んでません。はい。
騎士団召喚とかしませんから!
ボクはほうきのカードを意識して、トゲネズミの群れをみた。
頭にいつもの起句が浮かぶ。
……まさか、本当に使えるのか?
「『使用』」
いつものように掃除の魔法は発動した。
でも、いつもとちがって……綺麗になったわけじゃない。
いや、ある意味では綺麗だったかもしれない。
突然キラキラとトゲネズミたちが輝いたと思ったら、そのキラキラした光は小さな粒のようになって消えていった。
なんか、儚さと美しさの共演って感じで。
「いやいやいや。ちょっとおかしいだろう……なんで7匹全部消えちゃったんだ? 魔石はばっちり残ってるし……」
基本的に逃げるモンスターであるトゲネズミ。
それをあっさりと全滅させてしまったほうき1本のカードの掃除の魔法。
エグい。
「1匹だけ倒せるのかと思ってたのに……まさかの全滅」
……これはもう、ほうき3本のカードとか、ほうき10本のカードとか、実験しない方がいいだろう。なぞのカードほどじゃなくても、大量のモンスターを消してしまいそうな気がする。
学園長をはじめとする、いろいろな人にいわれてきた言葉が頭の中をぐるぐると回る。
『『なんとか魔術師』は強力な魔法が使えるようになる』
魔法学園の先輩方はボール系の攻撃魔法でトゲネズミの群れをまとめて倒す、という話はボクも聞いたことがある。
少なくとも……ほうき1本のカードの掃除の魔法は、ボール系の攻撃魔法と同じようなことができるってことだ。
最弱モンスター相手だから、強力な魔法とまでは思わないけど……。
魔法そのものの破壊力の強さって話ではなく、掃除の魔法は本質的に強力な魔法なのかもしれない。
ボクは落ちてる魔石を7つ全部、回収した。
お小遣いになるから、ちゃんと集めとかないとダメだ。
ボクはそのまま、ダンジョン内を探索した。
別に、前回のダンジョン実習でほぼ何もできなかったことを気にしてるわけじゃない。
ちがうからな!?
実験の結果、掃除の魔法はダンジョンで使うことができた。
面白かったのはトゲネズミが10匹以上の群れだった時だ。
ほうき1本のカードだと、9匹までしか倒せなかった。もちろん、残りのトゲネズミは散り散りに逃げていった。
3回、10匹以上の群れで実験したけど結果は同じ。
9匹までしか倒せない。
ほうき1本のカードだと9匹が限界になってる。
……そういうものなんだろうと思うしかない。
オオアゴコウモリでも実験してみたかったんだけど……そっちには騎士学園の学園生がたくさんいるからやめておいた。
逃げてしまうトゲネズミとちがって、オオアゴコウモリはこっちに向かってくるモンスターだ。
噛みつきにくる。
飛んでるという部分はめんどうくさいけど、逃げてしまうトゲネズミよりも向かってくるオオアゴコウモリの方が騎士見習いにとってはありがたいらしい。お小遣いがほしい人にとっては。
オオアゴコウモリはあきらめるとして、別の実験はしておきたかった。
だからボクは奥地ではなく、2層へと向かった。
このダンジョンの浅層というのは1層から3層のことで……1層にはトゲネズミとオオアゴコウモリがいて、2層にはゴブリンやコボルトがいる。
実験対象はゴブリンで……ボクはぼっちのゴブリンに対してほうき1本のカードで掃除の魔法を使ってみた。
残念ながらゴブリンは消えなかった。そううまくはいかない。
いや、それだけじゃなくて、掃除の魔法を使ったらゴブリンがめちゃくちゃ怒ってボクに攻撃してきたという……。
剣で戦いました。はい。
問題ありません。無事に倒しましたので。
ソードアークとのチャンバラのお陰か……。
ありがとうソードアーク。全然感謝の気持ちとかはないけど。
ゴブリンってソードアークよりもかなり弱いから1対1なら楽勝だった。
でも複数のゴブリンを相手に掃除の魔法を使うと危ないかもしれないと思って、それ以上は実験しなかった。
掃除の魔法はトゲネズミを消し去るけど、ゴブリンは怒らせてしまう。
たぶん、魔石の位によってそのちがいがあるんだろう。
あのダンジョンのうち、浅層の1層だとたぶんボクは無敵だ。
ほうきのカードがなくならない限り。もしくはなぞのカードを使えば、だ。
でも、2層に入ると……掃除の魔法は危険な怒らせる魔法になってしまう。怖い。
1層での効果をみた人はきっと、ボクに2層でも掃除の魔法を使わせようとするだろう。
うん。ひとりでダンジョンに入って本当によかった。
本日の収穫、位なし魔石52個とゴブリンから取った第1階位の魔石ひとつ。
全部で銅貨55枚になった。
馬の世話で銅貨1枚とかバカバカしくなってくる。
金貨だと高額すぎて使い道がないけど、銅貨はすごく使いやすい。
今度の休みもまたダンジョンへいってみようと思う。
それで銅貨がもう少し貯まったら、エリンの休みに何かお礼をした方がいいかもしれない。
エリンは自分が休みの日にボクとソードアークの部屋を掃除してくれてる。
ソードアークは汚すぎで、ボクは綺麗すぎるってプンプンしてるのはかわいい。
ボクの部屋はボクが掃除の魔法で綺麗にするからエリンの出番はないんだけど、せっかく気にかけてくれてるのにいらないっていうのも、な。
そのお礼として何かできればいいと思ってる。
そのためにはまたほうきのカードを増やさないと……。
寝る前にボクはそんなことを思いながらあくびをしたのだった。
たぶん、疲れてるんだと思う。
だから、いつの間にかめくれるようになっていた魔力の本の新しいページについては明日以降、考えるようにしたい。




