第20話 ふたりっきりの……大ピンチ!?
学園都市近郊実習用ダンジョン浅層魔物消滅事件。
嫌な事件だ。
できればボクも忘れたい。
この事件は魔法学園でも学園生や先生方の間で大騒ぎになった。
魔法学園と騎士学園が合同でおこなうダンジョン実習が途中で中止になったから、というのも騒ぎが大きくなってしまった要因だろう。
これまでになかった現象が起きたので、ダンジョンで何か異常が発生してるんじゃないかといわれてる。
やはりダンジョンというものはボクたち人間には理解できないものなのかもしれない。うん。
きっと、そう。そのはずだ。
あんなもの、きっと神さましか理解できないはず。
ボクはそう思うんだ……。
ボクたちのパーティーがダンジョンを出たあと、その次のパーティーの報告でダンジョンに異常が発生している可能性が予想できた。
すぐに先生方がダンジョン内を確認して……浅層にたくさんいるはずのトゲネズミや、そのさらに奥にいるオオアゴコウモリがどこにもいないことと……。
ダンジョン内には、トゲネズミやオオアゴコウモリの魔石が信じられないほど大量に落ちていることがわかった。
このままではダンジョンに吸収されてしまうため、先生方はできるだけたくさん拾って戻ったらしい。せこい。
ダンジョン実習の課題はトゲネズミの魔石だけど、それは「トゲネズミを倒して手に入れること」が前提だ。
魔石を拾って戻るんじゃ学園生のための実習にならない。
この実習がボクたち学園生のダンジョンへの入場許可になってることも関係してるんだろう。この実習を終えないと学園生はダンジョンに入れないのだ。
先生方はダンジョン実習の中止を決定するととも、ダンジョンに異常が発生していることをそれぞれの学園に報告した。
実習用ダンジョンで一番弱いランクのモンスターとはいえ、それが完全にいなくなるというのはありえない事態だ。
報告を受けた魔法学園と騎士学園はそれぞれ会議を開き、ふたつの学園を代表して魔法学園のカーインド学園長が王都へ向かった。
やはり王叔にして公爵という立場は大変だなぁ。
そして、学園長が女王陛下に報告して……王都の王国騎士団がダンジョンの調査に動いて……学園長も騎士団と一緒に大急ぎで学園都市へと戻って。
今、ここ。
とにかく王国がえらいことになってる。大騒ぎだ。
どうしてこうなった?
不思議すぎる。
そういう状況をボクがなんでそんなにくわしく知ってるのかというと――。
「……シーアルドくんも、昨日のダンジョン実習で何が起きていたのかよくわからない、と?」
「はい、学園長。ボクたちのパーティーの実習はちょっとした失敗はありましたけど普通に終わったと思います。ダンジョンで何が起きていたのかはボクにはわかりません」
――ボクの目の前にいる学園長がいろいろと説明してくれたから、だったりする。お疲れさまです。
今、昨日のダンジョン実習に参加した全ての学園生から先生方が聞き取り調査をしてるんだ。
その先生方のうち、どうしてボクの聞き取り担当が学園長なのかはよくわからない。イセリナ先生がよかったとかは思ってない。
たぶん、今までも一緒に馬車で学園長と王都にいったりしたことがあるからじゃないかな? きっとそうだ。
ボクだけじゃなくて、アリスティアお嬢さまやナイスクマリーも学園長が聞き取りをしてる。
そう。ボクだけじゃない。
これはきっと普通なんだ。そのはずだ。ボクだけが特別ってわけじゃない。
ソードアークは騎士学園の学園生だから、騎士学園の先生から聞き取り調査を受けてるはず。
聞き取り会場が学園長室っていうのもきっと……普通……じゃないか、それは。
そこだけは普通じゃない。そこは認めざるを得ない。
でもでも、この聞き取りってあの実習に参加した学園生全員が受けてるから!?
ボクだけじゃないから!?
むしろあれだよ!
ボクをなんとなく見下してそうな副学園長からこういう聞き取りを受けるよりも学園長の方が絶対にいいし!
「……キミたちのパーティーのちょっとした失敗というのは何かね?」
「誰かを悪くいうつもりはないのですけど……斥候役として先頭を進んでいた騎士学園のソードアークという騎士見習いが、トゲネズミと最初に接敵した時に自分で倒そうとして全部逃がしてしまったことです」
そう。
ソードアークの悪口ではないです。はい。
同じ孤児院で育った幼馴染みなので悪くいうつもりはないんです。気安い関係というか、そんな感じなので!
「それ以外に変わったことはなかったかね?」
「それ以外に変わったこと……ええと、変わったことかどうか、ボクには判断がつかないんですけど、ソードアークがその……今回の実習の作戦というか、目的というか、そういう部分をあまり理解していなくて、ですね……説得するのが大変だったというのは、あります」
「ああ、なるほど……キミと同じ孤児院の出身という彼か……」
学園長はソードアークがボクと同じ孤児院の出身ってことまで把握してる、と。
うぅ……ボクが『なんとか魔術師』である限り、いろいろと調べないとダメなんだろうな。まあ、大した内容はない人生だけど。
……それにしても……ソードアークの悪口をいうつもりはないんだけど、どんどんソードアークの悪口をいうハメになってる気がする。
いや、悪いのはソードアークであってボクではない……はず。
「ふむ……」
学園長がごく短い時間、一度目を閉じた。
何かを考えてるって感じで。
そして、再び目を開くとまっすぐにボクをみた。
何かを見極めようとしてる。そんな感じで。
「……キミのパーティーメンバーであるシュタイン伯爵令嬢やナイスクマリーくんから聞いた話と一致している。矛盾もない。おそらく騎士学園でのもうひとりのパーティーメンバーからの聞き取りとも大したちがいは出てこないだろう」
……ですよね?
いやでも、ソードアークだからなぁ。
なんかあやふやな話をしてボクたちの話と矛盾が出たりするかもしれない。
まあ、その場合、ひとりだけちがう話をしてるソードアークがおかしいってことになるだろう。
「だが……今回の一件はあまりにも異常だ」
それは、そうなんだろうと思う。
でもボクのせいではない、はずだけど!
「かなり弱いモンスターとはいえ、ダンジョン内で発見できなくなるような殲滅状態はありえない。そのような強力な何か……例えば魔法であるのなら、『なんとか魔術師』の魔法による殲滅なのではないかという考えも……生まれてしまう」
「あ、あの……」
ボクはきょろきょろと周りを確認した。
今、学園長室にはボクと学園長しかいない。
「……今、ここにはボクと学園長だけなのでいいますけど、ボクの魔法は掃除の魔法です。だから、どんなに弱いモンスターだったとしても掃除の魔法で倒せるとは思えませんし、ましてや殲滅とか全滅なんてありえないと思うんです……」
あの時のダンジョンの中で、何が起きたのかはボクにもわからない。
これは本当のことだ。
そして、掃除の魔法でモンスターが倒せるとは思えない。
これも本当にそう思う。
……ただし、あのなぞのカードが実は掃除の魔法ではないという可能性は残ってしまうけど。
「……そう。それは、その通りなのだが……ううむ。いや、そうなのだろうと思う」
よし。
切り抜けた。
乗り切ったよ、ボクは。
この大ピンチを!
これがただの聞き取りではなくて、尋問とか拷問とかだったら危なかった。
あの事件のことはボクにはわからない。
これが事実だ。たった今、事実になった。
「よし。聞き取りは以上とする。では、いってよい」
「はい」
ボクはソファから立ち上がって、学園長に背中を向けて歩き出す。
なんだかボクの背中に学園長の視線が刺さってるような気がする。
ドアを開いたところで一度、学園長の方を振り返る。
……めちゃくちゃこっちを見てるぅぅぅぅ。
「それでは、失礼いたします」
「うむ。これからも頑張ってくれたまえ」
ボクは学園長室を出て、ドアをパタンと閉めた。
心臓がドキドキしててちょっとつらい。
必死で頑張って、うまく説明できたとは思うけど。
……やっぱり疑われてるよなぁ。
ボクはそんなことを思いながら寮へと戻ったのだった。
寮の自室でベッドにごろんと寝転がって、ボクは天井をみた。
王城の客室のベッドとはちがって、本当に天井がみえてる。
あの時、ダンジョンを出る直前になぞのカードを使った時の感覚を思い出す。
確かに……想像以上の広範囲に魔法を使ったと感じたのは間違いない。
今までの掃除の魔法にはなかった、魔力が少し減ったかもって感覚もあったし。
でも、ボクの魔法はあくまでも掃除の魔法だ。
モンスターを倒せるはずがない。
そう。
掃除でモンスターが倒せたらメイドが最強になってしまう。
ありえない。
エリンが最強なんて! かわいいけど!
寝転がったまま、ボクはあのなぞのカードをポケットから取り出す。
今思えば、このカードが他の人にはみえない魔法のカードで本当によかった。
イセリナ先生によると魔力視の効果は魔力量の多さによって変化する。
だから……すでにイセリナ先生の魔力量を超えたボクの魔力の本や魔力のカードをちゃんとみることができる人はほとんどいないはずだ。
例えば学園長とか。
あの人ならみえるかもしれない。怖い。
うん。
絶対に学園長の前ではカードを出さないようにしよう。
それにしても、このカードって本当に大量のモンスターを殲滅したんだろうか?
もし、そうだったとしたら……。
ボクって実は……掃除の魔術師じゃないってこと?
それとも……あれはダンジョンの大掃除って意味で、やっぱり掃除の魔法なんだろうか?
まだまだわからないことが多い。
でも、研究も……これからはイセリナ先生にこのカードのことを説明するわけにもいかないし、なかなか進められない気がする。
一番いいのは……ボクが普通の属性魔法を使えるようになることだけど。
そっちは全然使えるようにならないんだよ。
困ったもんだ。
せっかくの魔力量が完全に無意味な状態になってるという……。
とりあえず、このなぞのカードは封印しよう。
一応、『止揚』で新しく作ったり、『子葉』で増やしたりはするけど。
問題なく使えると判断できるまでは、使わないことにする。
……王国騎士団を召喚できるカードになってしまったからな。ダメだろう。
ほうきのカードをそのままにして時間切れで消滅させてしまうのはもったいないから、『止揚』でなぞのカードも増やしておくのはいい。
でも、これは使わない。
そういう意味での封印だ。
ボクは天井となぞのカードを重ねるようにしてみつめながら、そんなことを思った。




