第18話 これがはじめての……? ドキドキ……
「よし、魔石は確認できた。次のパーティーはダンジョンへ!」
ダンジョンの入口で先生が叫んだ。
騎士学園の先生だ。
だからちょっと暑苦しい感じがする。冬なのに。
今日は学園都市の外にあるダンジョンでのダンジョン実習だ。
初のダンジョン実習となる今回は、パーティーメンバーの人数分のトゲネズミの魔石をもって帰ることが課題だ。
自分で倒す必要はなくて、パーティーメンバーなら誰が倒してもいい。
とにかくひとりひとつ、人数分の魔石を入手する。
トゲネズミの魔石は位なしと呼ばれる一番小さくて魔力が少ないものらしい。
つまり弱いモンスターってことになる。
例えば有名なゴブリンとかコボルトって呼ばれるモンスターを倒せば第1階位の魔石が手に入る。
もっと強いモンスターなら第2階位の魔石、第3階位の魔石と数字が大きくなっていく。
魔石はいろいろと不思議な現象を引き起こすらしいけど、まだくわしくは教えてもらってないからよく知らないんだ……。
はじめてのダンジョン実習を終わらせると、ボクたちは実習用ダンジョンへの出入りを許可してもらえるようになる。
位なしの小さな魔石でも売ればお金になるからな……お金、大事。
まあ、ボクは金貨500枚くらい貯金があるみたいだけど……。
今回は事前学習において、騎士見習いは護衛と斥候を務め、魔術師見習いが魔法でトゲネズミを倒すと教わってる。
トゲネズミは接敵するとまず逃げるモンスターなので、騎士見習いが追いかけるよりも魔法で攻撃した方がいい、らしい。
これはボクの勝手な想像なんだけど、血気盛んな騎士見習いたちに我慢を覚えさせるっていう意図を感じるんだよね。
それ、わざわざはじめてのダンジョン実習でやらなくてもよくないかな?
……なんていうか、ボクはまだ攻撃魔法が使えないので魔術師見習いなのに剣をもって騎士見習いみたいになってるけど。
もちろん血気盛んなあの人たちとはちがって、ボクはダンジョンで無理するつもりはない。
このダンジョンでは入口付近にトゲネズミが多いということなので、この実習ではひと組ずつパーティーが入って、出てくるまでは待つ。
今さっき出てきたパーティーもだいたい15分くらいで戻ってきた。
次はボクたちの番だ。
「では、入りましょう。順番ですけれど、前はソードアーク、後ろはシーアルドで本当にいいのかしら?」
「はい、お任せください! アリスティアお嬢さま!」
「そういうところが心配ですわ……」
……アリスティアお嬢さま、わかります。心配ですよね。
ソードアークが元気よくアリスティアお嬢さまに答えてるけど、反射的な返事だろうと思う。
その自信はいったいどこからやってくるのか……相変わらず何も考えてないんだろうなぁ……。
普段は騎士学園と魔法学園で分かれているので、ソードアークがどのくらい勉強しているのかはわからない。
はじめてのダンジョンだし、いろいろと注意は受けてると思うけど……うーん。
まあトゲネズミは基本的に逃げるモンスターだという話だから問題ないか。
ボクたちはソードアークを先頭にして、ゆっくりとダンジョンへと入っていく。
ソードアーク、ナイスクマリー、アリスティアお嬢さま、ボクの順番だ。
ナイスクマリーとアリスティアお嬢さまは途中で順番を入れ替える予定になってる。
最後にボクがダンジョンに入った瞬間、いつもの直感がやってきた。
この感覚は……わかる。
掃除の魔法が使える、という本能的な感覚だ。
……いや、なんでダンジョンの掃除を? 意味がわからない。
今日のボクは偽騎士見習いだ。魔法の出番はない……んだけど。
使えるという直感がしたんなら、準備はした方がいい。
魔力を循環させて、いつものように魔力の本を出す。
自分でめくろうとしなくても、1ページ目と2ページ目が勝手に開く。
……3ページ目と4ページ目は自分でめくらないと開けないから、この最初の見開きは特別なんだろうと思う。
ドクン……。
ボクの心臓がはねた。
ボクの目が、1ページ目……左のページにはめ込んだあのなぞのカードへと引きつけられる。
いつも『使用』で使っていた右のページではなく、左のページだ。
最初にはめ込んだほうきのカードが消えてしまってから、左の1ページ目は使ったことがない。
正しくは、使えたことがない、になる。
カードが消えてなくなるのも嫌だった。
それが今……使えるとボクの直感がささやいてくる。
これはヤバい。
え?
これを……なぞのカードを使えってこと……?
いやいや。
なんでダンジョンをこのカードで掃除しなきゃダメなんだ? 本当に意味がわからない。
しかも、今のところ最大の効果がありそうな掃除の魔法で……?
……まだ使ったことがない上に、ほうきの絵がないカードだから本当に掃除できるのかどうかもわからない。まあ、それでも掃除の魔法のひとつだとは思うけど。
もちろん、みんながダンジョンの空気を綺麗にしてほしいと思ってるんなら、ボクの掃除の魔法は役に立つだろう。
でも思ってないよな、そんなこと。うん。
それに、ソードアークにはボクの掃除の魔法は伝えてない。
極秘だからだ。
ソードアークが秘密を守れるとは思えない。
孤児院で一緒に暮らしてたボクはソードアークのことはよく知ってる。
……ソードアークの場合は裏切るというより、考えずに行動するからだけど。
うーん。
今ならなぞのカードも使えると思うけど、みんなの前では使えないな……。
「あ! いた!」
ボクの思考を断ち切るようにソードアークの声が響く。
さすがは『剣豪』の声だ。
ソードアークは叫んで、そのまますぐに飛び出す。
チュチュッ! チューっ!
あっという間に5、6匹のトゲネズミが逃げていった。
すばやい。しかもバラバラに逃げてる。
生存本能というものだろうか。
それだけ弱いモンスターってことだけど……実は弱い毒をもってるので、油断はできない。
「……ソードアーク。そういう作戦ではないはずですわ。騎士学園で教わってきたのでしょう?」
「え? 倒せばいいんじゃ……」
「ちがいますわ」
「ちがうぞ、ソードアーク」
「そうだね。まちがってるよ、ソードアーク」
ボクたち魔法学園組はソードアークを否定した。
「えぇ……?」
ソードアークは困惑している。これはダメだ。
騎士学園での話を聞いてないって感じだろう。やれやれ。
脳みそがますます筋肉へと成長してるらしい。このままだとせっかくの『剣豪』のジョブがもったいない。
隊長格にはなれずに、特攻戦力として単独で戦場へと飛び込む役になる未来がみえるよ、ソードアーク……。
いや、ソードアークの場合、それを一番槍だと喜びそうだけど。
「斥候役の騎士見習いがトゲネズミをみつけたら、手で合図するか、小さな声で伝えるか、だろう? それで魔法使い見習いが魔法を使って倒すんだ」
ナイスクマリーが説明する。実に簡単な作戦だ。
わかってないソードアークがおかしい。
「でもよぅ、それだとオレが活躍できねぇだろ?」
「斥候の活躍は敵モンスターの発見だぞ?」
「でも倒せねぇし」
「いや、倒すのはオレたち魔法使い見習いだからな?」
「ずりぃだろ、騎士見習いのオレにもやらせてくれよ」
「おまえってヤツは……」
あ、うん。
このダンジョンにくるまでにヌーヴォルスって騎士見習いにからまれたのも納得かもしれない。
ソードアークがこんな感じだとすると、一緒にいたら腹が立つだろう。
しかも、剣技だとソードアークが上になる……のはますます苛立つはず。
「……シーアルド。お願いしますわ」
アリスティアお嬢さまがボクにそうささやいた。
これはソードアークをうまく動かせ、という意味だよね。
ナイスクマリーがいくら正しいことをいっても、ソードアークは納得しない。
だから、孤児院で一緒にいたボクにどうにかしろってことだ。
……アリスティアお嬢さまが命令するって手もあるけど、たぶんそれは最後の手段にとっておきたいんだろう。
「なあ、ソードアーク」
「なんだよ、シーアルド」
「この課題はだいたい15分くらいで終わるだろう? さっきまでのパーティーはみんなそのくらいだったはずだし」
「あん? そうだな。簡単な課題ってことだろ?」
「でも、さっきボクたちのパーティーは5匹くらいのトゲネズミに逃げられたじゃないか」
「だからなんだよ?」
「ボクたちのパーティーが今回の実習で一番早くこの課題を終わらせるチャンスだったのに、それをソードアークが潰したんだ。わかってないのか?」
「なっ!? オレのせいだっていうのかよ!?」
「ちがうちがう」
こうやって一度、怒らせておいてから……。
「何がちがうんだよ?」
「ソードアークは今回の実習で一番になりたくないのかって話だよ」
「は? なりてぇに決まってるだろ!」
「それなら、教わった作戦通りにやらないと……次もトゲネズミに逃げられると思うよ?」
「いや、オレが倒せばいいだろ?」
……ここだな。
「え? ソードアークはあんなネズミが倒したくて剣の訓練してるのか? たかがネズミだろう?」
「は……? あ、いや……」
「騎士見習いになったからには……この先、いつかは騎士になったとして、『オレはネズミを倒せるんだぜ』って威張るのか?」
「そ、そんなんで威張るわけねぇだろ!?」
「だよなぁ。ネズミだし」
「そ、そうだよ」
「騎士になった時に自慢できるのは『実習で一番早く課題を終わらせたのはオレたちだったぜ』って話なんじゃないか?」
「うっ……」
「今、こんな話をしてるだけでも時間の無駄なんだけど……いいのか、ソードアーク? 斥候役が嫌ならボクが代わってもいいけど?」
「い、いや。やる。早く倒そうぜ」
そういって、ソードアークは前を向いた。
そのまま、急ぎ足で前に進もうとする。
「護衛役も兼ねてるんだからひとりで進もうとするなよ? ゆっくりと、トゲネズミが逃げないように足音もできるだけ消す方がいいと思う」
「お、おう……」
ソードアークが一度立ち止まってボクたちを待ってから、慎重に進みはじめた。
やれやれ。
どうにかなったかな?
「……よくやりましたわ」
「はい。とにかくこの実習を終わらせましょう……」
「そうだな……助かったよ、シーアルド」
ボクたち魔法学園の3人はこっそりそんなことをささやき合ったのだった。
……ソードアーク。たぶん、もうあんまり出世できないよ。どうにかして自分で挽回しないと知らないからな?




