第16話 魔法学園にきて3カ月が過ぎました……
「……うーん。やっぱり水、風はまちがいないようですね。光については……判断が難しいとしかいえません」
「以前、学園長は光もあるとおっしゃっていましたけど……」
ボクはイセリナ先生の研究室で『掃除の魔法』の研究をしている。
今は、イセリナ先生が魔力視で掃除の魔法を使う時のボクの魔力の動きを確認してくれてる……んだけど、ちょっと問題が発生してる。
「この方法はカーインド学園長に頼んだ方がいいかもしれませんね。学園長はお忙しいので難しいとは思いますけれど」
「……あの、本当にボクの魔力量はもうイセリナ先生よりも多いんですか?」
「はい。そう伝えましたよね?」
確かにイセリナ先生からはそういわれたけど……その気になったら魔力量は偽装できるって話だったし。
実際、以前はイセリナ先生が魔力量を偽装してた。
「卒業直前までは負けないと思っていた自分が恥ずかしいです。まさか、入学からたった3カ月くらいで追い越されてしまうなんて……。これでもわたし、学園生の頃は優秀だといわれていたんですよ?」
ボクもびっくりしてます。
そんなに魔力量が増えるなんて……正直なところ、魔力量が増えてるなんて実感がないし。
でも、魔力視を使うと確かにイセリナ先生の魔力が薄くみえるんだよな。
自分よりも魔力量が少ない人の魔力は薄くみえる。
魔力量を偽装してれば薄くなるから……ボクがみてるイセリナ先生の魔力量が正しいとは限らないんだけど。
「掃除の魔法の効果範囲が変化していたので、シーアルドくんの魔力量が増えているとは思っていましたけれど……まさか、ここまでの濃さとは。すでにカーインド学園長より多い可能性も考えられます。ただ、その場合は掃除の魔法を魔力視で調べることはもう難しいとしか……」
ごめんなさい、イセリナ先生。
掃除の魔法の効果範囲が変化したのは、ほうきの数が異なる別のほうきのカードを使ったからなんです……。
だから魔力量の変化とは関係ないかもしれません。
もちろん、関係あるかもしれないけど。
ほうきのカードについてはイセリナ先生にまだ説明してない。
というか……相手がみえないものを説明するのってすごく難しい。
ボクの妄想を垂れ流してるみたいな感じになるから。
そういうのってすごく恥ずかしいだろう?
掃除の魔法の研究は難しいけど、それでも研究はしないとダメ。
これって本当に大変な研究なんだろうと思う。
……個人的にはイセリナ先生と一緒にいる時間が多くなるから大歓迎だけど。
「こうやって研究していけば、いつかはみんなが掃除の魔法を使えるようになるんですか?」
「起句の『ウピヨーグ』はおそらく『掃除』を意味する古代神聖語でしょうし、水、風、光がどのような影響を与えているかまで分析できれば、そのあたりの呪文を組み立てることは不可能ではありませんよ」
そういってイセリナ先生はにこりと笑った。
素敵な笑顔をありがとうございます。
「……でも、掃除の魔法を研究する意味ってありますか? イセリナ先生?」
「その疑問は……どう答えたらいいんでしょうね。新しい魔法を一般化して普及させることに意味はあるはずですけれど……」
掃除の魔法が広く使えるようになったとして、だ。
そのことに意味はあるんだろうかって話になってくる。
「平民出身の先生方は喜ぶかもしれませんね。研究室の掃除が楽になりますし、自分の魔法で済ませてしまえば掃除をする人を雇わなくて済みますから。研究室だけでなく、家でも、です」
「ああ、そうかもしれませんね」
貴族の先生方の場合は、メイドを雇っていれば掃除の魔法は必要ない。
エリンのように『メイド』のジョブを授かったら掃除は綺麗にできるからだ。
でも、平民の先生方は自分で掃除をする手間が省けるってことか。
もしくはメイドさんを雇う必要がないから、その分の給金を払わなくてよくなる。
ちなみにイセリナ先生の研究室の掃除はボクが魔法でやってるので、イセリナ先生が実家の侯爵家から呼んだメイドさんたちは本の整理整頓をして帰っていった。
イセリナ先生からは掃除の報酬もちゃんといただいております……。
入学した頃のなつかしい思い出だ。まだ3カ月前の話だけど。
「……それに、シーアルドくんが魔法を使う時の魔力量の変化をみている限りでは、掃除の魔法に必要な魔力量はおそらくごくわずかだと思うんですよ。シーアルドくんも……ほとんど魔力を使っている気がしないのではありませんか?」
「それは……そうですね」
ボクはそもそも他の人よりも魔力量が……いや、今ではイセリナ先生よりも魔力量が多い。
そこと関係があるのか、ないのかは不明だけど……『使用』で掃除の魔法を使った時に自分の魔力が減っているという感じはほぼゼロだ。
魔法が発動してるから絶対に魔力を使ってるんだけど、魔力の変化や魔力の減少をボクはちっとも感じないというか……。
「生活を楽にする魔法ですからね。必要な魔力量が少ないのであれば、求める魔術師はいるはずです」
「なるほど」
確かに、人間というのは楽をしたいと考えるものだ。
めんどうくさいのは誰でも嫌だろう。
掃除なんかしなくても死なない、という人もいるかもしれない。
でも、さくっと呪文を唱えるだけですぐに部屋が綺麗になるんなら、使えた方がいいって思う人もいるだろう。
……でも、本当に掃除の魔法を分析して、使えるようになるのかはわからないからなぁ。
「……こんな感じで分析して、他の人が使えるようになった魔法ってこれまでにあるんですか?」
「ありますよ」
「あるんだ!?」
それはびっくり。
「あの有名な『雷撃の魔術師』の雷魔法は、研究によってある程度使えるようになっているらしいです」
「えっ……」
「キイマカリー以外の国では使える人はごくわずかだと聞いていますけれど」
その人、確かこの国に招待してボクと話をさせようってことじゃなかったっけ。
そんな強力な魔法を研究して他の人が使えるようになるっていうのは、ものすごく価値があるような気がする。
……ボクの掃除の魔法はそのへんがものすごく微妙だと思う。
「もちろん、一般化された雷魔法は『雷撃の魔術師』が使う雷魔法よりもはるかに弱い魔法だという話です。それでも『雷撃の魔術師』というジョブが授けられるまでは存在しなかった雷魔法が今は存在しているわけですから。ああ、そういえばあの方もジョブを授かった時はシーアルドくんと同じ『なんとか魔術師』でしたね」
そう。
有名な『雷撃の魔術師』はもともと『なんとか魔術師』だったらしい。
だからボクにしてみれば、偉大な先輩になるわけで。
「そろそろ訪問予定が決まりそうだという話を聞いています。楽しみですね。シーアルドくんはもちろんですけれど、王城だけでなく魔法学園にもいらっしゃる予定ですから話せる機会があれば雷魔法についていろいろと聞いてみたいですね」
イセリナ先生は魔法が大好きで……運動神経はちょっとやばい人だ。
だから、隣国からわざわざ『雷撃の魔術師』がやってくるなんて楽しみで仕方がないのかもしれない。
「……っと。これでほうきのカードは確保できた」
寮の自分の部屋に戻ったボクは光るほうきからほうきのカードを集めていた。
このカードを今度は魔力の本の3ページ目にはめ込んで『子葉』で増やしておくし、4ページ目で2枚のカードを使って『止揚』でほうきが3本のカードにするのも忘れない。
こういう地道な活動がボクの掃除の魔法を支えてる。
この3カ月で掃除の魔法について、いろいろなことがわかってきた。
まず……残念な部分だけど……ほうきのカードは入手してから数日後には消えてなくなることが判明した。
これは一番最初に1ページ目の枠にはめ込んだほうきのカードが消えてしまったことでわかった。
それから毎日、カードの枚数を確認していると、時々減ってるからまちがいない。
……同じ絵のカードはどのカードも全く同じだから区別がつかないってところがめんどうくさい。
せめてどのカードが先に消えてしまうのかくらいはわかるといいんだけど。
それこそ数字で残り時間がわかればいいのに。
このカード、ペンで何かを書き込もうとしても何も書けないし……紙なんかで包み込んで区別しようとしても包み込めない。
それなのにポケットには入るという不思議なカードだ。
ポケットをわけることで区別してるけど、ポケットの数には限界があるし。
魔力の本と同じで……魔力のカードなんじゃないかとボクは考えてる。
だから紙で包んだり、ペンで字を書いたりできないんだと思う。
つまりほうきのカードを増やすことはできるけど、同時になくなっていくということでもある。
……まあ、ほうきのカードが1000枚とかあってもそれはそれで困るけど。
次は大きな成果といえる部分。
これは……4ページ目の『止揚』でほうきが10本のカードを生み出せたことが大きい。
ほうきが3本のカードを2枚使えば、ほうきが10本のカードが出てきたのだ。すごかった。
ちなみにほうきが10本のカードを2枚使えば、なんだかおかしなカードが出てきたのも成果なのかもしれない。
そのカードにはもうほうきの絵はなくて……たぶん、床がピカピカになってますって感じの光みたいに星型のマークがいくつか描かれたカードだ。
この星型マークのあるなぞのピカピカなカードは4ページ目の『止揚』の枠に入らなかった。
たぶん……ほうきのカードを『止揚』できるのはこのなぞのカードまでが限界なんだろう。
そして、それぞれのカードの効果範囲について。
ほうき3本のカードが1枚でイセリナ先生の研究室全体が綺麗になる。
つまりほうき1本のカードがだいたい4枚分くらいの効果だ。
ほうき10本のカードだと歓迎会のパーティー会場になったすごく広い部屋を1枚で綺麗にできる。
ちょっとした建物を丸洗いするみたいな使い方もできた。
あれは学園生の間でちょっとした騒ぎになったので、これからは実験する場所をしっかりと選ぶ必要があるんだよな。
建物が丸洗いできるんなら掃除に関してはほうき10本のカードで十分だと思う。
だから……なぞのピカピカ星マークカードはまだ使ったことがない。ていうか、なんだか怖くて使えない。
でも、数日で消えてなくなるから……それはそれでもったいないと思う。
とりあえず1枚だけ、どこか外で使ってみようとは思ってる。
でもなぁ……このなぞカードだと、あのクソ広い園庭を丸ごと綺麗さっぱりにできてしまいそうな気がする。
そうなったら秘密のままにしておけないかもしれないから……どうしようか……。
「せめて1回くらい、エリンにみせてあげたいんだよなぁ……でも、威力が高いやつだと絶対に無理だけど。もちろん、それ以外も……ダメだけど」
エリンはボクのことをずっと心配してる。
魔法が使えることをみせてあげたら安心できると思うけど、それは許されない。ボクが魔法を使えることは極秘だからだ。
まさか掃除の魔法の威力で悩む日がくるとは思ってなかった。
掃除と威力って関係ないよね?
あとは……1ページ目と2ページ目のカードの枠が増えてることくらいか。
だいたい入学から1カ月くらいでどちらも枠が上2つ、下1つの3つになって……つい最近だけど3日前くらいに上2つ、下2つの4つの枠になった。
この先もまだ増える可能性はあるだろう。
まだ左の1ページ目の枠でほうきのカードを使ったことはないけど……このページっていったい何なんだろうか?
古代神聖文字の教授が隣国でおこなわれてる研究会から戻ってきてないので、魔力の本に書かれてる文字はまだ読めないままだ。
年末年始の休暇の前には騎士学園と合同で初のダンジョン実習もあるし……。
いろいろ忙しい日々が続きそうな気がする。
ああ、めんどうくさいなぁ……。




