第15話 侯爵令息? とりあえず凹ませとく
「魔法学園入学からおよそ半月となりましたが、私はまだ魔法が使えません。それなのに……どうやら、おかしな魔法が使えるという噂が流れているようです」
「噂……そう、ですわね。おかしな噂ですわ」
ボクはまず、魔法が使えないと言い切っておいてから……さらには噂ということにした。
ボクが『掃除の魔術師』なんて話は噂でしかない……ってことにしてしまおう。
「噂だと? そのような嘘で誤魔化そうとするなど愚かな……」
「まったくだ」
「嘘をついてまで自分がすごいといいたいとは……情けないヤツめ」
ラレヤール侯爵令息とその取り巻きがそんなことをいってるけど、キミたちに話しかけてないから。
無視しておく。
ボクはあくまでもアリスティアお嬢さまと話してるだけだ。
下手に侯爵令息と話したら、不敬だとかいわれてしまうかもしれないし。
「しかし、学園長やイセリナ先生からは『シーアルドの魔法については極秘とするように』と命じられています。アリスティアお嬢さまもご存知のはず。ですから、私の魔法については噂になること自体が……大きな問題になるかもしれません」
「大きな問題に……? どういうことでしょうか、シーアルド?」
アリスティアお嬢さまは真剣な表情で応じてくれてるけど、それなりに顔を合わせてきたボクにはわかる。目は少し好戦的に笑ってる。
さて、腐った侯爵令息くん。
よーく耳をすませて聞くように!
「実は……昨日、私は学園長に連れられて王都へいったのです……」
「ええ!? 王都へですか!?」
さすがはアリスティアお嬢さまです。
知ってるのに知らないフリ。ちゃんとボクの意図が推測できてる。
「はい。学園長は王家の方なので、私はこの国ではじめての『なんとか魔術師』として女王陛下との顔合わせがおこなわれました」
「女王陛下と!? ……いえ。『なんとか魔術師』ならば当然ですわね」
ボクとアリスティアお嬢さまは腐った侯爵令息たちを見ないようにして、そのまま話し続ける。
「女王陛下からも私の魔法については極秘だといわれております。極秘のものが噂として広まっているとなると……この国の防衛上の問題となるかもしれません」
「この国の……防衛、ですか……?」
「はい」
ちらりと横目でみてみると……腐ったラレヤール侯爵令息たちはだいぶ顔色が悪くなってる。
女王陛下って言葉の破壊力がすごい。
……ニーラも顔色が悪くなってるから心配だけど、これはもうアレだろうなぁ。
「女王陛下や学園長の話では、国防上、『なんとか魔術師』の存在は大きいらしいです。だから、私がどのような魔法を使えるのかという話を極秘とすることで周辺諸国に対して……なんといいますか、牽制しているのだろうと思います」
「なるほど……そういうことですか。確かに……『なんとか魔術師』は隣国の『雷撃の魔術師』さまのような強力な魔法が使えるといわれていますから、防衛のためには秘密にすることも必要ですわね」
「それが……おかしな噂で弱々しい魔法だと広まってしまうと……」
「ああ、そういうことですか」
小さく2回、アリスティアお嬢さまがうなずいた。
「周辺諸国から戦争を仕掛けられる可能性も、あるかもしれませんわね……」
その言葉はとても冷たく響いた。
さすがはアリスティアお嬢さまです。
「ええ、そうなのです。だから……そういう噂を振りまいている者は隣国の間者か、もしくは王家に対してよからぬ考えをもっている可能性が高いのではないか、と」
「そうですわね。この国に対する……裏切りともいえそうですわ」
聞こえたか、ラレヤール侯爵令息くん?
キミは……王家に逆らう反逆者かもしれないって話だけど? 大丈夫?
今、どういう気持ちかな?
別に聞くつもりはないけど、どういう気持ちかな?
ボクやアリスティアお嬢さまに手を出そうとしたから、こうやって仕返ししてるんだ。
もっと反省した方がいいと思う。
「それでは今すぐ学園長室へ向かいましょう。このようなところで時間を無駄にしてはなりませんわ。すぐ学園長にお知らせしなければ」
「はい。そうしましょう、アリスティアお嬢さま」
そこでようやく、アリスティアお嬢さまはラレヤール侯爵令息を振り返った。
「大変申し訳ございませんけれど、急ぎ、学園長に伝えなければならないことができました。この国のために。ですから……ラレヤール侯爵令息と話している時間はございませんの。失礼いたしますわ」
「ま、待て……」
引き留めようとするラレヤール侯爵令息をそのまま置き去りにして、アリスティアお嬢さまは学園長室の方へと歩いていく。
もちろん、ボクたちも、だ。
このくらい太い釘を刺しておけば、これ以上バカなことはしないだろう。
ちょっとした脅しだけど、別に嘘はない。
脅しをかけた相手が高位の貴族だとしても、ボクはあくまでもアリスティアお嬢さまと話していただけだ。そこは問題にさせない。
しばらくの間はビビッて反省でもしてろ。
そして、もう二度とボクにからんでくるな――。
――なんて思っていた自分が怖い。世間知らずとしかいえない。
甘かった。
ボクは何もわかってなかった。
それはきっとアリスティアお嬢さまも同じなんだろうと思う。
「調査の結果、シーアルドくんのことを『掃除の魔術師』だと聞いた学園生は17人だった。教師の中には3人いた」
学園長室で学園長がそういった。
そう。
アリスティアお嬢さまと一緒に学園長室へいって……本当に学園長に会えたので、ボクが『掃除の魔術師』といわれていることを伝えたら……。
学園長はすぐに調査を開始した。
学園生の中にはすでに自分の寮へと戻っていた人もいたのに、それを全部呼び戻して調べたのだ。
今はもう夜になってる。
どうしてこうなった……?
……いや。女王陛下も関係してる国防に関する話だから、そこまでやらないとダメなんだと今は理解できてるけど。
「情報を拡散したのはラレヤール侯爵令息でまちがいないようだ。キミたちが急いで知らせてくれたので手が打てる。いい判断だったね」
ボクとアリスティアお嬢さまは学園長の言葉にただこくりとうなずいた。
何をいうべきかよくわからないから、それくらいしかできない。
「二次的、三次的に情報を聞いた者については、誤解を解いた上でおかしな噂を広めないよう徹底的に注意しておいたので問題ないだろう。かなり厳しく、だ」
うひぃ……。
温厚な学園長の表情が真剣すぎて怖くなってるのがかなりやばい気がする。
「拡散の中心となった3名は現在、地下の個別指導室に閉じ込めている。また、キミたちの友人でもあるニーラくんについても同じだ」
個別指導室って……うーん。
でも、地下なんだから、うん。たぶん、そういう部屋だ。
牢屋的なアレ。
地下牢よりはちょっとマシだとは思うけど。
「……ニーラがシーアルドの魔法について情報をもらしたということでしょうか?」
「聞き取りによるとそうなっている。もらしたというより、売ったというか……売るしかなかったという面もあるだろう。相手が侯爵令息だからね」
アリスティアお嬢さまの問いかけに、学園長は腕を組みながら答えた。
ニーラは確か商会の息子だったはず。
情報の商売をした……いや。させられたのか。
平民が貴族と真正面からやり合うのは難しいというか、やるべきじゃない。
侯爵令息が相手となると、もうどうしようもない。
だからボクはアリスティアお嬢さまやイセリナ先生に守られてるわけだし。
ニーラは……アリスティアお嬢さまに守ってもらえなかった。
それはたぶん、ボクのせいだろう。
アリスティアお嬢さまがボクを守ることに集中していたから、その手からニーラはこぼれ落ちてしまった。
「正確には……ニーラくんから情報を得たラレヤール侯爵令息がバレル先生に確認したことでシーアルドくんが『掃除の魔術師』だと判断した、ということになる」
「学園の教師が関係していたとは驚きですわ……」
ボクもびっくりした。
まさか、先生たちの中に情報をもらした人がいるなんて。
「バレル先生他、合わせて3人の先生方に情報をもらしたのは副学園長だった。副学園長については半年間の減給処分となる。降格も考えたが……なかなか難しい面もある。先生方で情報を共有しておくこと自体は必要な場面もあるから、だ」
ふぅ、と息をはく学園長がなんだか大変そうだ。
ボクのせいではないと思うけど、ボクがいたからこうなったというのもある。
そこは申し訳ない気持ちもないこともない。
「バレル先生は捕縛し、北東の塔に監禁している。学園生に情報をもらすことは許されない。彼はもう魔法学園では二度と働けないだろう。まあ、その程度では済まないのだが……」
どの程度になってしまうのかは聞きたくないです、はい。
「ニーラくんも含めて、4人の学園生は……確実に退学となる。そこだけは決定している。あとは王家とも調整して……それぞれの家にも何らかの処分があるだろう。ラレヤール侯爵令息と共に行動していたふたりは子爵令息と男爵令息だからね」
あ、やっぱり取り巻きの人たちも貴族だったのか。
ニーラくんの実家の商会は、ちょっとちがうのかもしれない。
そのへんはよくわからないし、学園長に聞くつもりもない。
……それにしてもニーラくんは退学かぁ。仕方がないとはいえ、せっかく仲良くすごしていたのに。残念だ。
いや、まさかラレヤール侯爵令息とかまで退学になるとは思ってなかった。
厳しく叱られて終わり、くらいに思ってた。貴族だし。
それがボクの甘さだ。
まあ、後悔はしてない。
ラレヤール侯爵令息に恨まれてめんどうくさい気がするけど……魔法学園にいないんなら、とりあえずは大丈夫だ。
……学園ではないところでは大問題かもしれない。
どうか侯爵家から仕返しがきませんように!
前半はここまで。
後半は1月から再開の予定です。
ぜひとも☆とブクマで応援よろしくお願いします。
それでは、よいお年を。




