第13話 魔力の本が……新たな扉を開く……?
「……知らない天井、いや。天蓋だったかな?」
目を覚ましたボクはそんなことをつぶやいた。
昨日、メイドさんに冷たい視線を向けられながら教えてもらった。
確か、天蓋、でよかったはず。変な質問をしてごめんなさい。
それにしても……なんでベッドに屋根がついてるんだろうか。
意味がわからない。
ここは王城の客室のひとつ。
ボクは昨日、ここに泊ってしまった……。
こんな高級な感じの部屋に泊まるとか、いろいろなところに触らないようにしないとダメで大変だった。
ベッドもそうだけど、ありとあらゆる家具類が高級そうで怖い。
それに女王陛下のこともある。
女王陛下が10歳の美幼女とか、どう考えても守ってあげたくなるだろう?
あんなに幼いのに頑張って女王という立場をこなしてる姿をみてしまうと、ボクがめんどうくさいからといって……何もしないのはさすがにダメな気がした。
小さい子をみると守ってあげたいと思ってしまう。
ボクが孤児院の出身だから、そういう風に考えてしまうものなのか……それはひとりの人間として普通のことなのか……。
頭の中でいろいろと考えさせられてしまった。
だからなかなか寝ることが……といいたいところだけど。
……ベッドがふかふかすぎていつの間にかぐっすり寝てたという。
とりあえず体を起こしてベッドから出て、立ち上がる。
いや、それよりも今の方が重要か。
ボクが泊まった結果、この部屋を汚してしまったという可能性は高い。
空気も含めて。そんな気持ちになってしまう。
この部屋を汚したとかお役人さまたちにいわれたら弁償できない。
たぶん昨日もらった金貨500枚とかだと足りないにちがいない。
金貨500枚がどのくらいの価値なのかすらボクにはわからないけど。
使えてよかった掃除の魔法。
「『使用』、『使用』」
ボクは連続で掃除の魔法を使った。
この客室だと2回で全体をカバーできるくらいの広さだ。
想像していたよりもせまいから、客室の中でも小さなものなんだろうと勝手に思ってる。
たぶん貴族用の客室はもっと広くて高級なんだろう。
とにかくボクの掃除の魔法なら、部屋の中は新品同様にピカピカになる。
メイドさんの掃除以上に綺麗になるみたいなので。
……ただし、ベッドメイクまではしてもらえないみたいだ。なるほど。そうだったのか。
シーツそのものはすごく綺麗になってるような気もするけど、しわになってるから判別が難しい。
もしかすると掃除だけじゃなくて、洗濯っぽい効果もあるのかもしれない。
いったい、どういう魔法なのか……不思議すぎる。
ほうきの絵が描いてあるカードなのに洗濯もできるのってすごいのか、おかしいのか、もうよくわからんけど……。
「……まだまだ掃除の魔法もわからないことが多いな。これからはイセリナ先生と研究を……って、あれ?」
ボクの前に浮かんでる魔力の本が……今までとはちがう感じがする。
……なんだ? これが本能的な直感なのか?
ボクはおそるおそる魔力の本へと手を伸ばす。
ペロン。
「なっ!? ページがめくれた!? 今までは動かなかったのに!?」
いったいどうして?
いや、それよりも……これは……。
めくって3ページ目。
ここには上にカードの枠がひとつ、矢印が下向きになっていてその下にもカードの枠がひとつ。
その横の4ページ目。
こっちは上にカードの枠がふたつで、その間に「+」がある。
下向きの矢印があって、その下にカードの枠がひとつ。
どっちのページにも数字のゼロがいくつも並んで書かれてる。
もちろん、一番上に題名みたいに何か文字があるけど、やっぱりこの文字も読めないヤツだ。
おそらく古代神聖文字で、未解読の可能性が高い。
その次のページは……ダメだ。まだめくれないみたいだ。
「……最初の2ページ分とはちがう形のページなのか。あと、この部分は……」
3ページ目のカードの枠は上も下も両サイドに小さな半円がある。
4ページ目の下の方のカードの枠にも両サイドに小さな半円がある。
「最初の2ページにはなかったから……ひょっとして、はめ込んだカードが取り外せるんじゃないかな?」
1ページ目にはめ込んだほうきのカードは取り外せないまま、今もそこにある。
2ページ目も、はめ込んだら掃除の魔法を使うまでそのままになる。
掃除の魔法を使えばほうきのカードは消えるけど。
カードをはめて、外せなかったら嫌だけど……ボクにはボクの魔法の使い方が本能的にわかるって話だから……。
それなら、ここは実験した方がいい。
まだほうきのカードは余ってるんだし、使っても問題ないだろう。
ボクは3ページ目の上の枠にほうきのカードをピタリとはめ込んだ。
すると、頭の中に起句が浮かぶ。よし……。
「『子葉』」
ピカッ!
すぐに魔力の本が光を放ち……光が消えると下の枠にほうきのカードがあった。
はめ込んだ上の枠にもほうきのカードは残ったままだ。
ただ、ゼロだった数字が『23:59:55』からひとつずつ、数字を減少させていってる。
「これ、カードが手に入るほうきにもあった数字と同じ……」
上の枠にほうきのカードをはめ込むと、下の枠に同じほうきのカードが出てくる。
同時に数字がどんどん減っていくようになって……この数字がゼロになったらもう1回、同じことができるって感じだろうか。
「つまり、ほうきのカードを増やすことができるページ、なのか……?」
ボクは下の枠から新しく生まれたほうきのカードを取り外した。
予想通り、このページの枠からはカードを取り外すことができるようだ。そのための小さな半円の部分なんだろう。
「……そうすると4ページ目は、まさか……」
ボクは4ページ目の上の段にある左側の枠にほうきのカードをはめ込み、さっき3ページ目の上の枠にはめ込んだほうきのカードを取り外す。
そして、取り外したほうきのカードを上の段の右側の枠にはめ込んだ。
さっきと同じように頭の中に起句が浮かぶ。
「『止揚』」
ピカッ!
再び魔力の本が光を放ち……光が消えると下の枠にほうきのカードがあった。
上の段の枠にはめ込んだほうきのカードはどっちも消えてる。
そして……下の枠のほうきのカードの絵が変化してる。
ほうきが3本になってる……ほうきが1本のカードを2枚使ってほうきが3本のカードになるって?
ちょっと数がおかしいような……?
「あ、他にも数字が……ちがうのか……」
右の4ページ目では、ゼロだった数字が『71:59:54』からひとつずつ、数字を減少させていってる。
「こっちの方が数字は大きいから……もう1回このページを使うにはその分だけ時間がかかるってことか」
もう1度使うまでにかかる時間が長いとすれば、4ページ目の方が強力な機能ってことになるはず。
だとすると、ほうき1本からほうき3本になった新しいほうきのカードは……強力な掃除の魔法ってこと?
……強力な掃除って何なんだろう?
ボクはほうき3本のカードを取り外した。
「今から実験……というのは無理か。この部屋、さっき掃除したばっかりだし……」
あと、小さな半円がくっついてる枠はカードの取り外しができるのはまちがいないことがわかった。
取り外せる枠なら、はめ込んでも問題ないってことだ。取り外せるからな。
「ほうきのカードを増やすページと、ほうきの数を増やすページ、か」
ボクはより強力な掃除の魔法が使えるようになる……って。
それはあんまり嬉しくないかもしれない……。
「あとはどうして新しいページがめくれるようになったのか……」
……やっぱり、掃除の魔法を使った回数のせいだろうか?
これからもずっと、何度も何度も掃除の魔法を使っていけば……他のページもめくっていけるようになるのか……?
でも、そのためにはまずほうきのカードをたくさん集めないとダメだし……いや。
1ページ目と2ページ目も枠そのものが増えたことがある。
ひょっとすると3ページ目で増やすのも枠が増えるって可能性も……あるかもしれない。1枚のカードが2枚に増えるようになったらありがたい。
そういう楽ができるのは最高だと思います!
女神さま! ぜひともそういう感じでお願いします!
「……とにかく、今はほうきのカードをどんどん貯め込んでおかないとダメか」
寮の部屋に確保してるほうきから手に入るカードと、この3ページ目で増やせるカードでどんどん枚数を増やすこと。
増やしたカードでほうき3本のカードも増やすこと。
その上でどんどん掃除の魔法を使うこと。
可能性としては、ほうき3本のカードを2枚使ってもっとほうきが多いカードができるかもしれない。
そうやっていけば……いつかはボクも掃除を極めることができる。
……え?
掃除を極めてボクはいったいどうするつもりなんだ……?
史上最高のメイドをめざすってこと!?
ボク、男なんだけど?
ボクはエリンみたいにはなれないと思うんだ。
……『なんとか魔術師』って、『なんとか』が『掃除』だったっていうのが残念すぎるような……いや。
目立たなくていいのかもしれないけど……すでに目立ってるからなぁ。
こんな感じで、ボクは王城の客室で悩み続けるのだった。




