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Nox Root  作者: 大魔神


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第1話

――あ、終わった。


 真横から突っ込んできたトラックのライトに照らされながら、俺は反射的にそう思った。

 痛みを感じるヒマすらなく、意識はぷつんと途切れた。


 



 


 目を開けると、真っ白な空間にいた。


 家具も地面も無い。

 ただ広がる光の中、やわらかい輪郭をした“人の形”が現れた。


「……こんにちは?」


 自分でも妙に冷静な声だ。


「やあ。まずは伝えよう。君は交通事故により命を落とした」


 淡々と言ったその存在は、続けて自分を“神”だと名乗った。

 いきなり信じろと言われても困るが、ここが現実じゃないことは俺にも分かる。


「……死んだ、んですね」


「うむ。しかし、終わりではない。

 代わりに、新たな世界へ転生する機会を与えよう」


 異世界転生。

 言葉だけなら何度も聞いたジャンルだ。だが当事者になると、思考が追いつかない。


「ただし、せっかくの転生だ。君にはひとつ、望む力――いわゆる“チート能力”を授けよう」


 そう言われて、俺はすぐに返事をしなかった。


 むしろ固まった。


(チート……って、戦う力? 最強魔法?

 いやいや、俺そんなの扱える自信ないし……)


 ぼんやり想像すると、むしろ危険な未来しか見えなかった。

 魔王に狙われたり、変な事件に巻き込まれたり――。


(それより……どうやって生活するんだ?

 食べ物、寝る場所、水、知識……そっちの方がよっぽど重要じゃないか?

 俺みたいな一般人は、まず“日常の基盤”がないと絶対死ぬ)


 じわじわと現実的な計算が頭を占めていく。


「……そのチートって、具体的には何を?」


「身体能力の強化、魔法適性の付与、希少スキルの授与…望むものは何でも」


 どれも魅力的に聞こえる……はずなのに、俺はどうも浮かれられなかった。


「すみません。戦闘力とかより……

 “安心して暮らせる場所”を用意してもらえませんか?」


「……ふむ?」


「力を貰っても、使いこなせる自信が無いんです。

 それより、安全な家とか、本とか。

 まず学習したいので、生活の土台がある方が助かるというか」


 言ってみて、自分でもしっくりきた。

 俺は強さより、まず“環境”が必要なタイプなのだ。


 神はしばらく沈黙し――やがて微笑に見える何かを浮かべた。


「奇妙だが、面白い。

 では森の奥に結界付きの家を与えよう。

 魔法の基礎書や資料も置いておく。生活できる程度の設備も整える」


「ありがとうございます。本当に」


「では――健闘を祈る」


 光が弾け、世界が反転する。


 



 


「……森だ」


 意識を取り戻した俺の目の前には、深く、濃い森が広がっていた。

 鳥の声。木々のざわめき。獣の気配――いや、魔物かもしれない。


 その中に、ぽつんと一軒の家が建っていた。


「ほ、本当に家あるんだ……」


 木造で、どこか山小屋っぽい質素な造り。

けれど新しい木の匂いがして、誰も住んでいなかったはずなのに清潔だ。


 扉を開けると、ふわっと空気が変わった。


「……これが結界?」


 外に漂っていた“気配”から守られているのが直感で分かる。

 中は広く、リビングにダイニング、寝室がいくつか。


 そして――壁一面の本棚。


「すげぇ……図書館かよ」


 ざっと見ても数百冊はある。字は読めなくはないが、ざっと意味しか取れない。

 勉強すれば何とかなる気がした。


 家の構造を確かめながら歩いていると、ふと廊下の奥に違和感を感じた。


「あれ……風抜けてない?」


 手で壁を押すと、カチッと音を立てて扉が開いた。


「隠し部屋!?」


 驚きつつも入ってみると、そこは地下へ続く階段だった。

 薄暗い石造りの通路を降りると、広い空間に出る。


 中央には、ひときわ目立つ台座。


「これが……測定器?」


 神が言っていた“身体や魔法の能力を測れる装置”に違いない。

 恐る恐る手を置くと、淡い光が走った。


名前:ユウト

年齢:26

筋力:平均よりやや上

敏捷:平均

精神:高い

魔力量:標準

魔法属性:水3、土3、闇9

職業:テイマー

スキル:従魔契約


「……テイマー? 動物と仲良くなるやつ……だよな?」


 知らない単語ではないが、自分に合ってるかは微妙だ。


「で、この“闇9”って……何?」


 数字を眺めながら考える。


(10段階中の9? いや、そんな都合よく高い訳ないし……

 100段階中の9? こっちのほうが現実的?

 そもそも段階じゃなくて“濃度9%”とか?

 でも水と土は3なんだよな……)


 考えれば考えるほど泥沼だ。


「……よし。考えない!」


 ぴしっと、気持ちを切り替える。


「こういうときは情報だ。本棚に魔法の本があった。

 あれを読めば、この“数値”の意味も分かるかもしれない」


 俺は地下室を後にし、階段を登った。


 扉を開けると、森の涼しい風がまた家の中を撫でた。


「とりあえず、今日からここが俺の家か……」


 そう思うと、少し胸が軽くなる。


「よし。まずは家の整理、それから本の読解だな。ゆっくり行こう」


 そんな独り言を呟きながら、俺は新しい生活の一歩を踏み出した。


 


――こうして、異世界での生活が始まった。

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