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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

たくさんの世界と13人の僕と、かけがえのない君達

作者: ムルモーマ

第24回書き出し祭り、会場内5位、全体20位の作品を少しだけ改稿したものになります。

 『僕』は13人居る。

 何を変な事を言っているんだ、と言うかもしれないけれど、まあ取り敢えずは聞いてほしい。

 ……うん。ちょっと長くなるけど。


 まず最初に変だな、って思ったのは幼稚園に通っていた、まだ僕の背丈が今の半分くらいしかなかった時の事だった。友達が転んで怪我をして、ちょっと大きめの絆創膏を貼っていたんだけど、それが翌日消えていたんだ。聞いてみても、その友達自身もそんな記憶がないって言うし、更に言えば誰も友達が転んだところなんて見てもいなかったと答えた。

 似たような事はそれから何度も起きた。

 昨日食べたはずの給食の内容が献立表と違っている。そもそも、献立表が昨日見たものと今日見たもので微妙に食い違っている。

 僕が言った記憶のない事を言った事になっている。僕が昨日いたはずのない場所に僕がいた事になっている。友達がばらしたはずの秘密が、ばらしていない事になっている。

 ……うん。とにかく、変な事ばっかり僕の周りでは起きていた。みんなそうなのかなって、一時期は思っていたけれど、僕ほどにほぼ毎日何かしら起きているような人は他に居なかった。だから気味悪がられたし、そのせいでいじめられた事もある。

 だから、うん。僕は小学2年生にもなる頃には自分から喋る事を殆どやめていたんだ。


 ……きっかけは、日記を書き始めた事だった。本当に嫌になって、記憶に残っている事と、みんなが言っている事がどれだけ食い違っているのか確かめようと思って。

 その翌日に、それは起きた。昨日僕が書いていた内容と、ちょっと違う。何でもないこの『僕』が書いたものなのに。

 3日目もそれは起きた。1日目と2日目の内容は、僕が書いたものと違っていた。4日目も、5日目も6日目も7日目も。何人居るのかも分からない『僕』達はみんな怯えていたよ。もしかして『僕』達はこうしてずうっと毎日毎日微妙に違う世界を旅立っていくのか? って。殆ど同じ文章、でも微妙に違う文章で『僕』達はそんな恐怖を綴って毎日を過ごしていった。

 そして……14日目にして、僕の書いた1日目の内容がやっと戻ってきた。

 結論として……『僕』は13人居る。13人の『僕』は眠る度に、少なくとも13はある殆ど同じ、けれどほんの少しずつ違う世界に移動して、そして13日後に戻ってくる。まるで円を描くように。

 それが『僕』だった。


 ……本当だとは思えないかい? でも、『僕』……『僕』達にとっては紛れも無い事実なんだ。『僕』達は毎日、13の世界をぐるぐると周りながら生きている。君を含めたこの世界の……13の世界の君達は、13人の『僕』を毎日代わる代わる見ていることになる。

 僕の記憶は紛れもなく正しかった。けれど、『僕』はおかしかった。そんな事、分かる訳ないよねえ!?

 ……でも、分からない時も苦労はあったけれど、分かってからも結局苦労はそんな変わらなかったな。毎日毎日、朝の日課は前の12日分の日記を読み直して暗記するところから始まる。そして眠る時は、次の『僕』に向けて今日起きた事を正確に書き記す。

 おかげで暗記能力は自然と身についたよ。そうじゃなきゃ、『僕』の言動は前と同じ嘘つきになっちゃう訳だからね。

 ん?

 うん、君が初めてだ。この事を誰かに話すのは。父さんや母さんにも話していない。でも、日記に関しては誰にも見れない場所に置いている、って訳でもないから、日々の細かな事まで病的に日記に書き記している『僕』の事を変に思っているくらいはあるかもしれないけど。

 何でかも追々説明するけど、もう少しだけ付き合ってくれない?

 ……うん。必要な事なんだ。


 気付いてから色々試してみたよ。起き続けていたらどうなるのかとか、他の『僕』とその日記を交わして色々文通もした。

 分かった事は何個もある。正確には、『僕』の体そのものじゃなくて、『僕』の意識だけが夜の2時頃に移り変わっている事。そんな小学校低学年から夜更かしを出来る子供じゃなかったからね。それにきちんと気付けたのは中学生になってからだったりするけど。

 それで、夜の2時ちょうどになると、『僕』の意識はほんの僅かに飛んで、次の世界に行く。それぞれの世界の時間は何秒かずつずれているみたいで、時計の針が巻き戻っている事が分かったりする。一番分かりやすいのは6番目から7番目の世界に飛ぶ時かな。5秒くらい巻き戻るんだ。

 でも、意図的にそれぞれで行動をずらす事はそんなしていないよ。そもそも、世界がほんの少しずつ違うって言っても、本当にほんの少しだし、『僕』達の趣味嗜好もほぼほぼ一緒なのもあるし、それに、そんな事し始めたら本当に『僕』達みんな生きていけなくなっちゃうから。

 そんな中で一番大きなズレは、ある時7番目の『僕』……僕とはほぼ正反対の世界に居る『僕』が、飼っていたカブトムシを殺した事だった。事故みたいなものだったようだけれど……それから、何もしていないのに次々と他の世界のカブトムシも死んでいった。7番目の世界から、翌日には6番目と8番目に。その翌日には5番目と9番目に、って感じで。要するに、一つの世界で起きた出来事は日を跨いで両隣の世界に波及していく。

 多分、意図的に大きなズレを起こそうとしてもある程度は収束するんだと思う。それがどの位まで許されて、どの位から許されなくなるのか、『僕』達には見当もついてないけれど。殺しても、それがバタフライエフェクトに相応する蝶だったから一緒に死んでいったのかもしれないし、相応しない蝶だったら……それが人間でも死なないのかもしれない。

 …………。うん。

 言ってしまうと、君の最悪な想像は当たっていると思う。

 ここは僕にとって13番目の世界で、僕は君が死ぬところをもう6回見ている。原因を直接取り除こうとしてもダメだった。大した接点のない君を強引に別の場所に連れて行こうとしてもダメだった。運命のようなものが働いて、等しく君は死んだ。

 7回目……これが最後のチャンス。だから僕は君にこうして、理解して貰えるかも分からない、『僕』達だけの事実を話す事にしたんだ。


 ……その前に、これまでどうやって君が6回も死んだのかを話そうか。

 7番目の世界、6日前の木曜日。君は外を歩いている時、校舎の3階から落ちてきた椅子に当たって死んだ。うん、あの不良共が集まっているクラスの下を歩いている時にね。

 8番目の世界、5日前の金曜日には君は階段から滑り落ちて死んだ。大体同じ時間に。

 9番目と10番目の世界はちょうど土日だったけれど、夜頃にそれぞれ、学校のSNSで君が亡くなった事が段々と噂として流れてきた。

 11番目の世界、一昨日の月曜日、僕は学校に爆破予告をした。夜遅く、誰かが家の中で不慮の事故で亡くなったという噂が流れてきた。突き詰めていくと、君が大体同じ時間に亡くなっていた。

 12番目の世界、昨日の火曜日はとうとう君と直接接触した。どうしても話したい事があるんだって言って。でも、君はこんな接触した事のない僕の事を君悪がって逃げて行って、そして8番目の世界と全く同じように階段から足を滑らせて死んだ。

 そして13番目。今日、水曜日に知っての通り僕は、うん、色々言葉を慎重に選んで、君をこんな空っぽの教室に連れ込んだ。けれど、今日君が死ぬだなんて事、色々頭を捻っても、説得力のある形で説明出来るとはどうにも思えなくて。そこから先は、うん、こうして喋る事にしたんだ。

 信じてくれないなら、この話はここで終わりだ。『僕』からすれば君は確実に死ぬだろうけれど、『僕』から出来る事はもう、何もないから。

 信じてくれるのなら、色々調べたり、考えたりしてきた事を言おうかな、って。

 ……うん? ……うん、痛いところ突くね。

 『僕』はそんなお人好しじゃない。色々考えたし、試してきたけれど、君が死ぬのは避けられないだろうなって、正直なところ思っている。あるアニメのように、観測している事柄は『血塗れで倒れている君』とかそんな不確定な代物じゃなくて『同じ時刻に死ぬ君』だし、また、過去に遡ったりして君が死ぬ原因を書き換える方法もない。

 でも、今回だけはきちんと向き合って色々頑張ってみようって思ったんだ。これで本当に何も変わらなかったのならば、『僕』はこの収束する運命というものに絶対逆らえないんだと確信する。そうじゃなかったら、この『僕』の特異体質は、『僕』の回る13の世界全てとは言えないけれど、ほんの少しでも良い世界というものを作れるんじゃないか、と思えるようになる。

 ……うん。そうだね、こんな体質で生きていくのって、結構辛いんだ。世界はほんの少しずつでも異なっている。この『僕』を生んだ父さんと母さんとは13日に1回しか会えないんだ。ほぼほぼ一緒でも、『僕』達自身その違いが全く分からなくても、そこにはどうしても孤独感が生まれてしまう。そして言ってしまえば、『僕』達全員はその13の世界のどれが本当に『僕』達の父さんと母さんなのかすら、そもそも分からないんだ。『僕』達がいつからこんな13の世界を回るようになったのかすら分からないんだからね。

 ……ごめん。少し愚痴も入ったと思う。でも、もし、君を助けられたのなら、それは紛れもなく『僕』も嬉しい事なんだ。それは嘘偽りない。

 だから、今日の昼休みが終わる10分前。それまでに出来る事を一緒にしてみようよ。


 高校の一時間目の開始を告げるチャイムが、ちょうど鳴り響いた。

今のところ連載予定はあんまりないです。


書いている時に考えていた事やら。

https://x.com/hellowo10607338/status/1923708684275941645

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