第一話 完璧な朝
窓の外には澄み切った青空が広がり、朝日がビル群のガラスに反射して輝いていた。東京は今日も日常そのものだ。
和泉レイはベッドから起き上がり、腕時計に目をやった。時間は5時30分。時計が振動して、スケジュールを投影する。
「朝食は6時、通学は6時30分。学校の準備は完璧。」
まるで計算されたような日々。それでも不満はなかった。この世界は混乱も争いもなく、人々は安心して生活している。
キッチンに立つと、コーヒーマシンが自動的にスイッチを入れ、香り高いコーヒーを注いだ。トーストが焼き上がるタイミングも完璧だ。レイは深く息を吸い込む。
「これが理想の生活か……」
テレビではニュースが流れている。気候変動が克服され、全ての疾病が根絶され、エネルギー問題も解決されたという報道が続く。記者たちは揃って笑顔だ。だが、ふとした瞬間、映像に一瞬の乱れが生じた。
「……?」
レイは目を凝らしたが、次の瞬間には映像は元通りになっていた。トーストにジャムを塗りながら「気のせいだ」と自分に言い聞かせる。
6時30分、マンションの自動ドアを出ると、街は朝の静かさを見せていた。清潔な道路、行き交う自動車、人々の忙しそうな姿。誰もが日常そのもののように見える。だが、歩きながら感じる微かな違和感が、レイの胸をざわつかせた。
例えば、遠くに見える看板の文字が一瞬読めなくなるような感覚。
例えば、歩行者が同じタイミングで同じ笑い声を発する奇妙さ。
その日はいつも通りレイの通う私立高校に向かった。
一般的な学校にはエレベーターはないらしいがレイの通う学校には学校の中に外からつながるエレベーターがある。早く登校しがちなレイはいつもエレベーターに一人でいるが今日は違う。
「おはよう、レイ。」
「……ああ、おはよう。」
クラスメイトでもあり中学校からの友達の朝蔭トモヤ。
レイは曖昧に返事をしたが、心の中では何かが引っかかっていた。エレベーターの天井に取り付けられた監視カメラのレンズが、わずかに動いた気がしたからだ。
何かがおかしい。だが、それが何なのかは分からない。
自分の席に座り、学校用の端末を起動すると、突然画面が一瞬だけ暗転し、赤い文字が浮かび上がった。
「システムエラー検知: コードBー65」
「エラー?」
端末の起動時にシステムエラーが起きたということは、
前に何かエラーを起こすようなことをしてしまったのかもしれない。
しかし、結局のところ端末がいつも通り起動しているので端末のバグでエラー表示をしてしまったのかもしれないなと軽く流した。
今の時刻は午前7時。
教室には一緒に登校したトモヤと俺だけだ。システムエラーのことをぼーっと考えていた時にトモヤが話しかけてきた。
「今日放課後ラーメン食いに行かね?最近ここら辺にできたらしいし」
なんとも青春漫画かのようなベタな質問だなと思いながらも軽く返答する。
「まぁいいよ。奢り?」
「俺が女子以外に奢るわけないだろ?」
トモヤは俺が言った冗談をひらりと躱して微笑を浮かべながら返事をした。
「わかってた。」
こんなくだらない会話をしていると今朝から感じていた違和感も特にどうでもいいかと思った。
午前8時45分 一限が始まった。
午前9時45分 二限
午前10時45分 三限
午前11時45分 四限
一限から四限までは朝感じた違和感を感じることはなかった。
しかし、午後12時35分 昼休み急に耳鳴りがした。
黒板に爪を擦ってしまった時のような不快感を覚えるそれは、レイのみが感じているものではなさそうだった、
クラスメイトだけでなく、先生も、ニュースキャスターも、おそらくそれは世界中で起きているものだろう。
1分ほどするとその耳なりは止んだ。
しかし嫌な視線を感じた気がした。そこで急に力が抜け、倒れてしまった_______
次回「虚」