見捨てられた絵描きの少女は、王子様の夢をみる。
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「絵を描くのが得意、だと?」
名家とも呼ばれるローゼルバージュ家、妾の子として生まれた私は広い屋敷の中では、落ちこぼれでしかなかった。
姉たちのように、私は勉学ができるわけでもなかった。
姉たちのように、華々しく強力な魔法が扱えるわけでも、社交術に優れるわけでもなかった。
けれど、一つだけ好きなことがあった。
「絵を……描いているときは……楽しいから」
五歳の誕生日、私は稚拙な絵を書斎の父へと差し出した。
父は受け取るなり、鼻を鳴らす。
「それで? お前は絵でどうやって、この家に貢献するつもりだ?」
「そ、それは分からない……」
「そうか。まあいい、好きにしろ。元よりお前に期待はしていない。せいぜい、姉たちに迷惑はかけるな」
父は言って、絵を机の隣にあったゴミ箱へと落とした。
「……あ」
「なんだ? まだ話があるのか?」
「ない……です」
きっと、その瞬間から、その日から私の中できっと何かが枯れてしまったのだ。
****
その指は、まるで触れれば溶けてしまう氷細工のようにか細く白かった。
黄金色のその髪は、小さな天窓から差し込んだ月光を受けて、煌めくように淡く光って見せる。
「……」
父より唯一、与えられたアトリエは薄く暗い。浮かんだ埃は隙間風に揺らされた後で、壁際。塔のように高く積み上げられた童話達の上へと沈む。
「ねぇ! ちょっと!」
明確に苛立った声が響くなり、扉を殴りつけるようなノックの音がした。少女は振り返る。
「いつまでかかってるの! 今日までと何度も言っているでしょう!?」
「……ごめんなさい」
「ちっ。入るわよ。……ほんと、この部屋酷い匂いだわ」
絵の具の独特な匂いが鼻についたのか、大袈裟に口元をドレスの袖で覆いながら、少女のアトリエへと入ってきたのは、燃えるような赤い髪の女。
少女の姉、アイリシアだった。
「出来ているんでしょうね?」
アイリシアは舌打ち混じりに、ビールをコツコツと鳴らしながら歩いてくる。
「あら、ちゃんと出来てるじゃない」
「これは……まだ」
その絵は、まるで夕日の差し込む平原そのものを切り取ったような美しい絵画。
「……ほんと、生意気な絵」
赤く熟れた斜陽の光の反射を繊細な筆使いと、グラデーションによって、丁寧かつ繊細に描写され、緑色の風を受けた草は、耳を立てればそのあ音すらも容易に想像出来る。
「じゃあ、この絵はもらうから」
「ま、待って。まだ完成してない」
少女はドレスの袖口を掴み、なんとか静止しようとするも。
「別にいいわよ。この絵はこれで」
アイリシアにとって、そんなことは重要ではなかったのだろう。
「でも……」
「しつこいわよっ!」
アイリシアはきりりと鋭く目くじらを立てて、少女の手を振り払うと、そのまま絵を持って行ってしまった。
少女はその背に追いすがることもできず、閉まった扉をしばらく眺めた後で、ため息を漏らした。
もう少し、手を加えたかった。完成とは程遠いがこうなって仕舞えば、もう何か出来ようもない。
「……」
少女はため息こぼした後で、積まれた童話へと手を伸ばす。
何度も何度も繰り返し読んでいるからか、表紙や背は擦り切れて、もうなんの作品かは一目では分からない。
けれど、少女には、その表面の触感と色合いで判別がついた。
「……王子様と毒林檎」
それは、これまで読み漁った小説や童話の中で、最も少女の好きな作品だ。
内容は、毒林檎のせいで寝たきりになってしまったお姫様の元に白馬になった王子様が訪れて、その呪いを解いてくれるという、ありきたりでシンプルなものだ。
それでも少女は、その本を愛せずにはいられなかった。
何故ならば、その姫の感情が痛烈に理解出来たから。
一人では、家から出ることすらままならず、広い王宮の小さな一室のみが姫の世界そのものであったから。
「……お嬢様、今よろしいですか?」
「ええ。大丈夫」
閉じた扉が再び開き、入って来たのは、メイドのニーナだった。妾の子ということで、白い目を向けてくるこの屋敷で唯一、少女に親身に接してくれるメイドだ。
「夕食をお持ちしました」
カートによって、運ばれてきたのは、豪華でありながらも何処となくつたない盛り付けをされた皿。
「申し訳ありません。私にもう少しでもしてあげられることがあれば……」
先ほどの会話を聞いていたのだろう。悔しそうな顔で、ニーナは俯いた。
「気にしないで。いつものことだから、慣れているもの」
姉は、優れた人間だ。
勉学では、この王国有数の教育機関を飛び級で卒業しているし、魔法の才を認められ、齢18にして稀代の魔法使いと呼ばれるほど。比べて、少女は先日15になったばかりではあるが、大きな実績は何もない。
ただの絵と童話が好きなだけの凡人でしかないのだ。
「私は……お嬢様の絵の才能は、アイリシア様の全ての才能にだって負けていないと、思います」
「……ありがとう。私はその言葉だけで、十分だから」
言葉はうれしかったけれど、絵を描くことしかできない自分が姉に勝るわけはない。それが、現実なのだ。
「それにしても、姉様はなぜ急に、私の絵を欲しがったのかしらね」
絵になぞ、興味はない彼女が。
「……それは、ですね。今日はとある殿方が、舞踏会に来るそうなのです」
「そう……なのね」
初耳だった。とはいえ、これまでも一度として呼ばれたことはないから、そういうものなのだと思っていたけれど。
「その殿方と、絵になんの関係があるの?」
「その殿方は、もしかするとお嬢様方の誰かと婚約をするかもしれないのです。しかし、その前に、一人ひとりが描いた絵を見て判断したいとおっしゃられていまして」
「面白い人なのね。その殿方は」
少し興味がわいた。けれど、自分には何の関係もない。少女はそう思って、空いたディーゼルへと新しいキャンパスを置いた。
「きっと……見る目のない人ですよ」
ぼそりとニーナは言って、失礼しますと部屋を出ていった。
再び、アトリエに静寂が満ちる。
「──その人が、私の王子様なら良かったのに」
だからこそ、諦めたような少女の声を、聞く者は誰もいなかった。
****
「はあ、めんどくさい」
がたんがたんと跳ねるように揺れる馬車の中で、青年の愚痴がこだまする。
青年の装いは、見るからに上等の一言に尽きる。その胸に飾り付けられた勲章達は一つ一つが煌びやかに光っていた。
その容姿は、何処か女性的な柔らかさを持ちながらも、涼しげな目元はやや鋭く、黒い髪も合わさって端麗他ならない。
「まあ、そうおっしゃらず。これも王族としての仕事ではありませんか」
言ったのは、青年の正面に座る執事だ。
「貴族との見合いが? ……はあ、どうせ、あのローゼルバージュ家に金でも握らされたんだろ。親父殿は」
青年の名は、アルベルト・クレイビル・リーエルシュワルツ。王国第七皇子にして、齢17の騎士。
その実力は、王国において最強と謳われていた。
「俺はまだ、なんの功も挙げられてないのに、結婚とは……笑えるを通り越して、呆れたよ」
「アルベルト様。質問してもよろしいですかな?」
「なんだい? 爺や」
「何故に、絵を見せろなどと仰られたのですかな? ローゼルバージュ家の令嬢は皆、秀才と聞き及んでいますが、それは魔法や勉学などの話でしょう?」
つまり、芸術というジャンルは別だ。そう言いたいのだろう。
「だから、絵なんだよ。才能なんてあろうがなかろうが、どうだっていい。僕が見たいのは、その人の中身だけだ。容姿も実績も、そんなのは二の次。だから、絵なのさ」
アルベルトにとって、絵とはこの世のものの中で唯一の正解も不正解もない平等な物差しだった。
技術に差はあれど、その差が全てと言うわけでもない。
絵の価値は、受け取った人や考え方によって移ろいゆくものだからだ。
「……あと、断るにしても都合のいい言い訳が必要だろう?」
「なるほど、そういう魂胆ですか」
「隣国とのいざこざが増えてきてる今、僕が腰を下ろす暇はないからね」
アルベルトはため息を吐いた刹那、緩やかに車輪の音が止まる。
「それじゃ、手早く済ませようか」
アルベルトは襟を直してから、そそくさと馬車を降りた。
「お待ちしておりました。アルベルト様」
もはや王宮となんら変わらぬほどの屋敷の門。その前には、ドレスを見に纏った三人の美女と一人のメイド。
「どうも。アルベルト・クレイビル・リーエルシュワルツ。参上いたしました」
見たところによると、三人はローゼルバージュ家の娘のようだった。
「本日はようこそ、おいで頂きました。わたくしは長女のリーゼル・レイ・ローゼルバルジュです」
黒い髪の美女は言って、丁寧にお辞儀をした。
長女は確か、25にして政界でも名を轟かせる才女だ。
「ありがとうございます。リーゼルさん。そちらの方々は?」
アルベルトは会釈を返し、視線を隣の美女はと移した。
「私は次女のハンナ・ローラ・ローゼルバルジュと申します」
「ご丁寧にありがとうございます」
次女。銀色の髪の美女は、23歳。確か薬学や医学会における天才。噂では、既に疫病数種類の薬を作ったとか。
「最後になりましたが、私はアイリシア・ラーネ・ローゼルバージュです。以後お見知り置きを」
「ええ。よろしくお願いします」
そして、最後の美女。赤い髪の末娘。
18にして社交界の花とすら謳われたその美女は、魔法と座学の天才。史上最年少にして、王立大学を卒業し、宮廷魔術師に並び立つほど魔法にも優れている。
所謂、万能の天才だ。
「では、立食の会場へと案内させていただきます」
メイドに言われるがまま、門をくぐる。
赤いカーペットが引かれた廊下、その脇に並び立った絵画や彫像の一つ一つは、歴史的な名作に他ならない。
「アルベルト様。どうか笑わないで下さいね? わたくしたちは生まれてこの方、絵なんてものろくに書いたこともありませんから」
長女が言った。
「勿論ですとも。技術のある無しで決めるつもりは毛頭ありませんよ」
多少の色眼鏡は掛かるかもしれないが、それでも肝心なのは中身だ。
「では、こちらへ」
案内されたのは、丸いテーブルの並ぶ広いホールだった。
既に、テーブルの上には数々の馳走が用意され、ワインにウイスキーなども一つ一つが王国でも有数の高級品だ。
「おぉ、アルベルト皇太子様。よくぞおいでなさりました」
「いつ見ても、格好のいいお方ですこと……」
会場には他の貴族も呼ばれているらしく、見知った顔もいくつかあった。
しかし、今はそれよりも。
「こちらに、並べておりますわ。どうぞ、ご観覧下さい」
アルベルトは次女に言われるがまま、煌びやかな会場では少し浮いた壁際。ディーゼルに立てられた絵へと目を向けた。
「……これは、リーゼルさんのものですね」
「よ、よくお分かりになりましたね」
三枚のうちの一枚。左から順に姉妹のものが並んでいるのだろう。
アルベルトはぐっと絵へとのめり込むように顔を向ける。
「……うん。いい絵だ」
題材は、湖面に浮いた白鳥。柔らかさを真っ直ぐに伝えるような白い羽と、水面の反射は容易に表現出来るものではない。
しかし、四隅を注視してみれば、筆使いにムラがある。そのせいか、白鳥という中心が目立ちすぎだ。
「では、次を見せてもらいましょうか」
アルベルトは真ん中の絵へと先程のように目を向けた。
「……なるほど」
題材は、月夜に舞踏する女。夜の帷は繊細かつ、軽い筆先で表現しつつも、遠近感をよく捉えた美しさがある。これも、そうそうお目にかかれないレベルの絵画だ。
しかして、この絵を誰かに何かを伝えようとする意志が存在し得ないような気もする。
「では、最後のものを」
それは最後の一枚。末娘の絵が視界に入った瞬間だった。
「──これ、は」
それは一面の緑と、青い空をそのまま切り抜いたような性格無比にして、吸い込まれるような世界。
そして、二人の姉と決定的に違うのは、主役と呼べる存在がいないことだ。
「……ない、のか。これ以外。本当に何も」
晴れ渡りながらも何処か物悲しげで悲痛な青と、強くそれでいて諦めたような新緑。
──その絵に映し出されていた感情は、『自信と希望の欠如』だと確信した。
「アイリシアさん。これは何処の地をモデルに描きましたか?」
「え、え? それは……近くにあった平野ですが……」
「嘘ですね。知らないのでしょう? この絵を描いたのは、貴方ではないから」
アルベルトは細めた双眼を振り向きざまに、アイリシアへと浴びせると、会場は騒然とし始めた。
「皇太子様。どうかなさったのかしら?」
「今、絵を描いたのは、別人だと言わなかったか?」
そんな空気を読み取ったのか、アイリシアは引き攣った笑みを浮かべながら、首を傾げた。
「な、なんのことでしょうか? この絵は間違いなく私が……」
「別に貴女が他者に描かせた事実を、とやかく言うつもりはありませんよ。ただ、教えて欲しいのです。誰がこの絵を描いたのか」
アルベルトは心の底からそう思った。
何故ならば。
「この絵を描いた方は、世界でも最高峰の技術を持っている。しかし、恐らく──天才ではない」
自分と、同じだったから。
天賦の才などなく、自信も希望も持てない。けれど、それしか好きになれず、愛せず、他のことを全て投げ打ってでも、それに縋りついた者の行き着く場所。
「これは、そういう人にしか描けない絵ですよ」
「そんなわけがっ!」
「いいえ、そうですとも。間違いない」
「くっ! こんなにも見る目がない人だなんてっ!」
アイリシアは怒りのあまり奥歯を強く噛み締めながら、件の絵を倒そうと押した。
「っ! 何をするんだっ!!」
アルベルトはすぐさま、それを静止する。
「お、お二人ともおやめくださいっ!」
絵を取り合う二人を周囲のものが静止し、どうにか落ち着いた頃には、アルベルトの衣装は擦れた絵の具で、汚れてしまっていた。
「なぜ! 私が描いたと信じてくれないのですかっ!」
姉妹たちに両腕を掴まれながらも、金切り声をあげるアイリシア。
「貴方が描ける人間ではないでしょう、これはそういう絵だ」
それにアルベルトは冷たい目を向けながら、
「呆れたっ! もう知りませんっ!」
「ええ。確かに。こうなっては、舞踏会どころではありませんね。僕はもう帰らせてもらいます」
そう言い放ち、アルベルトはネクタイを強引に抜き取ると、先程入ってきた扉へと向かった。
「お、お待ちを。アルベルト様」
「いいえ、待ちませんよ」
メイドに静止されたものの、立ち止まることなく、アルベルトは廊下へと進む。
「待って下さい、重要なことなんですっ!」
「ええ。重要でしょうね。しかし、僕にとってはそれほど重要でもない」
廊下も既に真ん中。他の貴族や姉妹達もアルベルトの剣幕に気圧されたのか付いては来ない。
「いいえ。貴方にもきっと重要なことのはずですっ!」
「ならば、お伝え下さい。僕はあの三人と結婚する気にはならな……」
言葉の途中で、メイドはアルベルトの前へと回り込むと、深々と頭を下げた。
「──違いますっ! そんなどうだっていいことではないのですっ!!」
「……なんですって?」
「あの絵を描いた人物についてなのです」
「な、知っているのですか!?」
メイドはこくりと頷いた。
「皇太子様がお望みならば、今からその人物……お嬢様のところへとご案内いたします」
「お嬢様……?」
おかしな話だ。ローゼルバージュ家には三人の娘しかいないはず……。
「詳しくは、道中お話しします」
「分かりました」
アルベルトはこくんと頷いた。
メイドの背を追う形で屋敷の廊下を抜けて、庭へと出る。薔薇の園は月光と風を帯びて、幻想的な雰囲気を醸していた。
「お嬢様は……旦那様が十五年前、とある娼婦に産ませた子なのです」
「……妾の子、というわけですね」
王国では、一夫多妻制は貴族と言えど禁止されている。そのため使用人を孕ませることもあると聞く。
「ええ。そして、お嬢様は姉君である御三方とは違い……その」
「特別な才を持たない、ですか?」
「い、いえ、私はそうは思わないのですが、お嬢様はそう思い込んでしまっているようで……」
だから、あれほどの技術を持ちながらも自信の欠片すらも感じ取れなかったのか。アルベルトはそう納得した。
「こちらです」
「…….別館、ですか」
広い庭の片隅、一軒家ほどの建物だった。
これではまるで、隔離しているようではないか。
「では、会って話をしてきます。貴女はここで少しだけ待っていてくれませんか?」
「お嬢様は、2階左奥のアトリエにいるはずです。ですから……どうか」
メイドの目には、涙が溜まっていた。きっと、一人その少女のことを守り続けていたのだろう。
「──エーリカお嬢様を、よろしくお願いいたします」
「ええ。任せて下さい。何せ、僕もですから」
「え?」
「僕もね、実は──妾の子なんですよ」
アルベルトは朗らかに笑いながら言って、扉のノブを掴んだ。
****
がちゃり、扉の開く音が鳴って、少女は……否、エーリカは微睡から目を覚ました。
「……ニーナ?」
このアトリエを、別館を訪れるのは、家族ではニーナだけだ。
しかし。
「……足音が、違う?」
知っている音よりも、幾分か重い革靴の音だった。
音は階段を登り、すぐに部屋の前へと到達する。
「エーリカさん、いますか?」
びくり、エーリカの心臓が跳ねる。
それは、知らない男の声で間違いなかったからだ。
「どうか、開けて欲しい。今はただ、貴方と話がしたい」
「っ」
恐怖。勿論、それもあった。けれど、それよりももっと……。
「貴女の絵を見させてもらいました。凄く美しかった。でも、今僕が言いたいのは……貴女に伝えたいのは、違う言葉なんです」
ごくりと、エーリカは生唾を飲み込んだ。絵の感想なんて、ほとんど言われたことがなかったから。
エーリカはそっとドアノブへと細い指を伸ばした。
緩やかに回り、扉が開く。
そして。
「──エーリカさん。よく、頑張ったね」
「……っ」
それはきっと、あの日から初めて父に絵を見せた日からずっと求めていた言葉だった。
ただ、自分を認めて欲しくて……でも、才能が無いからと諦めていた。
枯れてしまった夢だった。
「わ、私は……絵しか出来ないっ。だから、描いて、描いて、ずっと描いてた」
「はい。あの絵を見れば、分かります」
エーリカは顔を、アルベルトの胸へと押し付けて、声を上げて泣いた。堰を切ったように、涙はとめどなく流れ出た。
「エーリカさん。もう一つ、言葉をいいですか?」
「……はい」
「僕と、結婚して下さい」
「え?」
にっこりと笑ったその顔は、あまりにも柔らかくて、太陽のように暖かかった。