0074・メイとギンの進化
食事をとった後はいつも通りにソファーでログアウト。雑事を行ってからゆっくりしつつ課題。両親が帰ってきたら献立を聞き、料理を始める。シズはギンを構う為に下りてこないだろう。アレは仕方がない。
料理が終わりかける頃、母さんがサブロウタに2階に行かせたけど果たして下りてくるんだろうか? 何か無視して構いそうな気が……あれ? すぐに下りてきたな。まあ、いいや。とにかく食べよう。
「静、イベントとやらが終わったら下りてくるんじゃなかったの? 2日ぐらい前からまた下りてこなくなってきてるわよ」
「仕方ないじゃない。一昨日は仲間が殺されちゃって腹が立つし許せなかったし、昨日はそれを引き摺ってたんだからさー。もー、今思い出しても腹が立つ!! せっかく育ててきたのに殺されたのよ?」
「うん? 殺されたって……復活するんじゃないのかい?」
「ううん、無理。<レトロワールド>はテイマーや魔隷師の連れてる魔物は死んだらそこでお終い。サモナーやネクロの魔物は復活できるけど、私は無理なの。そのかわり愛着が湧くし、進化先もかなり違ってる。そのうえ、それぞれの職業で仲間に出来る魔物が違うし」
「ああ、だからヤマネコにチャレンジしたのか。あれの説明は<テイマーの心を圧し折ってきた>だったからね、魔隷師なら支配出来る可能性があった訳だ。予想にはあったけど、予想通りだったかー」
「少し考えれば分かる事だけどもね。それよりタマ、何であんたギンに好かれてるのよ? 色々おかしいでしょ、契約したのは私よ」
「は? どういう事?」
「あんたがログアウトした後、ずっとタマか召喚モンスターの近くをウロウロしてるのよ、ギンってば。私が近付くと逃げるし、タマの体の上に乗っかってるし。何て羨ましい!!」
「いや、知らないよ。僕そもそもログアウトした後じゃん。単に何もしてこないから乗ってるんじゃないの? シズは構いすぎなんだよ、だから逃げられるのさ」
「むー……」
「ま、構いすぎる飼い主なんて鬱陶しいでしょうねえ。そりゃ逃げるわよ。実家には猫も犬も居たけど、猫は特に構うと逃げるの。その癖、放っておくと「構え」って寄ってくるのよね。何回も足を引っ掻かれた事があるわ」
「へえ。そういう風には聞くけど、やっぱりそうなんだなあ。清掃に行った所でも、近寄ってくるのは猫なんだよ。いつもの完全防護服を着てるからアレルギーは起こさないけど、どうしても毛が駄目なんだよなー」
「まあ、無理はしない方が良いよ。動物好きなのは知ってるけど、かといってアレルギーは怖いからね。最悪の場合死に至るとなれば、警戒し過ぎるくらい警戒しないと」
「そうそう。源君はアレルギーなんだから諦める。代わりに、いつもみたいに耳と尻尾をつけて喜ばせてあげるから」
「「………」」
そういう事をいちいち聞きたくないので、僕とシズはさっさと晩御飯を食べて部屋へと戻る。両親が夜にコスプレしてるとか心底どうでもいいし、聞きたくもない。部屋に戻った僕は、眠たくなるまで課題を熟してから寝た。
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2000年 8月14日 月曜日 AM8:06
今日も雑事を終わらせてからログインする。少し前にシズも部屋に戻ったけど、今日はレベル上げがしたいそうだ。昨日のギンはともかくメイのレベルがかなり低いらしい。羊だし碌な攻撃手段を持ってないらしく、スキルも所持していない。
昨日僕がログアウトした後、好きにさせているファル達、というかセナとドースからスキルは学ばせたようだ。ラスティアも協力したらしく、【魔力操作】【魔力感知】【闘気操作】【闘気感知】【身体強化】の5つを覚えさせたと聞いた。
僕もスキル欄を余らせず教えるべきだろうか? そう思ったものの、他に覚えさせる為にとっておく事にする。そもそもファルやフォグに【身体強化】が必要かと言ったら疑問があるしね。片方は生産で、もう片方は魔法だからさ。
師匠の家のソファーから起き上がり、皆に挨拶をしつつファルに朝食を頼む。何故かお腹の上に居るギンを横にどけ、起き上がると綺麗にする。やはり喜んでいるみたいなので相当の綺麗好きなんだろう。
その後はフォグと「クークー」「ニャーニャー」やってるのを放っておき、僕はプレイヤーマーケットの売上金を回収しておく。いつも通りの箱に貨幣を仕舞い、蓋をして閉じる。実は木箱をファルが作ってくれたので、その中に貨幣は仕舞っているんだ。
不思議な事に貨幣を全てウィンドウに突っ込んで取り出すと、一番大きな額の貨幣になって出てくる。つまり貨幣の数を可能な限り少なく出来るように両替できるんだ。僕はそこまで拘ってないけど、可能な限り減らすようにはしている。だって邪魔だし。
おっと朝食が出来たみたいなので行こう。ギンも木箱で遊ばない、強引だけど連れて行くからね。何故か僕が抱えると抵抗しないギンを連れて食事を取りに行く。トモエ達も含めた食事も終わり、僕達はダンジョンへ出発。
「メイも大きくなれば乗れそうだけど、今はまだ無理だね。羊に乗るの? って言われそうだけど」
「でも乗れない訳じゃないんじゃない? もちろんそれだけのパワーがないと駄目だけど。リナが乗って暴れまわるとか?」
「オコトワリシマス」
「えぇ~……リナ無双とか見てみたいんだけど、駄目?」
「オコトワリシマス」
「おそらく足で地面に立ってないと戦いにくいんじゃない? ウチのセナも【格闘術・下級】だからか、地面に立って戦うのを好むしね」
「ナグッテ、ケッテ、ボコボコ!」
「コトブキ、あんた他人の事言えないと思うんだけど? 見た目じゃなくて中身がそっくりだと思うのは私だけ?」
「僕とセナは違うよ? セナは自分の手でボコボコにしたいタイプ、僕は敵が倒せれば何でもいいタイプだからね。根本的な部分でまったく違うんだ」
「あっ、そう……」
ダンジョンに着いたので昼食を買ってから魔法陣に乗ると、何も表示されず1階に。メイとギンが居るのでしょうがない、そう思いながらも早足で進んで行く。5階のオーク10体もさっさと殺し、またもやオーク玉が出たのでとっておく。
6階を登録して先へと進み、ジャングルの中を進む。魔物が居ても【魔力感知】と【闘気感知】で把握できているので、トモエ達も緊張感はマシになっている。昨日よりも良いペースで進んで来れた。
再び9階に来た僕達は、ラスティアの踊りで敵を集めて殲滅していく。今までは急ぎ足で来たけど、ここは確実に殲滅しておかないと大変なんだ。それぐらい魔物の数が多い。
「魅了してくれてるから助かってるけど、ゴブリン・アーチャーが多すぎるわよね? 確かに進化先にあったけど、幾らなんでも数がおかしいでしょ」
「これらに森の中で狙われると思うと、やってられないよ、ね! トモエ達が居なきゃ定期的に【ダークウェーブ】使わなきゃいけないぐらいだし、1パーティーだと本当に大変なんだよ」
「でしょう、ね!!」
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使い魔:ラスティアのレベルが上がりました
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昨日の事もあるとはいえ、まさかのラスティアしかレベルが上がらないなんて。どれだけ経験値が必要になったのか、ちょっと怖いね。そんな事を考えていると、メイが「ピカッ」と光った後、ギンも「ピカッ」と光った。
メイは真っ白なモコモコになり、少し体が大きくなっている。ギンは体が大きくならなかった代わりに毛が真っ黒に変わった。何だか魔女の黒猫みたいだ。
「おぉー! これが<綿毛羊>に<ウィッチキャット>!! メイはモコモコが素晴らしい!」
「メ~~」
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<綿毛羊> 支配下 Lv1
毛が綿のようにふわふわしている羊の魔物。その毛は高い防御能力を持ち、敵の攻撃の威力を吸収する。尚、温厚そうに見えて気性は荒く、土魔法が使える
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<ウィッチキャット> 支配下 Lv1
魔女の使い魔ではなく、魔法が使える猫の魔物。素早く動き回り、魔法を連発する危険な魔物として知られている
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何だか随分と強化されたみたいだなぁ……何気にメイの方が優秀?。




