0646・暗闇ダンジョン60階をウロウロ
まさかの魔法を切るのにスキルは要らないという爆弾発言を聞くとは思わなかったが、気を取り直して先に進んで行く僕達。誰に対しても短剣でいいじゃんと思いつつ、脇差を無駄に作った自分に凹む。まあ、スキルが乗ると思って諦めよう。
暗闇の造魔が出てくるものの、エウリティアさんもアルゼルも苦戦はしていない。まあ、二人とも面倒だから進まなかっただけで、実力的には何の問題も無かった筈だ。アルゼルに関しては封印で弱くなっているのでアレだが、エウリティアさんは楽勝だろう。
「そんな事は無いさ。契約者の強さによって制限を受けるので、私はそこまでの力を発揮できない。とはいえ他の天使も悪魔もそうだが、実力が落ちたとしても経験や感覚に技術は残っているのだから、そこまで弱くなっている訳ではないよ」
「そうそう。ボクだってー………今回は【盾術】スキルを得ても良いかもしれないねー。昔、盾の聖人がすっごくウザかったからさー」
「盾の聖人って、<ザ・ファドゥ>って人の事?」
「そんな名前だったかなー? 確か違ってたと思うー」
「【暴食】の悪魔が言っている盾の聖人は、おそらく<ゲイル・ウォルカー>の事ではないか?」
「そう! 確かそんな名前だった筈ー」
「そんな聖人聞いた事も無いんだけど、もしかして昔の人?」
「そうだ。かなり昔の盾の聖人だが、未だに盾の聖人の中で歴代最強とも呼ばれる人物だね。圧倒的な流しといなしの技術を使い、受ける衝撃をゼロに近い状態にまでしてしまう為、別名で<ゼロの魔術師>と呼ばれた人物だよ。【暴食】の攻撃も無効化されていたしね」
「あいつキライだったけど、今は居ないから逆にボクが使ってあげるよー。そのうえで今の盾の聖人をボコってやるんだー」
「それは流石にちょっと可哀想だろう。我々天使や悪魔と違い、聖人や魔女は寿命があるのだぞ? まあ、一名だけ寿命が存在しない化け物が居るが、そこは気にしたって意味は無い」
「私達は大天使や大悪魔の力で寿命が無いけど、何で<破滅>は自力で不老に至ったのかしら? 意味が分からないのよね。しかも未だにその方法を全く明かしていないし。そんな事をするから有象無象に絡まれ続けたというのにねえ」
「師匠が有象無象に絡まれたのは、伝説級金属の事だけじゃなかったのか」
「そちらも大きいと思いますよ? しかし女性にとって不老というのは……」
「だいたいは美しさが失われる事に対する恐怖とか聞くけど、果たしてそれが本当かと言われると本人しか分からないだろ。自分がチヤホヤされなくなったのは年老いた所為だと考える女も居るらしいしな」
「チヤホヤされなくなったって言ったところで、実際にはチヤホヤされてなんていなかったっていうのも聞くよ? 昔の思い出を美化してて、実際には唯の妄想だったっていうのもあるらしいし」
「いつまにか勝手に自分中心にしているんですよね。昔の知り合いなどにインタビューしている映像などでは、「目立たなくて大人しい子だった」とか「友人は一人か二人居たみたいだ」とか、そんな証言が出てくるんですよ」
「そういうのは、おっと、暗闇の像魔だ。話は止めて集中して戦おう」
敵が現れたので雑談を止め、僕達は暗闇の造魔と戦う。とはいえ既に慣れている相手でもあるので苦戦もせずに勝利。明日からはユウヤが居ないからアレだけど、今日はユウヤも居るので問題なく勝てる。
敵を倒した僕達は再び歩き始めると、またもや雑談が始まる。
「さっきの話だけど、エンリエッタさんは別に美しさを維持したくて不老になった訳じゃないんじゃない? 流石にそういう人には見えないけど?」
「まあ、<破滅>はそういうヤツじゃないわね。でも、そういう事を異常に求める奴は居るのよ。それこそ必要なら生贄でも何でも用意しかねない異常者がね」
「バートリ・エルジェーベト……」
「アレの名を出すなと言いたいところだが、そういう女性も世の中には居るだろうなぁ。まあ、バートリ・エルジェーベトは特に狂ってるけどよ」
「創作の吸血鬼のモデルの一人で、ハンガリーの伯爵夫人だっけ? 他にもロシア帝国の伯爵夫人、ダリヤ・ニコラエヴナ・サルトゥイコヴァもモデルの一人と言われてるね。両方とんでもないシリアルキラーだけど」
「「「「シリアルキラー?」」」」
「シリアルキラーとは殺人鬼の事だよ。どちらも自分の欲の為だけに100人以上を殺害してる。エルジェーベトは綺麗になるという妄想というか理由だけで、処女を傷つけたり殺したりして生き血を浴びたり、支配欲や嗜虐欲を満たす為に拷問を行っていたとされてる」
「ダリヤ・サルトゥイコヴァは殺人や拷問を楽しんでたとか言われてるな。どっちにしても頭がおかしい連中だ。だが、そんなのは他にも居るんだよなー。ドイツやドイツ帝国のイルマ・グレーゼとかイルゼ・コッホとか」
「片や収容所の看守でありアウシュビッツで拷問を行ってた人物。片や収容所の所長の妻で、囚人の生皮を剥いで本の装丁に使っていたという人物だね。囚人の内臓を取り出して標本とかも作ってたらしいけど」
「「「「「「「………」」」」」」」
「…………イルは驚かないみたいだね? 最初の女性の名前を言ったのもイルだし」
「ゲームとかしてるとモデルにされた人物が気になって調べたりする。だから私は元々知ってた。っと、採掘場所があるから採掘しながら話す。そもそも最初のバートリ・エルジェーベトは血族婚の果ての人物、つまり近親婚で狂った人物だとも言える」
「近親って事は、相当に血が近い人物との婚姻を繰り返した訳か」
「そう。バートリ家はそもそも非常に大きな権勢を誇る家で、それを奪われまいと血族婚を繰り返した。その結果、狂ったおかしい子供が生まれる家系となってしまっている。当時のエルジェーベトの兄弟も色情狂だと言われていた筈」
「血が異常に濃くなった結果ねえ。昔からあるけど碌な結果にならないのに、何故そんな事をするのかしら? 西の国の連中って本当に意味が分からないわ。日本なんて血が濃くならないように、娘を旅人に差し出して一夜を共にさせたりしていたのにね?」
「それもそれで酷いような気がするけどー、血が濃くなっておかしくなるよりマシかなー?」
「どうだろうね? 本人が納得していたのなら良いが、納得など無いのに無理矢理というのは絶対にあっただろう。とはいえ血が濃くなり過ぎると問題だから、村として考えた場合の村長の気持ちは分からなくも無いな」
「女性の守護者と言ってるけど、騎士爵の娘でもあったからか、そういう考えも出来るのね。とにかく女性の不幸は全部駄目だって感じだと思ってた」
「そんな考え方なら、私は【慈悲】の天使には成れていないよ。そうではないからこそ天使なのさ」
「さて、掘り終わったから、そろそろ先へと進もうか?」
そう言って出発して曲がり角を曲がったら、黄色の魔法陣があった。ようやく見つけたけど、前と違って先へと進む魔法陣と隣り合ってはいないらしい。まあ、帰還の魔法陣は既に見つけてあるから問題は無いけどね。
後は適当に採取場所などを探しつつ60階のマップを埋めるだけだ。もしかしたらだけど、明日も【死気感知】の事で参戦不能かもしれない。それもあってマップはしっかり作っておきたいんだよね。
明日は素材集めからの暗闇ダンジョンとなる可能性があるし、10万人に近い人数が居るんだから今ごろ殺到してるだろう。今の内に習得しておかないと、次はいつになるか分からないから当然だけど。




