0643・ビスティオとエルフェリアの戦争 その17
結構な時間が掛かってしまったからか、予想以上に長く戦っていたみたいだ。今から魔法陣に帰っても、お昼の準備に少し早いくらいの時間になる。皆にも声を掛け、流石に時間なのでエルフ達が固まっていた場所を確認してから撤退する事に。
「こいつら<死の腕輪>を着けている連中ばかりだから、おそらく汚染されたんだろうとは思う。でもなー、エルフェリアの上層部は何考えてんだ? こんな味方に犠牲を強いるやり方をやっていても勝てないぞ、普通は」
「ここでどれだけ狂ったとしても最低な事をやっていたとしても、本国には届かないからかもね。そうすれば幾らでも嘘情報で国民を騙せる気がするし、国内だけでも騙せたらいいんじゃないの? 負けても「奴等は<死の欠片>を使うという卑劣な事をした」とか、ビスティオ側に擦り付けてきそうだし」
「それはありそう。アレよね、最早国民さえ騙せれば良いとか考えてそう。どっかの赤い国みたいに」
「ああ、五つの星の赤い国」
「あそこかー、可能性としては無くもない。っつーか、エルフェリアは、あの赤い国と考えればいいのか? もしかして」
「あそこだと考えたらー。んー………雑に証拠隠滅? もしくはフライングお気持ち表明? 後は侵略行動と示威行動? それに脅迫と密かに麻薬とか流す?」
「何処かは知らないけど、稀人の故郷にも相当酷い国があるのねえ。聞いているだけで悪辣さが分かるわよ」
「地溝油にダンボール肉まんに毒餃子。虹色の川とか爆発する川。緑色に塗った偽芝生の地面や事故車両を埋める。村人から搾取して肥え太る村長に、国民から搾取して肥え太る執行部。かと思えば地方は借金だらけで破産も出来ない。他国から盗んで詫びる事もなく、それどころか盗まれた方が悪いと言う始末。体面すら満足に整えられない国」
「何処の蛮族なんだい、それは? 既に国家の体を為してないだろう、完全に。頭がおかしいとしか思えないね」
「むしろ、それを超えてるー? 国の全員が蛮族でないと、普通は民衆が国の偉い奴等を討ち倒す筈ー」
「あそこは自国の事を<眠れる龍>とか言っているけど、実際には<起きない豚>が正しいからな。ア○ン戦争の時にそれは証明されてるし」
「あの時は清だけど、確かにそれがあの地域の正しい姿だと思うよ。だからこそ全方位を見下して差別する思想と思考が生まれるんだろうしね」
「<中華思想>と<華夷秩序>」
「中原こそが世界の中心で、そこから遠ざかる程に蛮族しかいない。どこまで驕ればこんな発想が生まれるのやら。そしてあの赤い国の文化の源流には必ずといっていい程にソレが存在する。私達の国を見下してるのも、その古代の妄想を今でも受け継いでいる証」
「良い悪いは別にして、そういうのを基礎にして出来上がってるから、無くす事は出来ないんだよな。それに他国を見下して優越感を感じるから、尚の事、無くそうとすら思わない。赤い国を外から見たら、蛮族そのものなのにな。だから大阿Q国とか言われるんだし」
「真の愚か者とは、自身が愚かであると知らない者である。という言葉と同じで、彼らは自分達が蛮族だと知らないんだよね。周りを見下すだけで自分達を省みないから。だからいつまでも蛮族行動を繰り返す」
「何か話を聞いていると、エルフェリアと共通点が多いわねえ。他者を見下す者って同じような行動をとるのかしら?」
「そうではありませんか? 先程コトブキが愚か者の話をしましたが、エルフェリアのエルフも自分達が愚か者だと気付いていないのですから、まったく変わらないと思いますよ」
「<死の欠片>で味方を犠牲にしておいて、だもんね。頭の良い者がやる事じゃないわよ。本当にトチ狂ってるとしか思えない」
話をしつつも到着したので調べてみるけど、これと言った何かがある訳じゃない。一応テントみたいな布が張ってあるけど、中には袋が置いてあり、ちょっとしたパンとか干し肉が入っていただけだった。そしてそれは【暴食】の悪魔であるアルゼルにすらスルーされる。
「一応敵の持っていた物だから食べないように言おうとしたら、まさかの見向きもしないとは思わなかった」
「流石のボクでも、美味しくなさそうな物には手をつけないよー。今さら硬いパンとか干し肉が目の前にあってもねー? それに手を出したりなんてしないー」
「美味しいか美味しくないかだったのかよ。一応毒とかに気をつけてほしいんだがなぁ。とはいえ食料ぐらいしかないって事は……。ここである程度の期間を過ごす気だったって事か?」
「見張りというか拠点を作ってた? 仮に防衛拠点を作られると攻める側は大変だよね。三倍の法則だっけ? 砦とか城を攻める場合には、攻撃側は守備側の三倍の兵を必要とするっていうヤツ」
「そんなのあったなー。でも<死の腕輪>を持たせている連中に、砦を作らせたりはしないだろ。だから唯の拠点だと思うぞ。何の為の拠点かは知らないけどな」
「これ以上は探しても見つからないっぽいね。そろそろ帰ろうか、何も見つからなかったし」
「そうね。そうしましょうか。まだ二日目だし、これからでしょ、これから」
僕達は何も見つからなかった調査を終え、さっさと南へと戻っていった。流石にどれだけ探しても見つからなかったし、何かがあるとは思えないしね。トモエの言う通り、何かが起こるとしてもこれからだろう。
午前だけでも【死気感知】が手に入ったので、成果としては十分過ぎる。
「そういえば【死気感知】の事を掲示板に流した?」
「もう流した。といっても検証班の板にしか流してない。それでも恐らく午後からは凄い人数が殺到すると思う。今習得しておかないと、いつ習得できるか分からないから」
「でしょうね。私だって習得出来ていなかったら、無理をしてでもビスティオ側で参戦します。……っていうか、スキル欲しさにエルフェリア側でも良いっていう人が現れかねませんよ?」
「もしかしてそれで逆転する? ……いや、それはないか。スキルさえ習得したら、すぐに帰りそうだし」
「それはね。わざわざエルフェリアを勝たせようなんていうヤツは居ないでしょ」
魔法陣まで辿りついた僕達はさっさと戻り、マイルームからソファーの部屋へと移動する。ラスティアとキャスティとファルを呼び出し、ファルにはいつも通りに昼食作りを頼む。アルゼルはこの部屋に置いてあるお菓子を早速食べてるね。
「おおぅ、マジ? <き○この山>を置いたのはいったい誰よ? 戦争を起こす気なの?」
「戦争?」
「<き○こ・たけ○こ戦争>だね。どっちの方が好きかって事で、き○こ派とたけ○こ派に分かれてるんだよ。どっちが好きかって事だけなんだけどね。それでも好みは分かれるから」
「で、アルゼルに<たけ○この里>も渡すんだ。どっちも食べさせて判断させようって事?」
「【暴食】の悪魔の推しはどっちかと思って。で、どっちが美味しい?」
「んー………甲乙付け難いかな? <き○こ>の方はチョコレートをメインに食べてる感じ、<たけ○こ>の方はチョコレートと一緒に味わう感じ。どっちも方向が違うから、両方はアリだと思う」
「まさかの結果だな、【暴食】の悪魔は第三の道を選んだらしい。ま、美味しければ何でも良いのだろうがね」
「美味しいは正義だからねー」
「どっかで聞いたセリフ……」
「ま、いいんじゃない?」
「カンカン」
下らない話をしている間に昼食が出来たみたいだ。さっさと食べて現実の方でも食事をしないとね。




