0627・ビスティオとエルフェリアの戦争 その5
鬱陶しいのが未だに睨んでくるけど、僕は完全スルーで無視している。そもそも大した実力も無いのに出て行こうなんて、戦争を舐めているとしか思えないしね。むしろ仲間達がバカ兵士を睨んでるよ。
そのまま適当に捨て置いていると、先程の人と9人のベテランっぽい兵士がやってきた。どうやら10人で一小隊らしい。それはいいんだけど、睨み合いに気付いた兵士が止めさせる。
「おいおい、下らない事をしてるんじゃない。そもそも味方を睨むって、何を考えてんだお前は。こんなところで下らない事をしてるんじゃねえぞ」
「お願いします、私を連れて行って下さい! あんな役立たずよりも絶対に役に立ってみせます! お願いします!!」
「………どうするんです?」
「はぁ。バカは治らんみたいだな。味方の足を引っ張らないのであれば連れてってやる。ただし味方の足を引っ張ればブン殴られると理解しておけ。上官の命に従わん兵士など要らんのだからな」
「分かりました!」
こいつ絶対に分かってないな。そんな空気がベテランっぽい兵士達の間に流れており、小隊長のような人物は呆れてしまい考えるのを止めたようだ。ようするに駄目ならブン殴ればいいやって事だろう。
僕達はビスティオ側の魔法陣近くから出発し、西へと移動していく。西へ西へと移動している最中、エルフが木の上に居るのを発見して立ち止まる。僕達が前だから全体が止まった。
「どうした?」
「あの辺り。あの木の上の辺りにエルフが居ます。魔法なのか矢を射ってくるのかは分かりませんが、2名居るので気をつけて下さい」
「はぁ? お前みたいなヤツの言う事なんぞ信用する訳が無いだろうが! 私が行って、そんな連中など居ないって証明してやる!!」
そう言ってバカ兵士が走って行ってしまい、そして矢を射かけられた。その矢は右太腿と左の脛に突き刺さったらしく、その矢を受けて地面に倒れる。すぐにドースが該当の場所の下に【ウィンドウォール】を使ってバランスを崩させて落とす。
落下してきたエルフ兵はセナとシグマがカチ割って殺害、戦闘は終了した。それにしても愚かに過ぎるだろ、あのバカ兵士。あそこまでバカって事は、もしかして貴族の三男坊とかなのかな?。
「痛い! 痛いじゃないか!! 戦闘がこんなものだなんて父上からも聞いてないぞ!! ぐぁっ!? もっと優しく抜け!!」
「その物言いで分かった。貴様ジュード子爵家の洟垂れか。あの愚か者の家は親子揃って碌でもないという話だったが、本当にその通りだな。先走って矢を撃たれ、無駄な怪我を負っては泣き言か。貴様は兵士ではない、唯のクソガキだ」
「お前! 覚悟しておけよ! 父上に言いつけて軍に居られなくしてやるからな!!」
「ほう? ガジュウドラ伯爵家の私に喧嘩を売るか……。なかなか面白い事をホザく奴だ。よかろう、遠慮なく向かってくるがいい。子爵家如き、叩き潰してやる」
「ガジュウドラ伯爵家………」
バカ兵士は薬で治療を受けて治ったが、その後は即座に土下座して謝罪をし始めた。父親から「手柄を挙げてこなくば、家を叩き出す」と言われていたらしく、何としても手柄を挙げなくてはという一心だったらしい。
バカバカし過ぎて理解不能だが、どうやらベテラン兵士にとっても理解不能だったみたいだね。呆れて声も掛けたくないって感じ。
「軍にブチ込まれる貴族のお坊っちゃんっていうのは二通りあるんだよ。一つは軍で出世する為に入ってくる。二つ目は性根を叩き直させる為に軍に入れられる。このどちらかなんだ、普通はな」
「まさか手柄を挙げさせる為に軍に入れるなんていうバカが居るとは思わなかったぜ。軍なんて皆で戦うんだから、誰の手柄なんてねえよ。個人で評価されるとしたら中隊長か大隊長以上だ。一兵士が手柄なんて無理に決まってるだろ」
「そうそう。そもそも兵士は隊長なんかの命令に従う者だぞ。命令に従っただけの兵士が功績といえる手柄なんて挙げる事はあり得ねえんだが、コイツそんな事も知らなかったんだな」
「もしかしてだが、ジュード子爵家そのものが知らないのではないか? あそこの洟垂れは三人兄弟だった筈だが、軍に入ってこれる年齢なのは長男だけだぞ。その長男がおそらくコレだろう」
「長男がコレじゃ、次男や三男はもっと甘やかされるでしょうからねえ。どこにも行き場所なんて無えんじゃないですかい?」
「だろうな。クソの役にも立たんし、どうにもならないだろう。こんなヤツに隊長なんてさせてみろ、何をやっても敗走するしかねえぞ。そんなんに巻き込まれる兵士が不憫すぎるだろ。オレは絶対に嫌だぜ」
「そんなもん誰だって嫌だっての。それより隊長、どうすんですか、コレ?」
「いちいち戻るのも面倒だし、このまま連れて行く。ただし貴様、分かっているな? これ以上邪魔をするのであれば、前線に無理矢理連れて行って敵に始末させるぞ。理解したら大人しくしておけ」
「は、はい! 分かりました!!」
これでようやくバカが余計な動きをしなくて済みそうだ。さっきので死んでいてくれても良かったんだけど、それは高望みだったらしい。仕方ないなと思いつつ、僕達は前へと進んで行く。
すると<奪命のスモールソード>を持っていたエルフの付近で、何やら3人のエルフがゴソゴソしていた。僕達はすぐさまエルフを強襲、フォグの【霰】とセスの【サンダーウェブ】で範囲的に攻撃と撹乱をし、動きを鈍らせる。
「チィ! 貴様ら、時間、稼げ」
「シャッ!」
「カタ!」
「オソイ!!」
僕とファルとセナでエルフを一人ずつ殺害。特に偉そうだったエルフはセナが一撃でカチ割って殺したので、あっさりと終了。そしてその偉そうなエルフの手から瘴気結晶が零れた。どうやら死体から回収していたらしい。他にも見た事があるショートソードと投げナイフを持っていた。
「コイツの持っているショートソードと投げナイフが、僕が言っていたものです。このエルフは奪われないようにと回収しに来ていたんでしょう」
「そ、そうか………。ところで君は容赦ないのだな?」
「え?」
よく見るとベテラン兵士は顔が引き攣っており、バカ兵士はカタカタと小刻みに震えている。
……おかしい。殺気も殺意も出していないのに、何故怯えられているんだ? そんなに怯える事なんて無かった筈だけど。
「ま、まあ君が分からないというのなら、それで良いのだろう。それよりコレが瘴気結晶で、こっちが呪物の武器か。………確かに鑑定でも呪術的な剣だと出ているな。しかも、人間を拷問して作られたと出ている。本当に碌でもない連中だ」
「拷問して作り出す、呪いの武器ですか。この剣一本の為にどれだけ殺されたのやら? 頭がおかしい連中というのは、とことんおかしいですね」
「問題は星間魔法陣の向こう側は、そんな連中の巣窟だという事だ。我らがビスティオを守る為にも、向こうを監視できる領土を奪わねばならん。少なくとも向こうの星間魔法陣を確保すれば、こちらに攻めて来る事は出来んからな」
「頭のおかしい連中が隣人とか、嫌過ぎますな。国内の愚か者にも目を光らせねば、こんな物があると知ったら何を考えるか……」
「何をも何も、同じ事をしようとするに決まっておる。これは将軍にもお伝えせねばならんし、そこから陛下に奏上して頂かねばならんぞ。徹底的に管理を厳しくせねば、阿呆が出ると他の国から敵視されてしまう。場合によっては……」
「<破滅の魔女>に滅ぼされるかもしれん」
「「「「「「「「「「………」」」」」」」」」」
師匠の名前が出た途端、顔面蒼白になって尻尾を丸め、子犬みたいに震えてるんだけど……。どこまで怖いのさ、師匠って。
まあ、師匠のイメージを毀損する訳にもいかないので、僕は何も言わないけどね。




