0604・暗闇ダンジョン60階 その4
危ない薬の原料をゲットしてしまったものの、僕達は気を取り直して進んで行く。未だに赤い魔法陣である脱出の魔法陣は見つかっておらず、僕達はウロウロと60階を彷徨っている。思っている以上に運が悪いと言うべきだろうか。
「赤い魔法陣が見つからないけど、ここまで見つからないって珍しいね。何となくだけど、先に進む青い魔法陣と同じ場所にありそうな気がする。そっちもまだ見つかってないからさ」
「ああ、その可能性は俺も考えてた。流石にここまで出ないなら、青と一緒なんじゃないかってさ。一度でも脱出できれば、これからは気楽に入って来れるんだけど、死亡で脱出はしたくねーなー」
「それは誰でもそうでしょ。ここまで来て死亡で戻されるって、あまりにも嫌過ぎるわよ。きっちりと脱出できて始めて60階到達だと言えるんだし、ここは全員揃って脱出しなきゃ駄目よ」
「幸い、強いものの暗闇の造魔の倒し方も分かってきたし、やられちゃう可能性はそこまで高くないと思う。もちろん油断したりなんてしないけど、戦い慣れれば楽になっていくしさ。もう大丈夫じゃないかなぁ」
「<幸運のハチマキ>に喜んで、首を刎ねられた人とは思えない科白。もう少し自分の事を思い出してもいいと思うけど?」
「………」
ナツは目を背けて聞こえないフリをしているけど、皆は微妙な気分になってる。ナツ本人は分かってないんだろうけど、周りの僕達は首を刎ねられた瞬間を見てるからねえ。僕個人は何も思わないけど、他の人は色々と思うところがあるんだろう。
僕はアレだ、<BUSHIDO>で多くの首を刎ねてもきているから今さらだけど、皆は見慣れないからだろうね。それでもトモエなんかは気にしないと思うんだけど、そうでもないのかな?。
皆も声を出す気にならなくなったのか、黙々と歩いていきつつ罠を回避していく。ここ最近は罠に引っ掛かる事も無くなってきたので相当に楽になってきているけど、またいつ罠が見破れなくなるか分からないので緊張感を再度持とう。
そう思い直して進んで行くと、すぐに採掘場所を発見した。皆で順番に掘っていくんだけど、まさか一回目でここまで出てくれるとは思わなかったよ。これって流石に幸運で済ませられる事じゃないと思うし、いったいどうなってるんだろう?。
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<鉱石> 聖結晶 品質:9 レア度:6
魔力と対になるという意味で名付けられた結晶体の1つ。魔力を散らす効果を強く持ち、聖結晶のみで作られた武器は魔法を切り裂く事が出来る。非常に強力な効果を持つものの、他の素材とくっ付いた段階でその効果の殆どは無くなってしまう。魔法を切り裂きたいなら聖結晶のみの武器を作ろう
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<鉱石> 白結晶 品質:9 レア度:6
強い光属性を持つ水晶の1種。他の物と混ぜても効果は高まるが、最も効果を高めるのは聖結晶である。ただし聖結晶の効果は失われるのでそこは注意しよう。尚、聖結晶と混ぜると耐久力も飛躍的に高まる。ここまでの素材を使うなら暗闇ダンジョンに挑戦するのもアリだろう
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<鉱石> 重結晶 品質:9 レア度:6
重いものの、代わりに耐久力が非常に高い結晶体。魔力が強く篭もっている為不思議な結晶構造をしているが、その結果として非常に優秀な性能を誇る武具に出来る。お薦めは癖の無い木材と組み合わせる事である。もし心当たりがあるなら組み合わせてみるといい
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「俺が手に入れたのは重結晶だけど、これ相当に通わないと駄目だよな? 硬堅木も手に入れなきゃいけないし、それをコトブキにメイスか棍棒にしてもらわないと駄目だしさ。とはいえ、これだけの物だから素材を集める価値はありそうだ」
「何故か僕は1つぐらい作れる量が揃ったよ。でも作るにしても何にしよう? 切り裂く為には刃が要るし、そうなると刀か槍かしかないんだけど………どっちにするかな?」
「そこまで綺麗に聖結晶しか出なかったのは不思議だけど、最後の最後に流れが良かったのはコトブキかしらね? 採掘5回で全部が聖結晶とか。この後が心配になるレベルの引きねえ」
「ワザとそう言うの止めてくれない? たまたまだし偶然でしょ。稀にこういう事もあるんだから、この後は不幸しかないみたいな言い方されても困るよ」
「それよりコトブキは何にする? 太刀? 打刀? 小太刀?」
「別にそこまで大きくなくても良いと思うんだ。短剣スキルはある癖に短刀スキルは聞いた事が無いからさ、おそらく短刀も刀スキルで使えるんじゃないかと思ってる。そうなると短刀も視野に入ってくるし、駄目でも小脇差なら刀だしね」
「よく考えるもんだな。小脇差なら短刀よりちょっと長い程度で済むから、その分だけ素材を使わなくても済むだろう。何なら左手に小脇差で、右手に太刀を持つか? そんな二刀流もアリだろう」
「二刀流にするとダメージありきになっちゃうからなー、完全に断ち切るのは不可能でしょ。……いや、身体強化をすれば可能かな? とはいえ無理はするべきじゃないし、右手は棒の方がまだ戦いやすいかも」
「刃筋とか色々と考えなくてもいいから、確かに棒の方が楽。二刀流なんて言っても、片手で断ち切るのは殆ど不可能。何より二刀流は防御用の剣術だし、それは西洋も変わらない」
「レイピアとマン・ゴーシュか。確かに左手の武器で防御、右手の武器で攻撃はヨーロッパにもあるし、アレは完全に防御用の武器だからな。刺突系の武器ならまだ何とか出来るけど、刀は両手を使わないと斬れないか」
「でも宮本武蔵とかいう人が居なかった? 昔の人だけど」
「宮本武蔵もねえ、右手だけで本当に断ち切れたかは甚だ疑問があるんだよ。養父か本当の父親かは知らないけど、その新免無二ならちゃんとした記録はある。でも宮本武蔵は眉唾な話も多いんだよね」
「後世に書き加えられたり、急に出てきたっぽい逸話とかあるからな。それを持ち出して武蔵スゲーをされてもな、っていう気持ちはある。正直に言って巌流島がアレな所為で、宮本武蔵の話はイマイチ信用ならないんだよ」
「巌流島の決闘とかいうヤツでしょ? 佐々木なんとかと戦ったヤツ」
「そうだけど、あの時の佐々木小次郎は既に70を超えてたって言う話もあるんだよ。更には小次郎一人だったのに対し、武蔵の側は弟子を4人連れてたという話もある。当時の流派同士の争いとかは、基本的に多数と多数の戦いだから変じゃないんだけどね」
「でも1人の佐々木小次郎お爺さんを、5人でボコって殺したのが宮本武蔵。という可能性もあるのよねえ。何とも言えないわ」
「佐々木小次郎は当時、佐々木岩龍とも言われていたらしいよ。だから小次郎が亡くなった島の名前を岩龍島とし、そこから巌流島という字になったとか、元々佐々木小次郎の流派が巌流だという話もあるって読んだ事がある」
「ふーん。……そんな話を聞いていたら、魔物に会う事もなく魔法陣が見つかったわね?」
トモエに言われて前を見ると、そこには青と赤の魔法陣があった。やっぱり2つは同じ場所にあったらしい。
「間違えて青い方に乗ったりしないようにね。もし間違えても誰も助けないよ?」
「分かってるって。そんなコントみたいな事は誰もしないわよ」
僕は地図に描き込みつつ、ジッと確認する。最後に僕が乗るとはいえ、結果的には誰も青い魔法陣には乗らなかった。妙な事が起きなくて良かったよ、本当。




