0006・現実と魔女の話
「それで……モグモグ……何か……ムグムグ……良い情報ある?」
「食べながら喋るの止めなよ。それはそうと、情報ねえ……。スキルは新しく覚えたかな? 【魔力操作】と【魔力感知】に【闘気操作】と【闘気感知】」
「なにそれ? そんなのベータの時にも聞いた事ないんだけど!?」
「という事はアナウンスは出なかったんだなー。実は【闘気操作】と【闘気感知】を覚えてから、スタミナゲージの下に赤色のゲージが出たんだ。それが闘気ゲージみたい。魔力と闘気を混ぜ合わせると【心力】とか【仙力】とかになるらしいよ」
「へー……それ欲しい! どうやって覚えるの? 教えなさいよ!」
「いや、無理だって。師匠との模擬戦の後で覚えたものだから、多分だけど師匠から伝授される系だと思う。だから秘匿されてるんだろうしさ。シズも師匠探したら? もしかしたら<魔隷師>の魔女も居るかもしれないし」
「えっ!? タマの師匠って魔女なの? 私リッチか何かを想像してたわ。だって<ネクロマンサー>の師匠でしょ? 何でリッチじゃなくて魔女なのよ、おかしくない?」
「それを僕に言われても困るんだけどね。ちなみに師匠が言うには他にも魔女が居るそうだよ。他の魔女は魔法とかに行ったけど、それは面白くなかったからネクロマンスに行ったんだってさ」
「言いたい事はよく分かる、だって普通の魔法って面白くないし。一応スキルとして習う予定ではあるけど、あくまでも補助的に使うだけだし? やっぱりメインは鞭よね」
「お、そっち系目指すの? 女王様系はありきたりだから目指さないのかと思った」
「いや、確かにありきたりなんだけどさ。こう……他の武器じゃ上手く嵌まらないのよ。何というか、コレじゃない感が強いの、凄く」
「ああ、成る程。剣を持っても槍を持っても変だもんね。魔物を支配するサキュバスが剣持ちって、猛烈に似合わないなー」
「でしょ? だから剣とか槍とかは外して見てたらさ、堂々と武器屋に鞭が置いてある訳よ。そりゃ手に取るでしょ? 他に似合う物ないんだし、ついでに武器屋のオヤジに物凄く薦められたわよ。あれ本当にAI? っていうくらいにね」
「ああ、分かる。何か<レトロワールド>のAIって妙に高性能なヤツ使ってるよね。師匠も普通の人間レベルの思考してるしさ。レトロっていう割には、レトロなのは世界感とかシステムだけかも」
そんな情報交換も終わり、僕とシズは再びゲーム世界へと没入していく。夏休みは始まったばかりだけど、適当に課題を熟せばいいだけだ。僕とシズが通ってるのは小中高の一貫校で、今では当たり前になった形式の学校だ。
父さんが子供の頃に学校の統廃合が進み、今では一貫校が当たり前になっている。シズはともかく、ボクは既に1年分のカリキュラムの殆どを終わらせてある。残りはそこまで多くないので、適当に過ごしていても問題無い。
出なければいけない行事には出席しなきゃいけないが、そもそもそれ以外は自宅学習が当たり前の時代だ。特に学校に行く事もない。ゲームの合間を縫って授業を受けまくっておいて良かった。
シズは半年分ぐらいしか終わってないらしいけど。それでも友人達よりは進んでる。ああ見えて、僕より劣るけど全国的には優秀なんだよねシズも。それはともかく、夏休みの課題は別にあるから、それだけきっちりやっておかないと怒られる。
まあ、そんな事は夜にやるとして、今日は今からレベル上げだ。
あれ? 暗い平原に黒い甲冑を着た騎士の群れ。それらが巨大な黒いドラゴンと激突して蹴散らされていく。ドラゴンは更にブレスを吐いてニヤリとするも、巨大な魔法陣で凍らされた後、巨大な火球が直撃して粉々に。
そして七人の女性が映って……師匠? 奥に師匠っぽい姿の八人目が見えて、カメラが引いていき<レトロワールド>。もしかして前回のオープニングは、初ログインの時だけなのかな? なら逆に貴重という事になるんだけど……まあ、いいや。さっさとゲーム始めよう。
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「おい、大丈夫か。しっかりせい! コトブキ! いったいどうした!?」
「えっ? あれ? 師匠どうしたんでぶぇっ!?」
「どうしたではないわ、このたわけめが! 目を覚まさんから死んだのかと思ったぞ!! 妾を慌てさせるとは万死に値する!!!」
「うぇぇ。いや、僕は稀人ですよ? この体は仮の物ですし、元の世界でお昼ご飯食べてきただけですよ」
「ぬ……ああ、成る程。あれが稀人の脱界か。まったく、脅かしおってからに。それはそうと妾の顔を見てどうした? 惚れたか?」
「あー、うーん、僕はどうお答えするのが正解なのでしょう? ……それより師匠の他に魔女の方って七人いませんか? こちらに来る際に黒いドラゴンを魔女の方が倒すのを見たんですが……」
「黒……おーおー、昔ブラックドラゴンを倒した時の事じゃろ。妾達魔女を全員招集するから何事かと思ったら、高がブラックドラゴン1頭にオタオタした国があっての、呆れたが国民もパニックになっておるので、仕方なく魔女全員で行った事があったわ」
「黒いドラゴンがカチカチに凍らされた後、巨大な火球で爆散してましたけど……魔女の方って強いんですね。まあ、当たり前なんでしょうが」
「そうじゃの。そもそも魔女になれば不老不死となるが、至るまでの道程は苦難の連続じゃからの。ちなみに魔女は男でもなれるぞ? 妾の下で目指すかの?」
「あのー、そもそも仮の体なんですが……。それはそうと、僕の姉がこっちで<魔隷師>をやってるそうなんですが、<魔隷師>の魔女って居るんですか?」
「お主の姉のう……チンチクリンでは<魔隷師>は勤まらんのじゃが、それを好む魔物もおらんではないか」
「あの、姉は僕と違って高身長でスタイル抜群なんですよ。きっと母親の体の中で持っていかれたんだと思います。双子の姉なんで」
「ああ、うむ、そうか……。妾は小さいのが嫌いではないゆえ、気にせずともよいぞ。愛でる対象としては非常に良いからの」
「あの、向こうでも16なんですけど?」
「なんじゃ、その程度か。まだまだ子供じゃな、子供。それはともかくとして、<魔隷師>の魔女ならおるぞ。変り種の者がの」
「やっぱり居るんですね……でも、師匠のように魔法じゃないですよね<魔隷師>って? にも関わらず魔女ですか?」
「いや、あれは契約と支配の魔法じゃから、厳密には魔法に分類されるぞ? <業炎の魔女>、<氷獄の魔女>、<暴風の魔女>、<荒地の魔女>、<雷光の魔女>、<深淵の魔女>、<支配の魔女>、そして<破滅の魔女>。つまり妾じゃの」
「何か<荒地の魔女>だけ、荒地に住んでる魔女というイメージしか持てないんですが……」
「………あやつは魔女の中でも1、2を争うほどヤバい奴じゃ。何故なら奴は大地と毒に精通しておる。そもそも実験で荒地を”作り出した”魔女なのだ。それも広範囲に渡っての。御蔭で魔女仲間である妾達が、必死になって大地を解毒したわ。あの時は酷い目に遭った」
「………その人は野放しにしちゃいけない人だと思うのですが?」
「心配せずとも<氷獄>のがついておる。あれから呼ばれておらぬという事は大丈夫なのであろう。さて、昔話をしていても仕方ない。そなたはさっさと魔物を倒してこい。それと<澱み草>があったら抜いておけ。あれは森を腐らせるでな」
「分かりました」
しっかし、師匠がヤバい魔女じゃなくて良かったよ。広範囲を荒地にする毒ってシャレにならない。マッドの弟子は御免だ、絶対に妙な尻拭いをさせられるだろうし。