0589・第五回公式イベント その13
「くそっ! ゴーレムの足でも壊される事があるなんて、知「【水刃】」らなかっ」
ユウヤだとしても敵チームである以上、僕が手加減をする理由にはならない。だからこそ管槍を捨てて<水刃の小太刀>を抜いて首を落としたんだよ。左手で小太刀を抜くのもそこまで難しくはなかったね。
それでも右手で抜くよりは遅いけど、これに関しては仕方ないと諦めよう。実際<稲妻の太刀>だとダメージしか与えられなかっただろうからね。それを考えれば一撃でスパッといく方を使うのは当たり前だ。
僕は<水刃の小太刀>を鞘に仕舞い、管槍を持って再び歩く。このマップの何処かにも隠し武器があるかもしれない。もちろん既に誰かに取られてるかもしれないけど、とりあえずは探そう。
そう思って歩き出すと、「ズシーン!!」という音がして、その後に悲鳴が響き渡った。しかし悲鳴が思っているよりも遠いので、もしかしたら先ほどの何かが落ちたような音は遠いのかもしれない。
僕は音の発生源から遠ざかるか近付くかを考え、遠ざかる方を選択する。ここで好奇心を出した結果死ぬなんて事になるかもしれないし、実際に<好奇心は猫をも殺す>なんていう言葉もあるしね。なので<君子、危うきに近寄らず>でいこう。
僕は音が響いてくる側とは逆の方向に走り、危険からなるべく遠ざかる。お仕置きモンスターなら勝てる訳が無いし、戦っても無駄なので逃げた方がいい。どっちみち危険に近付く理由が無いんだよねえ。
そう思いながら山の方へと目を向けると、上の方に大きな鳥が見えた。どうやらお仕置きモンスターは大きな音のヤツだけじゃないらしい。あの鳥どう考えても大き過ぎるでしょ。目がおかしくなったのかと思ったよ。
山からも遠ざかりつつ、とはいえ鳥の動向を注視しながら道を逃げる。コンクリートの上なので何とも妙な気分になってくるが、この地形が邪魔になる事は無い。だから「ズシーン!!」走り……って、アレは蟹?。
何故か磯というか岩場の方に蟹が居る。先ほどまで居なかったので恐らくアレが音の正体なんだろう。着地した時の音があんなに大きかったんだろうけど、あの巨体が跳ぶって……。
高さ4メートルほどある蟹がジャンプして移動する様を目撃すると、変な笑いしか出てこないね。何というか、どこまで非常識な敵を作れば気が済むんだろう。ゲームだと言えばそれまでだけど、あんな巨体が跳んで着地しても大丈夫な足って何さ。
道がコンクリートだったり店があるのに、お仕置きモンスターはファンタジーってどうなの? 何か納得がいかないんだけど……。ま、そんな事を考える暇があったら、出来るだけ遠くに逃げよう。
本当なら火山みたいに洞窟があればいいんだけど、山の方にそれっぽい場所は無いかな? 蟹はまだ岩場の方だからいいけど、いつこっちに戻ってくるか分からない。今の内に安全地帯か、それとも安全そうな場所を……って、洞窟発見。
僕は全力で走り、近付いて来ていた鳥を振り切るように洞窟の中へと滑り込んだ。流石に洞窟の方が小さいので、巨大な鳥は入ってくる事が出来ない。この洞窟の大きさなら蟹も無理だろう。やれやれ、助かった。
…
……
………
洞窟は小さかったものの、時間が来るまで問題なく過ごせたので戻れた。まだ1死もしていないのは更新している為、このまま続けていきたいところだ。
金色チームの控えの空間に戻ったけど、不機嫌な人は更に不機嫌になっていた。どうやら蟹の鋏で胴体を切られたらしい。あんな無残な死に方は初めてだと怒っている。なので僕はさっさとマイルームに戻りログアウト。
7時は中世の町中、8時15分は火山、9時30分は江戸の町、10時45は磯と山。今は11時45分なので昼休憩なんだ。金色チームの他の人達もさっさとマイルームに戻っていた。
気に入らないならさっさとマイルームに戻ればいいのに、他人に聞かせるように喚いていたんだ。本当に鬱陶しいと思われる事しかしていない。本気で迷惑なんで黙ってほしいよ。
僕はキッチンへと移動し、昼食を作り始める。とにかく何か他の事をしていれば気が紛れるからだ。そうやって昼食を作っていると、シズが2階から下りてきた。
「今回のイベント、2日目からおかしくなってるみたいね? 何だか妙な武器を持ってる人とか居るしさ。それに、タマは友哉を倒したらしいじゃない? タマに殺されたって怒ってたわよ?」
「それは僕の所為じゃないでしょ。敵チームである以上は容赦なんてしないし、さっきシズが言ってた武器は既に3つ持ってる。それを使ってユウヤを倒しただけだよ」
「2日目から突然現れたボスと手に入る武器。しかも死んでも持ち続ける武器ならしいわね? 3本も必要なのか知らないけど」
「倒したボスは2体だよ。ただし2体目が持っていた武器もくれたんで3本になっただけ。それより友哉が愚痴を溢したって事は、シズも黒チームなんだね」
「それよりも昨日黒チームだったあんたが、何で今日は別のチームになってるのよ。御蔭で椿が五月蝿かったわ。それに昨日は少なかったけど、今日の黒チームは多いし」
「昨日は黒チームプレイヤーって僕1人だったのに、今日はイルも含めて3人もかー。確かに増えてるけど、結局そんなに多くないような……」
「何言ってるのよ、私、イル、ナツ、ユウヤ、アマロ。それ以外にも複数のプロゲーマーが居るのよ。この状況なのに、タマが別の色のチームにいる事の方が驚きでしょうが」
「あらら。僕の方は金色のチームで、昨日1死もしなかったプレイヤーだけが所属出来るっぽいよ。それが理由じゃないかな?」
「ああ、成る程ね。まさかそんな分け方にされてるとは思わなかったわ。しかし金色ってまた目立つわねえ……」
「仕方ないよ。運営はどうしても昨日1死もしなかった者は殺したいらしいからね。ジャージが金ピカで目立つしさ。中には昨日1死もしていなかったのに、今日は殺されまくって荒れてる人物も居るよ。いちいち面倒臭いのがね」
「気持ちは分かるけど、それ絶対に面倒臭いヤツじゃん。どうせ殺されて戻ってくる毎に悪態ついてるんでしょ?」
「それだけじゃなく他人に当たるし、無視されるとブツブツ言いまくって周りに聞かせようとするんだよ」
「マジで面倒臭いタイプじゃん。そんなチームにならなくて本当に良かったわ。……そういえばエンリエッタさんが、タマを見つけたら殺すって言ってたわよ? 頑張って逃げなさい」
「師匠はこう、何で僕を狙うんだろうね? いや、黒チームからは出来るだけ逃げるけどさ。友哉のゴーレムみたいに動きが遅ければいいけど、聖人や魔女が遅い動きのアバターにする訳ないしね。戦おうなんてしたら簡単に殺されるよ」
「それが分かってるなら何とかなるかもしれないけど、聖人も魔女も反則の強さしてるしねえ。能力は私達と似たようなトコまで落とされてるらしいけど、技術とか反射能力が高くて嫌になってくるわ」
「どういう事?」
「体の調子を確かめる為って言って手合わせをしてるんだけど、ビックリするほど高度な事をやってるのよね。ああいうのを見ると自分の荒が見えて嫌なのよ」
「そういう事かぁ。でもどうせ他の人は理解してないでしょ。見てるだけなんじゃないの?」
「まあ、そうね。モンスターのアバターだから分かり難いけど、果たして何人が理解してるかは疑問があるわ。流石に椿と友哉は分かってるけど、あの2人も自分が出来るかと言えば難しいと言ってたし」
師匠方はおそらく<BUSHIDO>の鬼一法眼クラスの能力はある筈だ。その状態であの武器があれば勝てるとは思う。しかし師匠に勝ったところで雰囲気が悪くなるだけだから逃げるけどね。
イベントが終わってから復讐されたりしたら堪ったものじゃないし。




