0586・第五回公式イベント その10
とりあえずドラゴノイドの居なくなった地底湖のような場所で静かにしていよう。ドラゴノイドを倒した以上、ここは安全地帯になった筈だ。お仕置きモンスターも火山地帯にしか出ないだろうし、来るならプレイヤーかな?。
その可能性はあるので地底湖に出てくる場所の近くで待機していよう。つまりこの広間に入ってすぐの場所だ。忍者も追っ手を撒く際に、道を曲がった瞬間壁に張り付き、敵が目の前を通り過ぎたらすぐに逆側に引き返す。そういう逃げ方があるらしい。
それに習って、僕も広間に入ってすぐの右の壁に、背中を張り付けるようにして隠れる。ここに来るプレイヤーなら、いきなり壁の左右を確認したりはしないだろう。まずは目の前の地底湖を見る筈だ。その間に後ろに回って斬ればいい。
「おい! 奥に何かあるみたいだ。後、ここスゲェ涼しいぞ! もしかしたら地底湖とかあんじゃね?」
「本当かよ! もしそうならここで終わるまで待ってようぜ。多分だけどあのフェニックスはここまで来ないだろ。火山に居るってのも分からなくはないけど、アレは間違いなく反則だ。外に居たら絶対に死んじまうぞ」
「そもそも他の奴等も殺られまくってたろ。オレら必死に逃げたから何とかなったけど、この洞窟が見つからなかったら「【水刃】」マジで……」
僕は3人が並んで入ってきたので後ろに滑り込み、なるべく首元を水平になるように斬った。水の刃だと簡単に切れるのでありがたい限りだけど、何回使えるかは分からないので頼る気にはならない。肝心な時に使えませんじゃ話にならないしさ。
とはいえ切れ味は試しておかなきゃいけないから使ったけど、予想以上の切れ味に驚く。そもそも小太刀そのものが敵に触れるようには使っていないので、水平に振るのも最速で振る事が出来る。
当然敵を斬る用の力の篭め方ではないので、最速で斬る事が可能な訳だ。言い方を変えると、この振り方は正式な刀の振り方ではないので慣れちゃいけない。そういうものになる。
それでも奥の手としては優秀だと思うのと同時に、これでないと斬り裂けない敵とか居そうで困る。お仕置きモンスターか、それともここと同じ武器を守護しているモンスターか。どちらにしても強敵なのは間違い無い。
ここのお仕置きモンスターはフェニックスって言ってたけど、本当かどうかは分からない。おそらく体中が燃えている見た目の鳥なんだろう。だからフェニックスと言ったんだろうけど、問題は<水刃の小太刀>で勝てるかだ。
いくつか脳内でシミュレートしてみるけど、どう考えても突破口が無いんだよね。正直に言って相手が鳥だという事を考えると、遠距離武器が無いと勝てないだろう。ここじゃ魔法もスキルも使用禁止だから、遠距離武器なんて投石ぐらいしかない。
【水刃】だって届くのは3メートルぐらいだ。そこから先は威力が落ちて大したダメージも与えられない。フェニックスというぐらいだから大きいだろうし、とてもじゃないけどコレじゃ無理だ。やはり外に出ずにゆっくりしておこう。
…
……
………
あれからも何度かプレイヤーが来たが、その度に後ろからの奇襲で倒す事が出来た。目の前の地底湖に目が行っていて、左右には全く気が向いていない人ばかりだった御蔭だ。
金色チームの控え空間に戻ってきたのは良いが、目敏い奴に僕が小太刀を持っているのを気付かれてしまったので、仕方なく理由を教える事になった。ちなみに他の人は手が素通りしてしまい、正式な所有者しか持てない設定だったよ。
「そのドラゴノイドっていうヤツに勝たないと手に入らねえのかよ。つまらねえな」
「他人から奪う事しか考えてないから、そういう発想っていうか言葉が出てくんじゃないの?」
「何だと!?」
「まあまあ、喧嘩しないで居ましょうよ。少なくとも今日一日は同じチームなんですし、喧嘩したところで何にも得なんて無いんですしね。他人に当たっても減ったポイントは戻りませんよ」
「うるっせえ! いちいち言うんじゃねえよ!!」
他の人達も面倒臭いヤツだと思って見ているけど、この人自身は周りを見る余裕が無いみたいだね。どうやら相当にやられたらしく、ポイントがあんまり残ってないんだろう。あからさまな金色ジャージだし。
「くそ! 何でオレばっかり狙ってきやがるんだ!! 他に金色のヤツは居るだろうが、コイツらを狙えばいいものを……!」
「そういう考えのヤツだから狙われるんじゃないの? 多くのプレイヤーだってガラの悪い奴が居たらそっちを狙うでしょ。どう考えても自業自得よね。猿でも分かると思うけど?」
「てめぇ! 今すぐここでブチ殺してやるぞ!!」
「へえ、ならやってみれば? 同じチームのヤツをキルした場合はマイナス5万ポイントだけど、それでもいいならやってみなさいよ?」
「グッ!!」
「口だけのヤツってやーねー。五月蝿くて鬱陶しいし、周りの迷惑も考えない。あんた自分が都合の悪い状況だって理解してないの? ほら見てみなさいよ、周りを」
やっと周りに目を向けたけど、あからさまに嫌悪感を持って見られているのが分かったんだろう。今度は周りに当り散らし始めた。本当に迷惑なヤツだ。色んな人が居るとはいえ、鬱陶し過ぎるでしょ。
結局、五月蝿いヤツは光の扉で飛べるまで当たり散らしていた。本当に迷惑だなぁ。僕もさっさと光の扉で移動しよう。次はどんな地形だろうか?。
出てきた場所は町中だった。ただしヨーロッパ系統の町並みじゃなくて、江戸の町並みだ。しかも近くから声が聞こえる。
「「「「「「「「「「御用だ! 御用だ! 御用だ!」」」」」」」」」」
ゲッ!? 誰か追いかけられてるの? やたらに人が沢山居るんだけど、これはちょっとまずいね。とりあえずさっさと逃げよう。岡引とかならまだしも。火付け盗賊改め方とか出てきたらマズいし。
最悪は将軍様とか南町と北町の奉行とか、あるいは水戸の副将軍とか影の軍○とか仕事人とか出てきたりして。まあ、流石にそこまでは小イベントでは出てこないだろう。もしかしたら最凶ダンジョンには出てくるのかもしれないけど。
僕は江戸時代の町並みの中を走りつつ、他のプレイヤーを見つけたら首を斬り裂きながら逃走する。どう見ても辻斬りにしか見えないだろうが、基本的に手当たり次第に斬って問題は無い。何故なら金色のチームは数が少ないからだ。
人が少ないと休憩しつつ江戸時代の町並みを走っていると、お寺のような場所があったので滑り込む。やれやれ、少しは休憩出来るかと思ったけど、どうやらそう上手くはいかないらしい。
「………」
大きな本堂の中には落ち武者のような者が居て、部屋の隅に木箱が置いてあった。落ち武者はその箱を指差しているので、僕は小太刀を鞘に仕舞って木箱に近付く。落ち武者の方を見ながら箱を開けると、中には綺麗ではあるものの、金具が付いた槍が入っていた。
まさか管槍が入っていたとは思わず、慌てて手管と呼ばれる真鍮製の管を左手で持ち、右手で槍の柄を持つ。一応<BUSHIDO>で管槍も扱った事はある為に使えるけど、そこまで練習した事は無いんだよね。
日本独自の槍だと言われ、他国には似たような槍も存在しない為に珍しいんだけど、これ叩きつけが出来ないから微妙な物なんだ。刺突特化の槍であり、斬撃や打撃には使えない。その事を覚悟して使えば良い槍ではあるんだけど……。
「おぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
落ち武者の咆哮と共に、濃密な殺気が僕に叩きつけられる。生前はなかなかの武者だったようだね。これは楽しみだ。




