0565・聖結晶と最凶ダンジョン
「聖結晶の持つ力は、魔力の切断も含めて切る事に特化しておる。別の素材と組み合わせると魔力の切断という特性は大きく落ちるが、その代わりに耐久力は上げられるのだ。どちらにするかは使う者次第とはいえ、多くの者は耐久力を上げて優れた武器として使う」
「でも魔力切断の特性って捨て難いんじゃ……」
「それは当然であろう? 剣で振り払えば魔法が霧散するのだ。近接戦闘職からすれば非常に強力な武器となる。もちろん切断系の武器にしか使えんが、中には槍にした猛者もおった筈。なんでも穂先は10センチ程度しかなかったそうだぞ」
「それでも魔力を切断するという特性は十分に発揮された訳ですね。魔法使い殺しとも言える装備ですか……いや、そこまで強力じゃないのか。使う側にも技量が求められますね」
「うむ。コトブキの言う通り、使う側にも技量が求められる。戦闘を組み立てて使わなければならんからの。妾が使う場合は適当に礫にして使うがな」
「「「つぶて?」」」
「そうだ。魔力を切り裂くのだが、つまるところ魔法の構成を切り裂いていると言ってもよい。それはつまり、魔法から魔力に戻しているとも言えるのだ。そして触れさえすれば切り裂けるのだから、無理に剣の形に拘る必要は無い」
「でも切断するなら剣の形が一番良いと思うんですけど?」
「それは物理的に切る場合よ。魔法の構成を切る事だけに使うなら、別に剣の形をしておる必要はないのだ。武器としても魔力を切る事にも使おうとするなら剣の形が一番安定する。それは間違い無い」
「ああ、成る程。つまり戦闘中に武器として使いながら魔法まで対処しようとすると剣な訳だ。別の武器を持って魔法にだけ対処させるなら剣の必要は無い。本当に使い手次第だなぁ」
「武器と言うのは元来そういう物だけどね。それでも壊れやすいまま使うよりは、投擲物として使った方が都合が良いんだと思う。貴重な物みたいだから、大量に集められる人しか無理な方法なんだろうけど」
「それはあるわね。投げて魔法を潰せるのは良いけど、その後に回収しようと思ったら何処に行ったか分からないって事になりそう。さすがにその使い方はレアな素材では難しいわね。それでも切り札として持っておきたいところではあるけど」
「それこそ礫の形で持つのが一番であろう。結晶を小さく壊せば礫として使えるからの。いちいち錬金術師や石工師に頼む必要も無い」
「確かにそういう意味でも、適当な投げ物にしちまうのが良いのか。消耗品と割り切って使うのがいい……? いや、魔力切断の効果が無くなっても切れ味は鋭いんですよね?」
「うむ。武器の素材としても優秀なのだ、ただし切断系だけだがな。聖結晶は「聖」という字が付いているが、これは魔力の「魔」という字に対しての意味しか無い。魔を切り裂くから聖と名付けられたのだ。だからこそ浄化の力があったりなどはせん」
「そういう意味だったんですかー、聖なる力がある訳でも何でも無いんですね。納得はしますけど、何故そんな名前にしたんだろうとは思います」
「さあのう。古くからそういうからな、いちいち考える事も無い。昔は魔力を切断出来るなど、聖なる御業と思われていたのかもしれん。見つけた者が命名したのだから、その者の発想次第じゃろう」
「まあ、それはそうかもしれませんね」
聖結晶の事を教えてもらったけど、手に入るのは60階以降なんだよね。まだまだ無理だし、聞いても仕方がない範囲の事だ。そこまで行けてからだし、暗闇ダンジョンは少しの間お休みにするしかない。
1月は6日までログイン出来ないし、それまでに構造が変わる可能性もある。そうなるとまた1から行かなきゃいけないし、意味が無いからね。だから新年のイベントが終わってからかな?。
でも近くのダンジョンと運営ダンジョンも進まなきゃいけないし、そうなると暗闇ダンジョンは随分後って事になるなぁ。まあ、仕方ないとは思うけど。
昼食が終わった後は解散。僕はソファーの部屋からマイルームへと戻り、3人を戻したら部屋でログアウト。現実へと戻る。
リアルでも昼食を食べた僕は、雑事を片付けた後に再びログイン。イルにメッセージを送ったら、運営の最凶ダンジョンへと転移する。運営ダンジョンと同じく、ウィンドウから操作すれば飛べる場所だった。
何故かコロッセオみたいな場所の通路に転送されると、目の前にウィンドウが出た。分かりやすく言うと、ここで武器を選んでからコロッセオに入ると戦いが始まるらしい。僕は置いてあった武器から刀を取って会場へと進む。
ある程度歩いていくと遠くの方の地面に魔法陣が現れて輝き、覆面と腰蓑のゴブリンが現れた。これって……とあるダンジョンに出現するという、スタイリッシュ忍者みたいなゴブリンだっけ?。
僕が刀を持って構えると、目の前にウィンドウが出る。5カウントから減っていき、0になった瞬間から戦闘が始まった。ゴブリンは即座に動いてきたが、僕も刀を八双に構えて前へと歩く。
いつも通りの歩法で移動し、ゴブリンの間合いに入った瞬間始動。袈裟に振り下ろすものの、当然の如くゴブリンは読んでいて回避する。急激に止まった状態で攻撃をスカし、一気に接近しようと動き始めた。
しかしそれよりも速く、僕は腕を折り畳みながら引き戻しつつ前に出る。ゴブリンは短剣で攻撃しようとするも、更に僕が近付いてきたので窮屈そうに短剣を動かす。当然その程度ならば引き戻した刀で防げる。
僕は突き出された短剣に沿わせるように刀で流しつつ、右の肩から体当たりを敢行。相手のゴブリンは体が小さい為に後ろに倒れ、そこに左手一本で持った僕の刀が腹に刺さる。
僕はすぐさま両手持ちに移行して腹を横に裂き、臓物をブチ撒けさせたら距離をとって残心しつつ警戒。ゴブリンは苦しむように呻いた後で消えていった為、これで僕の勝利が確定した。
それにしてもスタイリッシュ忍者ゴブリンって強いなー。予想以上でちょっと驚く。勝てたから良いものの、こいつ予想よりは勝てる人が少なそう。能力が制限されているうえ、魔法とかスキルなんかも使えないからね。ここ。
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おめでとうございます。1戦目の敵に勝利した為、100ポイントを獲得しました。
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おっと、ウィンドウが出たけど100ポイント? ………成る程、最凶ダンジョンはポイント交換で景品がもらえるのか。しかしあのゴブリンを倒して100ポイントとか、強さとポイントが合ってない気がする。
それに100ポイント程度で交換できるアイテムなんてあるの? ………幸運のウサギ耳が700ポイントであるね。鼠の器用な尻尾もあるし、猫の髭? というのもある。少なくともウサギ耳と尻尾で分かる、ここはレアアイテムと交換できる場所だ。
他にもレアとは思えないアイテムもあれば、マイルームの建て替えや各種ランクアップもある。ここの景品は相当に特殊な物が並んでるのと、マイルームを充実させる物も合わせて景品になっているみたいだ。
このまま挑戦していったら何処までの物が貰えるようになるか見ものだね。次は何だろう? ……って思ったら次の敵に進みますかって出た。もちろんイエスだ。
再び魔法陣が向こうで輝き、出てきたのは杖を持ったローブの人? ……いやいや、これ<りゅ○おう>じゃん。しかも人型形態の方。なんでコイツが出てくるのさ!!。
って、あぶなっ!? いきなり炎が地面から吹き上がる魔法を撃ってきた。でもどう考えても<ベ○ラマ>だよね? いや、回避できるし、そこまで大袈裟な魔法じゃないから良いけどさ。
面白いけど、コイツも何処かのダンジョンで出てくるのかな?。




