0564・シャルロットについて
「大型アップデートの内容は出回ってるが、目玉はレベルキャップの解放とダンジョンの追加か。でも出来るのは今日と明日だけなんだよな。その後は6日までお預けだからログインできないし……どうする?」
「どうって言われても、どうするの? ダンジョンも新たな階層が出来てるみたいだし、そっちに行ってもいいけど……」
「2日じゃ何処まで攻略出来るか謎だし、あんまり意味が無い気がするのよねえ。出来ればもうちょっと実りある事をしたいわね。それにお正月になったら色々とする事があるし、6日までっていうのは丁度いいかも」
「7日は日曜日だし、8日は始業式だもんね。小イベントなら1日か2日で終わるだろうけど、本当に小さいイベントかは気になるところ」
「それなりのイベントなら結構時間が掛かるかな? 逆に時間が掛かるようにしてあるかもしれないね。社会人でもしやすいように」
「時間が掛かるタイプなら謎解きか? でもそれやったところで面白いとは思えないしな。とりあえずは6日待ちかな?」
「そうね。今日と明日は何かする事もなく、皆ダラダラと過ごすんじゃない? 早めにダッシュ決めても2日じゃ大して変わらないわよ」
「なら私はコトブキのマイルームで色々と確かめてくる」
「好きにしなさい。あんまり遊んでるんじゃないのと、やり過ぎないようにしなさいよ。アカウント凍結の可能性もあるんだからね」
「分かってる」
「カンカン」
途中でファルが手伝いに行ってたんだけど、どうやら昼食が出来たらしい。ユウヤの分もあるので一緒に食べる事になったのだが、師匠から質問攻撃を受けている。
「シャルロットはちゃんと仕事をしておるのか? あやつは優秀な腕を持つ鍛冶師だが、どうにも人付き合いが出来んヤツじゃからのう」
「一応、自分以外も弟子は居ますから、師匠も問題ないとは思います。人見知りですけど、慣れてくれば変わるんですよね。今のところは3人弟子が居ますし、やり取りなんかもしてますから問題は無い感じです」
「まあ、それなら良いが……。アレも、もうちょっと前へと出るようになればいいのじゃがな。どのみち始祖の種族である以上は、己を見下してくる者など居らんというのに」
「師匠は見下されてたんですか? ……今じゃ考えられませんけど」
「子供の頃はそうだったと聞く。元々シャルロットは不器用だったらしく、盾の使い方も武器の使い方も下手だったそうでな。それゆえに見下されておったのだと聞いた。実に下らんがな」
「そうですね。不器用かどうかと強くなれるかどうかは全く関係ありません。結局ものを言うのは努力ですからね。才能が無くても一定以上にはなれます。極みまでは到達しないだけで」
「そうだの。流石に極みまで到達するには才能が無ければ無理じゃ。しかし人並で良いならば努力でどうにでもなる。不器用かどうかなど関係が無い」
「そんな師匠が始祖の種族まで到達してるって事は、不器用でも何でも無いんじゃ……」
「その通り。そもそもシャルロットは不器用ではない。そう言われて、そう思い込まされておっただけだ。でなければ、そなたが言う通り始祖の種族まで上り詰めたりせんよ。だからシャルロットは故郷に帰らんのだ」
「ああ、成る程。それは帰る気を無くしますね。始祖の種族って凄いんでしょうから、普通はその種族の中で崇められたりするんでしょうし」
「それが無いって事は、シャルロットさんに帰る気も崇められる気も無いって事だもんね。今さら故郷も帰って来てくれとは言えないだろうし」
「いや? 巨人の里の連中は厚顔無恥にも帰ってきてくれと言っとる筈だ。大部分はそっとしておいてやれと思っておるらしいがな。一部の阿呆は始祖の種族まで上り詰めたなら、故郷に貢献するのが当たり前だとかホザいておるそうだ」
「なにそれ、あり得ない!! 何でそんな事が言えるの!?」
「あくまでも一部じゃがの。とはいえ上の方にそういうマヌケが多いのだ。シャルロットも結構歳をとっておるのでな、当時の者など殆ど残っておらん。だから軽く考えているのだ、心の問題をの」
「酷いですけど、なんだか田舎あるあるな気がする」
「「「「「………」」」」」 「コトブキ……」
「いや、コトブキの言っておる事は間違っておらん。巨人の里は誰でも行ける場所とはいえ、積極的に交流もせんところだ。里の中で凝り固まっておるのだよ、特に上の者ほどな。下の者は商売なり狩人なり傭兵なりで外に出ておるのだが、上の連中にはそれが無い」
「自分達が里の運営を担ってるんだし、余計に自分達の言う通りにすれば良いとでも思ってそうですね。何も理解せずに」
「うむ。もしシャルロットが本気で巨人の里に行けば、今の上の者など一掃されるというのにな? 始祖の種族の力を舐めすぎだ。他の国とて始祖の種族が居れば、始祖の者を代表として交渉するに決まっておる。唯の巨人族と交渉する阿呆なぞ居らんわ」
「それぐらい始祖の種族というのは大事なんですね」
「当たり前じゃ。始祖の種族になるとは、種族を代表すると同義なのだ。そうなるのも面倒なのでシャルロットは帰らん、という部分もあるのだがな。今まで上に居た連中が喚くのも分かる以上、そんな面倒な事を背負う訳が無い」
「うわぁ……師匠が帰っても損しかないなら、そりゃ帰らねーわ。誰でもそうだけど、師匠と同じ立場なら帰らないだろ。むしろ帰らない事こそが、最高の反撃になってるし」
「ついでに各国も大体のところは知っておるからな。余計にマヌケとしか見ておらんのだ。そもそもあれ程の腕前の鍛冶師を放っておくという事があるまい。とはいえ大量に発注したりすると逃げられるからの。だからこそサキュリアは放っておるのだ」
「それでも稀に凄いのを頼まれたりするみたいですけどね。前に<聖結晶>とかいう素材を使った剣が、サキュリアからオーダーされてましたよ。見た事がない素材でしたけど」
「ほう、暗闇ダンジョンで得たか、それとも実際に手に入れてきたのか知らんが頑張ったようじゃな。あれは暗闇ダンジョンでも60階以降でないと手に入らん。なかなかに大変なのだがな」
「剣って事は騎士か何かに渡すんでしょうかね?」
「じゃろうの。そもそも国として渡すのなら<聖結晶>のランクだと下賜する物に使われるのだ。ちょっとした褒美なら魔鉄などが一般的となる」
「僕達はそれを普通に使ってるんですよねえ。今は魔鉄装備が主流ですし」
「普通の者からすれば贅沢でも、お主ら稀人にとってはそうではあるまい。そもそも妾らとて段階を踏んで己の装備を良くしていったくらいであり、段階を飛び越えて<聖結晶>製の武器などあり得んわ」
「そんなに希少なんでしょうか?」
「希少……と言えば確かに希少だが、それより使う者を選ぶのだ。<聖結晶>製の武器はな」
「それは何故?」
「<聖結晶>は他の素材と混ぜられん。干渉されると<聖結晶>の効果が著しく落ちる。なので全ての力を発揮させようとすると、剣身や槍身を全て<聖結晶>にせねばならんのだ」
「つまり、全部結晶で出来てる剣?」
「その通りであり、つまり脆い。それなりに耐久力はあるが、魔鉄などと比べると圧倒的に脆くなる。シャルロットの所に持って来たという事は、見た目が聖結晶の剣という事だな。何故なら武器の形に加工出来るのは錬金術師か石工師だけだからのう」
「聖結晶の効果ってなんですか?」
「魔力の切断」
「「「「「「「えっ?」」」」」」」
「魔力の切断じゃ、魔力の切断」
なんか聞き逃せない言葉が出てきたね?。




