0552・魔女の会合 その2
「うんうん。実に見事だったな、<破滅>の弟子は! 師匠であるお前と何も変わってないし、問答無用で殺しに行くところなんてソックリだ。魔法も使わず直接自分の手で殺害しに行くところなんて見事なほどだぞ!」
「フラムよ、お主どう考えても褒めておらんであろう。そもそも魔女であろうが聖人であろうが、敵を殺せればそれで良いのだ。魔法に拘る必要など何処にもあるまい。敵を殺す以上に重要な事があるとでも言う気か?」
「おいおい怒るなよ。そもそも私は褒めてるんだからな、こう見えても。召喚は使わなかったが、やってる事は<破滅>と一緒。つまりは、あの強さで数の暴力をちゃんと使うって事だ。それなら十分に合格だろうさ」
「<深淵>の弟子も<破滅>の弟子が接近戦をするというのは読んでいたようだが、かなり甘かったな。殺す為なら何でも使ってくる、そういう相手への経験が足りぬのだろう。それに相手も悪かった」
「ええ、そうね。あの抜き打ちの速度と無駄の無さを見ても、見事としか言い様が無いわ。ホオズキの国の達人みたいな抜き打ちだったし、アレをあのレベルで出来る逸材なら勝つのは難しいわね」
「そう、流石にアレは駄目。ウチの子の心が折れかねない。よって戦いは無し。アレほどのが居るなら、今は戦わせるだけ無駄。発奮材料にもならない」
「アレはねえ、戦わせない方が良いでしょうよ。私は何となくで知ってたけど、あそこまでとは思わなかったわ。流石にトモエでも苦しそうね」
「いや、無理でしょ。あんた達は知らないから仕方ないでしょうけど、コトブキは私とキャスティの2人掛かりで訓練してたりするからね? 元悪魔と天使が組んで攻めても、攻め切れない事が多いのよ?」
「そもそも対戦成績でも私達の負け越しですからね? 悪魔と天使と殺し合いをして勝つんですから、仮に地力が同じなら近接戦闘では勝てませんよ。正直に言えば、聖人達よりヤバいんです」
「……流石にメチャクチャ過ぎんか? 我の弟子の首を落としたのは仕方ない、稀人じゃし復活はするからな。しかし悪魔と天使に勝ち越すというのは尋常ではないぞ。幾らレベルが落ちておるとはいえ、技術が落ちているという事はあるまい?」
「あったらどれだけ慰められてるか……。コトブキは冗談抜きで強いのよ。そのうえさっきは一切出してなかったけど、本来なら私達を圧倒するほどの殺気と殺意で切り込んでくるし」
「アレを稀人とはいえ、一個人が持つという事がどれ程に異常な事か……。そのうえ本人は理解して殺意を滾らせていますしね。適切な言葉で言えば、おそらく<冷静な狂戦士>というのが一番正しいと思います」
「<冷静な狂戦士>ね……。よくもまあ、そんなのが<破滅>の弟子になったものよ。割れ鍋に綴じ蓋というのがピッタリじゃない? それ以上の表現はしようがないでしょ」
「本人は<修羅>と言ってるけどね。どうにも私達のイメージする<修羅>とは異なる感じよ。何でも、殺意を己の体に溜めこんで圧縮するように練り上げ続けるんだって。それがコトブキの持つ殺意だそうよ?」
「………意味が分からんし、恐ろしいのじゃがの? 何という者を弟子にしたのだと言うべきか、それとも師がコレだから弟子もそうなったと言うべきか」
「違うわ! そもそも妾の弟子になる前からそうじゃ。さも妾が悪いかのように言うな! それにあの頭の病気の弟子が、喧嘩を売ってきたのが始まりじゃろうが。<深淵>よ、あの阿呆を何とかしておけ!」
「アレは放っておく方が良いのだ。もっと拗らせればより深みに嵌まっていく。我が事ある毎に連れて来ておるのは、後ろに退かせぬ為よ。後は嵌まっていくしかないし、己で暗示を掛けるように溺れていくじゃろう」
今の言葉を聞いて、何とも居た堪れない気持ちになってきた僕達。<深淵の魔女>である<ク・ディヴォラ>さんに気に入られているのかと思いきや、まさかの感情までコントロールされているとは……。
「魔女ってこええわ。あいつ確かに厨二病みたいな感じだったけど、更なる泥沼に誘導されてるとかシャレにもならねえ。<深淵の魔女>だけかもしれねえけどさ、マジでこええ」
「ああ、ちょっとシャレにならんな。それはともかく、先ほどの戦いは見事だった。魔法も使わずに勝利してたが、オレも同じ立場ならそうしただろう。あいつはどう考えても魔法特化という感じだったし、物理に弱そうだったからな」
「確かにそうだね。どっちも出来るのにわざわざ魔法に特化するって意味が分からないけど、厨二の拘りでもあったのかな? ボクとしてはどうでもいいから興味ないけどね」
「そういえばトリアーは今配信してるの? 一応言っておいてくれないと困るのだけれど」
「ゲッ!? マジかよ。無断配信とか絶対舐めてるだろ、お前。運営に言って配信停止にさせるぞ」
「えっ? いや、ちょっと待って、ゴメンだから運営は止めて。確かに配信してるけど、そこまで怒るとは思わなかったんだよ。それに本命はコトブキ君だしね」
「ああ、成る程ね。それなら分からなくもないかな? 私がメインじゃなきゃいいし」
「オレもメインで映されないならいいか」
「オレもメインじゃなきゃ構わん」
「何気に容赦が無いわねえ。ま、そういう私もメインで映されなきゃどうでもいいけど。ただ、あんまりしつこかったり面倒だと、サラッと運営に送るから注意した方がいいわよ。コトブキは容赦無いし」
「うん、大丈夫。生配信中だから駄目ならすぐに停止される筈。でもまだ停止されてないから、運営的にはセーフ? だと思う」
「魔女の会合を生配信っていうのは分からなくもないけど、特に何かがある訳じゃなさそうだし、撮れ高としては低いと思うけど?」
「コトブキ君が映ってるだけで、撮れ高は十分だから。キミ自身は知らないだろうけど、イベントでしか会えないレアキャラだからね? 自分の事をもうちょっと理解した方がいいよ」
「レアキャラって微妙な扱いのような気が……。それにそのレアキャラは首を落としただけなんですが?」
「いやいや。そのレアキャラはボム系魔法の潰し方を見せてたじゃないか。ボム系魔法って着弾型だから、離れてても威力が減衰しないんだよ。ウェーブ系は離れると威力が減衰するから、離れれば済むんだけどさ」
「インベントリに石でも入れておけば、ボム系魔法を潰すのは容易いんじゃないか? もちろん魔法に当てなきゃ意味は無いがな。オレの場合は【アースウォール】で確実に潰す方法で済むけど」
「ボクは風系だからキツいかなぁ? 投げやすい物を適当に投げても上手く当たらないだろうし、それに元々コントロールが悪いんだよ」
「ああ、ノーコンなのか。暴投で味方に当てそうだな」
「それよりも聞きたい事があるんだけど、さっき刀を使ってたわよね? あれっていったい何で出来てるの? 出来れば見せてもらえると助かる」
僕はトモエと目を合わせるけど、トモエは好きにしたらって感じだ。なのでテーブルの上に太刀を出し、僕はここに居る面々に説明する。
「強化浄玉ねえ……しかもアンデッド特効ともいえる浄化属性(大)かよ。ちょっとシャレにならねえなあ。挙句、魔鉄よりも上じゃねーか? コレ」
「ありがとう。生配信で新しい情報が配信出来るなんて、撮れ高としてはこれ以上ないんじゃないかな?」
「確かに強力だが、レベル80より上のアンデッドかー……。オレはパス。【浄化魔法】持ってないし、まともには戦えそうもない」
「私も仲間と一緒に行くのは場所的に無理かな。アンデッド特効武器は魅力だけど」
他の人達もそんな感じみたいだ。ま、屍人の森にプレイヤーが大挙して押し寄せても困るしね。今ぐらいが一番良い。




