0548・知ってるコト
「ちょっとシズ、ここで寝たら風邪ひくよ。部屋へ行って寝ないと駄目。って、聞いてる?」
「限界からの寝落ちだから、声を掛けてもどうにもならない。タマが連れて行くしかないし、起こすのは無理」
「五條さんはまだ平気そうだね。なら、とりあえずシズを部屋に連れて行くよ。ほら、自分の足で立って。ああ、もう、面倒臭いなぁ」
僕はシズに肩を貸す形で立ち上がらせ、何とか階段を上がってシズの部屋まで連れて行く。足下が覚束ない所為でフラフラしてるけど、時間を掛けて何とかベッドの上に放り出す。
「やれやれ、やっと終わった。面倒な事をしてくれるよ」
僕は適当に布団を上から被せると、五條さんを待たせていたので下の階へ下りる。すると五條さんは居なくなっていた。……あれ? 何処行ったんだ?。
見回してもワインの空の瓶が放ってあるだけで、何処にも見当たらない。流石にウチを出てはいないと思うんだけど……。
その後、ウロウロと捜索した結果、何故か僕の部屋のベッドで寝ている五條さん。心配して損したけど、何故にここに居るのかね?。
寝ているなら起こそうかと思ったんだけど、五條さんは起きていて話し掛けてきた。
「私は今日ここで寝る。特に問題ないからタマも一緒に寝るといい」
「流石にそれは駄目でしょ、恋人同士でもないんだからさ。そのまま寝てても良いけど、明日は早めに起こすよ」
「本当に寝ても良いし、そういう事をしても構わないと言ったらどうする?」
「えっ、今さらだとしか思わないけど? だってそもそも子供の頃に近付いてきて、いきなりキスしてきたじゃない。覚えてない? 初めて会った時の事」
「お、覚えてない……。そんな事したの?」
「したよ? 僕は記憶力が良いから覚えてる。それ以降も他の女の子が近付いて来たら、それより早く僕の横に来て手を握ったりしてたよ。学校に入ると、一緒に遊んでる時に近寄ってきて抱きついてきたりとか、匂いを嗅いできたりとかさ」
「………」
「あれ? もしかしてバレてないと思ってたの? 全部知ってるし覚えてるよ。それが好意からなのも全部知ってる。っていうか、本当にバレてないと思ってたのなら逆にビックリだよ」
「………」
「驚いて放心してるところ悪いんだけど、楓さんがワインを持って来たのが答えだよね」
「えっ? 兄さんがってどういう事?」
「楓さんには大分前から言われてるし、僕も答えてるんだよ。高校1年のクリスマスになっても五條さんの気持ちが変わらないなら、妹と付き合っても構わないって。表ではくっつけようとしてる感じだったけど、裏ではそういう話があったんだ」
「し、知らなかった……」
「ま、そういう事だから。そもそも嫌だったら最初から撥ね退けるし、嫌いだってハッキリ言うよ。言わないって事はそういう事だからねえ」
「………私の今までの悩みとか葛藤とか緊張とかドキドキは、なに?」
「うーん……ここに至るまでに必要なプロセス、かな? ま、そういう事だから、僕は下のソファーで寝るよ」
そう言いつつ僕はベッドで寝ている五條さん、いや椿に近寄って、寝る前にやるべき事をする。
「おやすみ、椿。……チュッ」
「………おやすみなさい」
僕はそう言って椿の唇にキスし、部屋を出て下に戻る。
それにしてもバレてないって思ってたんだねー。背中に背負ったらスンスン匂いを嗅いだり、他の子が居れば近寄ってきて威嚇するんだから、子供でも何となく分かるよ。
むしろそれが分からなかったら、鈍感主人公レベルだと思う。あんなの現実にはまず居ないけどね。
さて、まずはお風呂に入って、それから寝るか。
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2000年 12月24日 日曜日 AM6:30
いつも通りの時間に起きたけど、特にどうこうって事は無いね。規定路線と言うと言葉は悪いけど、周りの全員が分かっていた結果に納まっただけだとも言える。そもそも椿以外の全員は知ってた訳で、全ては椿待ちだっただけなんだよね。
とりあえず今日はゆっくりしてよう。両親は今日も帰ってこないしね。あれは小学4年生の頃だったかな? クリスマスにプレゼントを買ってもらえれば、パーティーは別にいいやってなったんだよ。いちいち後片付けも面倒臭いし。
その結果が今みたいな椿が来るクリスマスになったんだったっけ。正しくはクリスマス前だから、クリスマスそのものは何の関係も無い。椿は五條グループのパーティーに出席する必要があるからだけど、毎年大変だなって思うよ。本当。
顔も洗ったし歯磨きもしたし、洗濯や掃除を始めるかな? 7時前になってるから朝食作りを始める前に2人を起こ……うん? 上から音がする? どうも起きたみたいだけど、何をやってるんだろう。
まあ、そのうち下に来るだろうから、僕は朝食の準備でもしておこう。朝は食パンと目玉焼きとサラダでいいだろう。もしくは挟んでサンドイッチにしてもいいし。っと、音がしてきたって事は下りて来たかな?。
「おはよう、2人とも。7時だから、いつもよりは早いね。昨日あれだけワインを飲んでたからだろうけど」
「おはよう、タマ。それはともかく、何で椿があんたのベッドで寝てんのよ。何だか面白そうな予感がするから見に行ったら、予想通りに寝てるし!」
「おはよう、タマ。今日は朝から良い気分」
「どこがよ。物凄く眠そうで疲れてる顔をしてるじゃないの。どうせタマのベッドで眠れなかったんでしょうけど、それ以外に何かあった?」
「べ、別に何も無い。何かあったって事は無いし、絶対に気のせい」
「その必死な否定が何かあったって言ってるようなもんでしょうに。それに楓さんがワインでお祝いって感じで持たせてくれたんでしょうけど、私がガッツリ飲んでおいたんだから感謝してよ。おかげで邪魔者は寝てたんだし、その間に卒業できたでしょ?」
「する訳ないでしょ。もししてたら今日完全にバレるんだよ? だって椿はパーティーに出席しなきゃならないんだし。ね?」
「う、うん。だから無理……かな?」
「あー、確かにそれはそうか。歩き方がおかしかったら一発でバレるし、何があったか丸分かりだもんね。そんなことになったら、100パーセントの確率で桜さんが突撃してくるわよ。ウチに」
「姉さんはそういうの大好きだから、絶対に絡んでくる」
「でしょ? あの桜さんが妹の卒業に絡まない筈ないじゃない。嬉々として絡んでくるし、卒業してたら椿に会う前に勘付くわね。猛烈にそっち方面だけ勘が鋭い人だもの」
「楓さんは投資とか株とかに対してだけど、桜さんはなんなんだろうね? あの他人の恋愛センサーみたいな勘。その割には自分の恋愛には何一つ作用しないという……」
「不思議よねえ。椿の場合はゲームしてると妙な勘が働くのと、タマに好意を持つ女性が近付くと勘付くのよ。昔から変わらないけど、ニ○ータイプみたいな勘をしてるわよねえ、本当。それを許すタマも大概だけど」
「そう? 昔から可愛かったよ。だって、好きな人を必死に取られないようにしてただけだし。こう、好きな気持ちで暴走してるだけでしかないじゃん」
「//////」
「両手で顔を覆う気持ちは分からなくもないわね。好きな相手には子供の頃からバレバレだったとか、色々な意味でキツ過ぎるもの。私なら恥ずかし過ぎて悶死しそうになるわ」
「シズだってそれを周囲で見守ってた1人だけどね。というか知らなかったのは冗談でもなんでもなく、椿だけだし」
「//////」
「あれね。恋人になったのを実感したのと、好きな人が名前で呼んでくれるのがダブルで襲ってきてる最中なんでしょうけど……本当に悶死しそうね?」
僕もそうなんだと思うけど、シズが情け容赦なく抉るからじゃないかな? 戦闘では情け容赦ない僕でも、こういう事ではズバズバ言ったりしないよ?。




