0547・暗闇ダンジョン53階と早いクリスマス
僕達は暗闇ダンジョン50階を進んでいる。久しぶりに石とか若木とか出てきて放り投げたけど、もち米も出ているのでプラスではあるかな? そもそも50階を突破したいのであって、もち米が欲しいという訳じゃないけども。
前は手に入るまで不機嫌だったナツも、今回は当然そんな事は無い。そしてそういう時にはあっさりと手に入るんだよねえ。本当に物欲センサーさんは勤勉だ。
「連続で5回も、もち米が出たんだけど……。どう考えてもおかしいよね、コレ。前はあんなにも出なかったのに、今回はすぐにコレだよ? 絶対に嫌がらせをされてる!」
「嫌がらせじゃなくて、唯の物欲センサー。非常に分かりやすく物欲センサーが仕事をしている。必要な時には手に入らず、必要無い時にはガンガン手に入る。これぞ物欲センサーと言わんばかりの良い仕事」
「良くない!」
「でもイルが言ってる事は正しいけどね。今までだって似たような事はあったんだし、ここはガチャのダンジョンだよ? これから先も最大の敵は物欲センサーであってモンスターじゃないし」
「でもエンリエッタさんが100階だった事を考えると、ここから急激に難易度が上がっていく筈。60階からはレベル100とか表示されるかも」
「流石にそれは上がり過ぎじゃねえ? そんな上がり方されたら攻略できないだろ」
「でも100階からは最高の素材が僅かな確率とはいえ出るんでしょ? だったらそれぐらいの駆け上がり方はすると思うけど?」
「最高ランクの素材だよなぁ……確かに言われてみれば、これから先のランクを考えた場合あり得るのか? レベル100でも唯の通過点だろうし、無いとは言い切れないか」
「暗闇ヘルムが出てきたから、お喋りは無しで戦おうか。ブレスが厄介だから早めに始末しよう。そうしないと余計なダメージを喰うからね」
慎重に、しかし大胆にタコ殴りにし、さっさと暗闇ヘルムを始末した僕達は進む。さっきの戦闘では星兜が出なかったのでナツが落胆していた。しかし出るか出ないかは時の運だし、かつて大失敗をやらかしてるからなぁ。出ないような気がする。
皆もそう思ってるからか微妙な空気だ。それはともかくどんどんと倒して行こう。
途中で暗闇ソードから<必中の剣>がドロップしたが、手に入れたのはトモエだった。どうやら手に入れたは良いが誰に持たせるのか困っているらしい。と言ってもリナかマキくらいしか居ないだろうけどね。
僕達は準備を整えつつ、トモエが持たせ終わったら先へと進む。50階、51階、52階、そして53階まで進んだけど、今日はここで終わりだ。僕達は53階の魔法陣から脱出して師匠の家へと戻る。
そのまま夕食まで待ち、食事を終えたらソファーの部屋からマイルームへ。皆を召喚して現実へと戻る。
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少し早いけどケーキを受け取りに行こう。いつもやっているのは早いクリスマスだからね。今日はまだ23日だし。
夕食はいつもよりもちょっと手の込んだ物にするだけで、特にパーティー用の料理なんて作らない。そもそも3人だけだし、そんな豪華にする意味もないからねえ。
ケーキを受け取って食材を買って帰ったら、夕食作りを始める。シズも下りてきて手伝ってくれるみたいだが、それならケーキを受け取りに行ってほしかったよ。まあ、僕が受け取ってきたから下りてきたんだろうけど。
料理をしつつ待っていると、五條さんが来たようなのでシズが玄関に行った。相変わらず変わらない五條さんは、入ってきて早速キッチンの近くにあるテーブル席に着いた。ま、いつも通りだね。
「ゲームの中はともかく、現実では久しぶりだね。五條さん」
「うん、久しぶり。と言ってもゲーム内で会ってるから、別に久しぶりという気もしない。昔からゲーム内では常に顔を合わせてる」
「確かにね。色んなゲームをしてきたけど、必ず椿と友哉は居たものねえ。示し合わせて同じゲームをしてるんだから、当然だけど」
「学校では会うけど、登校する日が殆どないから会わない。昔は毎日登校するのが当たり前だったけど、いまや学校に行く事の方が少ないから」
「そうよねえ。必要最低限になったもんね、学校の教師って。いまやVRで自在だし、学校に来ないなら教師も楽だって言ってたし。部活動の監督ぐらいだって、忙しいのは」
「だと思う。学校に来ないから授業態度とか見る必要が無いし、そこは評価の対象にならない。そもそも授業態度が進路に関わる方がおかしいし、よほど酷くなければ問題無い筈」
「まあ、それはねえ。っと、料理が出来始めたから早速並べて行きましょうか」
流石に七面鳥の丸焼きとかそんなのは出来ないから、割と出来て当たり前の物しか作ってないけどね。今回はサラダとポトフっぽい物にパスタだ。手抜きだが一応トマト缶から作ったミートソースとなる。
ケーキは後で良いとして、まずは食べようか。
「相変わらずタマの料理は美味しいけど、シズは何もしない?」
「あんただって料理しないでしょ、椿。そもそもあの家でそんな事をしようとしたら、使用人に怒られるでしょうけどね」
「そんな事は無い。最近は色々と自分で作ってる。その方が練習になるし、出来ないのは恥ずかしい」
「なん、だと……!?」
「何でその驚き方なのかは知らないけど、別に悪い事じゃないんだからいいと思うけどね。それを聞いてもシズはする気が無さそうだけどさ」
「当たり前でしょ。やりたくなったらやればいいのよ。やりたくなった事なんて1度も無いけどね!」
「それでこそシズ。やはり何も変わっていない」
「それ絶対に褒めてないでしょう!」
そんな2人の掛け合いも毎年の事であり、何も変わらない。食事が終わった後にケーキを食べて後片付けをしていると、2人は何かを飲んでいるようだった。あの赤いのって、もしかして……。
「それって、多分だけどワインじゃないの?」
「そう、甘いヤツ。家を出る前に兄さんが持たせてくれた。これでタマを酔わせて襲ってしまえばいいって」
「楓さんって相変わらずだよね。何故か子供の頃から僕と五條さんをくっつけようとするの。何でかは知らないけど、謎な努力をする人だよ。それはそうと、お酒飲むのは構わないけど家の中だけにするようにね」
「心配しなくても、ウチじゃ飲めないし飲ませてもらえない。タマの家で御両親が居ないから出来る」
「これ本当にワインなの? 何だか甘い感じがするんだけど……」
「そういう銘柄だって兄さんが言ってた。それなりに美味しい感じがするけど、やっぱりアルコールの臭いは消えない。仕方ないけど、ちょっと残念」
「仕方ないんじゃない? 元々お酒なんだし、どうしたってアルコールの味はすると思うよ。逆に言えば、しないなら殆どアルコールは含まれてないってなるしね。1%でもお酒ではあるんだけどさ」
流石に僕はお酒を飲む気は無いので飲まなかったんだけど、案の定シズと五條さんは妙なテンションで喋っている。お酒が回ってハイになったかな? このまま放っておけば、何処かで寝るだろう。
そう思っていたら、突然電池が切れるように寝始めたシズ。勘弁してよと思ったが、揺すっても声を掛けても起きる気配が無い。本当に何をやっているのかな。勘弁してほしいんだけど?。
このままだと僕がシズを上まで運ぶ羽目になりかねないから、出来れば自分で起きて上がって欲しいんだけど……。あの電池の切れ方からすると無理っぽいなぁ。
何でお酒なんて飲むのやら。五條さんが持って来たのは楓さんが原因だし、飲んでみたかったんだろうけどさ。まったく、しょうがないな……。




