0528・投げ技
夕食を食べた後はソファーの部屋からマイルームに戻り、囲炉裏部屋でログアウト。リアルに戻って雑事を熟していると、シズが近付いてきて話し掛けてきた。
「さっき【3カウント】っていう称号の話をしてたけど、もしかしてボクシング用の称号もあると思う?」
「いや、それは知らないけど、どういう事?」
「実はね、天使の星にバイソンっていう牛の癖に二足歩行のモンスターが現れるらしいの。正確にはタンク・バイソンっていう名前らしいんだけど、どっからどう聞いてもマ○ク・○イソンよねえ。それを思い出して読んでたんだけど、誰もボクシングで戦ってないっぽいのよ」
「確かにやってないなら試してみてもいいと思うけど、もしかしたらそのタンク・バイソンもレアアイテムを落とすかも。夕食前に言ったけど、レアアイテムに付いてるスキルを使ったらプロレスが始まったんだよ。だからそっちも同じかもしれない」
「あー、成る程ね。確かにそうかもしれない。……なら付いてるスキルは何かしら? ボクシングって詳しくないのよねえ」
「多分だけどタンク・バイソンっていう名前からして、ピーカブースタイルじゃないかな? 両手をそれぞれのこめかみの横に持ってくる、回避からのカウンタースタイルでね。マイ○・タ○ソンも使ってたんだ」
「それはそうなんでしょうけど、防御系のモンスターと回避カウンタースタイルで殴り合いするの? ちょっと意味が分からないけど闘士でなければ勝てないでしょうね。そもそもレベルは65ぐらいあるらしいし」
「ブッチャーゾンビよりは低いけど、それでも高いねー。流石にそのレベルはちょっとシャレにならないかなぁ。正しくはそのレベルの相手に素手は………。でもセナのプロレスだって訳の分からない終わり方だったし、案外ボクシングの方もそうかもね」
「そう?」
「うん。HPなんて十分に残ってたのに、3カウントでスーッと消えていったんだよ。プロレスして満足したみたいにね。そのうえ引退式のようにゴングが鳴って終わったし」
「それって……」
「なんだかなー、って感じ」
微妙な気分になるよねえ、ああやって物悲しいゴングの音が響くとさ。とりあえず話ばっかりしてないで、さっさと雑事を終わらせよう。
お風呂や食事を終わらせたら、自室に戻ってログイン。今日はファルのレベル上げを取り止めて、セナに投げ技を教えていく。訓練場に行った僕は、カカシ先生を使って投げ技の指導をする。
首投げだったり、飛行機投げだったり、小内刈りだったり、パワーボムだったり、ブレーンバスターだったり。途中でエメラルド・フロウジョンを教えてから、タイガードライバーも教えておく。
アトミックドロップを教えたらカカシ相手に練習させ、ドラゴンスクリューも学ばせる。危険ではあるものの、ゲームだから気にせずデスバレーボムを教えたが、そもそもエメラルド・フロウジョンが危険だったなと思い気にしない事にした。
「とりあえず色々と教えたけど、状況によって使える投げ技は変わるからね。臨機応変に技を繰り出せばいい。それこそ投げると見せかけて、顔面への膝蹴りでも良いわけだしね」
「レンシュウシテ カカシをボコボコニスル!!」
「後は実際に投げて練習するしかないから、少しずつカカシの強さを上げていくといいよ」
「何をさせるのかと思って見てましたけど、中には確かに危険な技もありましたね。特に頭を叩き落とすタイプは思っている以上に危険ですよ? 少なくとも人に対して使うものではありません」
「それでも人型を想定しているとしか思えない動きというか、投げ方よねえ。その割には頭がカチ割られそうな投げ方があるし、不思議な感じはするけど……まあ、威力がありそうだから良いんじゃない?」
「それはまあ、そうですけどね。とはいえ気にしていても仕方がないですか。とりあえず私達も戦いましょう」
「疲れるけど、今以上の技術を身につけるには仕方ないか……」
再び殺気と殺意を全開にしての稽古を始める2人。天使と悪魔とは思えない鬼気迫る顔で殺し合いに加わってきた。とはいえ気迫程度で負けるほど弱くないんだけどさ。とりあえず相手をしますかね。
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2000年 12月6日 水曜日 AM8:24
今日も素材集め兼レベル上げの日だ。屍人の森の深層に行く事は変わりないが、昨日とは違い奥へと行かずに手前の方で連戦をしよう。今は瘴木を浄化するよりも、少しでも多く経験値が欲しい。
レベルを限界まで上げても種族レベルは20までだし、職業レベルは45までしか上がらない。合計60までしか上がらないって決まってるしね。そもそもこのゲームはランクアップで能力値が下がるから、そこまで強くなる訳じゃない。
代わりに補正が上がるらしく、その部分の恩恵が大きいというゲームだ。どうにもプレイヤースキルを磨く方向に運営は持って行こうとしてるように感じる。
それは悪い事じゃないと思うんだけど、果たしてどれだけの人が納得するのやら。
レベルを上げて物理で殴るが好きな人って一定数いるし、それが満たされないとやる気失くして辞める人も居るんだよね。でも、そんな簡単なゲームじゃやり甲斐が無くて辞める人も多いし、難しいところだと思う。
こんな事をグダグダ考えてないでさっさとログインしよう。囲炉裏部屋に着いたらファルに声を掛け、そこに居たラスティアとキャスティにも声を掛ける。どうやら朝から練習していたらしい。セナはずっとみたいだけど、眠らなくても良いとはいえ大丈夫かな?。
囲炉裏部屋からソファーの部屋へと飛び、ファルとラスティアとキャスティを呼び出したら、ファルに朝食の手伝いに行ってもらう。そしてソファーに座ると、早速とばかりにナツが聞いてきた。
「昨日、ユウヤ君が第3エリアに着いたらしいけど、あの金ピカのスケルトンに殺されかけたんだって。何でも剣の攻撃があんなに速いとは思ってなかったって言ってたよ」
「うーん……おかしいな。ユウヤなら簡単に避けられる程度の筈だけど、もしかしたら前の難易度のが残ってるのかな?」
「その可能性はあるんじゃない? 前の事が頭に残ってたら惰性で動く可能性もあるし、それなら齟齬があって避けられないかもね。とはいえ危なくても突破できたんだから良かったんじゃない? 1デスしてたら笑ってたけど」
「それはそうだけど、そろそろ本気で気を引き締めないとマズい。第3エリアからは気が抜けないし、時間が掛かっても少しずつ着実に敵を減らしていかないと危険。数が多い所は特に」
「そうですね。特に多い所ですし、少し進んでは倒し、少し進んでは倒しという形でしょうか? それほどに安全重視で挑んでも良いぐらいだとは思っています」
「実際そうした方が良いわよ。とにかく危険を少しでも減らさないと、突発的な事から雪崩のように死亡まで行くかもしれないし」
「そう。特に数が多いと囲まれたら厳しい。時間制限はあって無いようなもの。だから気にせず安全第一。ここで死んだら何の為に頑張ってきたか分からない」
「そうだね。せっかくノーデスで進んで来たのに、死んじゃったら意味無いもん。ここからは遅くなっても仕方ない……うん、仕方ない」
「カンカン」
おっと、ファルが来たので話はお終いだ。しかし第3エリアからは蝙蝠が多いのと、蜘蛛が地味に面倒臭いんだよね。それさえ無ければもう少し楽なんだけど、それが最高難易度だからねえ。
それとあの素早い吸血鬼。アレをどうやって突破するかをシミュレートしておかないと大変な事になる。戦法はカウンターで良いとしても、あれの動きに対応しなきゃけないから簡単じゃない。
その辺り、トモエ達はちょっと心配だ。イルに関しては妙な勘があるから、それでどうにか出来るとは思うし、ナツは意味不明な運で突破する可能性がある。でもトモエとアマロさんはなぁ……自力でどうにかするしかない。




