0522・夜の深層エリア
訓練場で他の皆を説得するのに苦労したけど、ソファーの部屋へと移動してファルを呼び出す。ちょうど師匠が居たので、深層でファルのレベル上げをする事を伝えてから家を出る。当たり前だが、家の外でマイルームへと戻るように言われた。
流石に帰ってきたら既に遅いからね、それは当たり前の事だ。それはともかく深層へと進んで行こう。
浅層や中層は既に澱み草を抜いているので、特に瘴気系の物に対処する必要は無い。問題は深層の瘴木と澱み草だ。そう簡単に対処出来ない厄介な代物だからね。ファルと2人だけでも十分に勝てる程度の強さしかない中層を越え、ようやく深層に着いた。
すぐにスケルトンフォーアームが現れたが、【セイントエリア】と【クリア】で弱め、その間に一気に攻める。ファルも頭を攻撃してカチ割り、僕は太刀で頭を兜割りだ。別にスキルでなくても自前で簡単に出来るので問題無い。実際、スケルトンフォーアームの頭蓋骨は割れたしね。
普通の兜よりも硬い気がするが、こちらも魔鉄だし出来るものなのだろう。ここまでのレベルになると魔鉄でも劣っているという事になりかねないと思っていたが、そうでもないようだ。それとも技術の差なのだろうか?。
その辺りを気にするのは止め、少しずつ進んではアンデッドと戦っていく。ブッチャーゾンビも現れたが、首を斬ったり腕を斬り落としたりすれば更に弱体化するので、そこまで苦戦したりはしなかった。
昼間の皆は適当に戦ってたのかな? それとも部位破壊を狙わなかっただけか……。
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召喚モンスター:ファルのレベルが上がりました
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まあどちらにしても倒しやすい方法は分かった。それは腕を壊す事だ。そうすれば大幅に戦力ダウンを起こす。
スケルトンフォーアームだって1つの腕が無くなると、それだけ防御が悪くなって攻めやすくなる。更に【セイントエリア】や【クリア】の効果が切れても、腕を失くしたという弱体化は維持される。ならば最速で腕を減らした方が楽なんだ。MPの消費も抑えられるし。
そうファルと話し、僕達はアンデッドが出る度に腕を落としていく。流石にブッチャーゾンビは鈍器を使っているファルには難しいので、僕が素早く腕を切り落として回っている。
「カタカタ」 「シャッ!」
ブッチャーゾンビの攻撃を受け止めた瞬間、僕がファルの後ろから出てもう片方の腕を切り落とす。ブッチャーゾンビは何の痛痒も受けていないかのように、片腕の牛刀のような物を振りかぶってくるが今度はファルに流された。
当然その隙を逃す僕ではない。今度はもう片方の腕も落とし、後はファルに任せる。僕は辺りを警戒しながらも少し休む。MPの消費はそれなりにあり、そこが相変わらず厳しい所である。明日はフィーゴを連れて来た方がいいね。
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召喚モンスター:ファルのレベルが上がりました
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やはり2人しか居ないからレベルアップが早い。流石はレベル80台の敵だと思う。このまま戦えるだけ戦って帰る事を決め、ファルが倒したのを見て再び慎重に進む。
スケルトンフォーアームが5体も出て来たが、既に対処の仕方は分かっているのでそこまで難しくない。このスケルトンフォーアーム、何と狭いと2体が並んだりはしないのだ。
4本の腕の所為で味方の武器と衝突したりもする為、無理に横に2体並ぶ事が無い。もちろんスペースがあれば並ぶのだが、それでも攻撃の再に隣のスケルトンフォーアームと武器がぶつかって攻撃できない事も多いんだ。
なので沢山出て来ても、こちらが少なければ1対1の状況が作れてしまう。僕はファルの後ろに隠れているので余計にそうなりやすい。ある意味で卑怯ではあると思うが、そもそも2人で来ているのだから勘弁してほしい。
「カタ!」 「ふん!!」
ファルが攻撃して左腕を破壊すると共に、僕は右腕を攻撃して破壊する。相手の攻撃はファルの盾で止められている為、余裕を持って腕を潰せる。皆が居たら敵もそれだけバラけるが、2人なのが功を奏しているんだ。それも予想以上に。
そんな状態なので、MPはともかく僕とファルの調子は良い。だが、そろそろ戻らないとマズいので撤退だ。ファルも【浄化魔法】が無ければ戦うのが難しい事は分かっている。なので迅速に撤退していく。
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召喚モンスター:ファルのレベルが上がりました
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それでもファルのレベルが3つも上がったのだから十分だろう。さっさと帰ろう。
出てきてほしくない時に限って出てくる……という事も無く、僕達は無事に師匠の家にまで辿り着いた。僕は首都に飛ばされないよう、なるべく師匠の家に近い所でマイルームへ。そしてファルを戻したら囲炉裏部屋でログアウト。本日はここまで。
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2000年 12月5日 火曜日 AM8:21
今日から皆はやり直しの開始だ。何といってもクリア時のポイントが悪すぎて、あのままクリアで終わらせる事は出来ない。仮に僕がああだったとしても、確実にやり直すだろう。そうでなければ後が大変だ。
新しく追加されるであろう運営マーケットのラインナップでどれだけ散財するか分からないうえ、ゲーム内のお金であるデルで買うとなると更に値段が上がってしまう。どう考えてもポイントでなるべく多く買った方がいい。
ログインした僕は倉庫の中身を売りに出して売却金を回収、ラスティアとキャスティとファルに声を掛けてから移動。師匠の家の玄関前に出る。
トモエに連絡して鍵を開けてもらい、ソファーの部屋へと到着した僕は呆れられた。
「おはよう、コトブキ。何故外から?」
「おはよう、イル。単に昨日の夜、屍人の森の深層でファルのレベル上げをしてたからだよ」
僕は3人を召喚しながら会話をし、ファルに朝食の手伝いを頼む。ファルはすぐに台所の方へと移動し、僕は皆に話を聞く。
「今日からやり直しみたいだけど、どう? 何となくルートとかやるべき事は頭に入ってると思うけど、上手く出来そうかは別だからね」
「最初さえ上手くいったら、後は問題無いんじゃない? 最悪は戻ってきて動画の見直しね。死ななきゃいいのよ、死ななきゃ」
「実際そうですからね。死ななければ色々と難しくなりますけど、それでも私達の目的はそれです。出来得る限り頑張って死なないようにするしかありません」
「とにかく慎重に立ち回って、なるべく傷を受けないようにするしかないね。それでも1度はクリア出来たんだし、2度目はもっと楽に行ける筈」
「気合いが入ってるのは良い事だけど、空回りはしないようにね。平常心で居る方が上手くいく事は多いから」
「そうね。まずは最初を上手く突破しなきゃいけないし、確実に捌く為にも一気に前に出ないと……」
「カンカン」
ファルが来たので食堂に移動し、椅子に座って朝食を食べる。師匠に聞く事があったので聞くと、意外な答えが返ってきた。
「木晶は別の素材の力を強化する為に使うのだ。一度しか混ぜられんから注意せよ。2つも3つも混ぜると元の素材もろとも失われる。それと、強化する物によって必要量も変わるのだが、一番相性が良いのは実は浄化系となる」
「元々瘴木を浄化したものだから?」
「そうだ。そういう理由もあり、瘴木を浄化した物である木晶は意外に需要がある。自分で使っても良いが、浄化系の素材を持っていなければ意味は無い。それまでは置いておくのも手だの」
浄化系を強化、ねえ……。今は確かに該当する素材が無いな。仕方ない、諦めるか。




