0515・運営さん達35
「もう第3エリアか、流石に早いな。ここからは時間が掛かると思うが、そもそも彼は最高難易度で駆け抜けている訳だし……。案外と、このまま最後まで行ってしまうかもな。明らかに想定外だが」
「そこはもう仕方がないのでは? ここからはセントラルにボスを任せるしかありませんね。流石にここから先は最高難易度のボスとして作ってはいませんから」
「そうだね。セントラル、すまんが頼む」
『分かりました。それにしてもプレイヤー<コトブキ>の技術は明らかにおかしいです。今までレトロワールドにて計ってきたのが、全て嘘だったのではと考える程に違うのですから』
「明らかに彼は今まで手を抜いていたのだろうな。いや、ゲームとして楽しむレベルだったという事だろう。本気でやってきた訳ではなく、あくまでもゲームとして楽しむ範囲とでも言えば伝わるか?」
「何となくは分かります。<BUSHIDO>をプレイする時ほど本気じゃなかったって事でしょ? 確かにあのゲームに比べればヌルいですからね」
「あれと同じ難易度にしたら、誰も攻略できないでしょうが。アレを攻略出来る時点でそもそも異常者なのよ。それを生で見た事なんてないけど、明らかに別次元の強さでしょうしね」
「それはそうだ。そもそもアレを好む者自体がちょっとアレな人物だからな。製作者の1人である私が言うべき事ではないが……」
「おっと女性の所まで来ましたね。……これはどう考えればいいんでしょう? 急に笑顔だと逆に警戒してる気がするんですけど」
「おそらくかなり警戒しているな。少なくとも彼は笑顔で人に応対する事は多くない。むしろ警戒している相手にこそ笑顔などを向けたりしている。その事からも鼻を伸ばしているなどという事はない。そもそもこんな所で女性と会う事自体がおかしいからな。普通は警戒する」
「ですよねー。ダンジョンの途中で女性が居て、それで助けなきゃって普通はなりませんよ。どう考えても警戒するのが先です。普通なら牢屋に監禁なんてされず、喰われて死んでなきゃおかしいですからね」
「しかも理性的な魔物も居ないしね。そうなると益々生きて捕まっているままなのが不自然に感じる訳で、そこまで考えが及ぶなら警戒一択なんですよ。やるべき事は」
「そうそう。作ったものの王道パターンだから組み込んだだけで、この女性自体はどっちでも良かったんですよね。当初の案では倒れたままの予定でしたし」
「牢屋を開けて倒れている女性を調べたら急に襲われるって形だったんだけど、それじゃ<バイ○ハザード>みたいになって主旨から反しちゃうからねえ。あくまでも脱出イベントであって、ゾンビパニックじゃないし」
「とはいえラスボスはアレで、これから吸血鬼戦ですけどね。吸血鬼でパニックって<彼岸○>でしょうか?」
「あれは吸血鬼パニックじゃなくて、吸血鬼が出てくるギャグ漫画だろう? ホラーテイストは途中から無かったじゃないか。あの漫画は兄貴との決着で終了だよ。それ以降は唯の蛇足だ」
「まあ、分かります。ホラー漫画なのに筋が通ってなくて穴だらけ、気付いたらそれが揶揄され、挙句の果てにはそれ込みで楽しむ漫画に成り果ててますからね。もはやホラーの原型が無いんですよ」
「そんな話をしている間に、弟君は吸血鬼を倒し終わりました。後はレバーですが、ここの隠しには流石に気付きませんでしたね。後で来るかは微妙なところでしょうか?」
「じゃないの? 何となくキッチリ調べそうな気もするけどね。それよりレイスの所に戻って……さて、彼は間に合うかな? コイツかなりシビアなんだよ。1度目で素早く使えるかな?」
「知ってても難しいですからね。さて、弟君は間に合、へっ!?」
「おい、冗談だろう? あんな1度目は想定してないぞ。何で初回から前に飛ぶ! それが一番時間を稼げるんだが、なぜ初回から正解の行動をするんだ!?」
「弟君だから……ですかね。あっ、何か魔法の言葉みたい」
…
……
………
「サキュバス戦も終わったが、それにしてもメチャクチャだったな。まさか私も彼がここまでだとは思わなかったぞ。流石に異常に過ぎる。私が知っている現代の剣豪と同じかそれ以上だ。あの年でコレはどう考えてもおかしい」
「おかしいを通り越して意味が分かりませんけどね。いったい彼は何なのか、本当に人なのかという疑問すら湧いてきますよ。むしろ高性能なAIがゲームをしてるんじゃないかと……。もちろんそんな事は無いんですけどね」
「バイタルサインが正常に出ている以上、彼が生きている人間なのは確定だ。とはいえ、言いたい事はよく分かる。私も驚きでしかないからな」
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2000年 11月30日 木曜日
「解明のネックレスを手に入れたみたいだね。これで色々な隠しアイテムを手に入れるだろうけど、早く動かないと10日以内クリアが無くなっちゃうよ?」
「弟君は知らないんだから、言っても仕方ないでしょ。そもそも全てをもう一度探し直すなら結構な時間が掛かるしね」
…
……
………
「イベントを早めに終えて訓練場で何かするみたいね。っていうか、悪魔と天使と手合わせ? 変な事を始めるみたいだけど……」
「訓練場では武器が壊れる事は無いから、木刀でも良いっちゃ良いんだけどさ。何だか嫌な予感がするなぁ。見てるだけのこっちも圧迫感を感じるし」
「てんぺいさん……? ………!!! もしかして天兵巌氏の事か!? まてまてまてまて。だとしたら天兵氏が全てを伝えた子供というのは、彼の事になってしまうぞ!?」
「ど、どうしたんですか、急に!?」
「天兵巌氏というのは天正流剣術の前当主であり、その界隈では知らない者など居ない現代の剣豪であり修羅だった方だ。私達が<BUSHIDO>を作るのに、最も強く協力をお願いした方だと言えば分かるか?」
「「「「「!!!」」」」」
「まさか彼が天兵氏の非公式ではあるものの後継者だとは知らなかった」
「非公式?」
「とある少年こそが天兵巌氏の技の全てを継ぐ事が出来たらしい。私はそれを天兵氏の葬儀の際に知った。その唯一無二の少年は、弟子の嫉妬が酷くなってから天兵氏の所には来なくなったらしい。とはいえ御本人は満足していたそうだがな。既に全て伝え終わっておる。そう言っていたそうだ」
「その少年が弟君だと?」
「間違い無い。他のお弟子さんはもっと年上なのだ。天兵氏の最後の弟子こそが全てを継げた者であり、年端もいかない少年だったのだよ」
「「「「「………」」」」」
「サキュバス戦のような殺気と殺意を出す筈だ。彼は正しく天兵氏と同じ修羅。で、ある以上は本質がアレなのは当たり前だ。……しかし、困ったぞ」
「何がですか?」
「このゲームは彼にとって物足りなくなる。場合によっては隠しダンジョン計画を早めた方が良いかもしれん」
「えっ? あの殺意しかないダンジョンをですか?」
「殺意を滾らせる彼にはお似合いだろう? ついでに中での戦闘を動画として出してしまえばいい。同じ事をやってみろと言えば、下らない嫉妬連中も黙るだろう」
「同じ事は絶対に無理ですからねえ。アレと同じ事をしろって言っても……」
「天使と悪魔の2人掛かりに勝ってるし……」
「あんなメチャクチャなのが現実に存在するんだねー。その事が驚きだよ」
「存在するのだから仕方ない。<事実は小説より奇なり>とはよく言ったものだ」
「奇想天外すぎる気がしますけどね……」




