0494・死闘を終えて
ラスティアとキャスティ。【色欲】の悪魔と【純潔】の天使が手を組んでも勝てなかったが、次の戦いではかろうじて勝利をもぎ取った。本当にギリギリであったが勝ちは勝ちである。問題は2人掛かりという事だ。
それもあって素直に喜べない2人は、微妙な表情をしながら現在の戦いを見ている。今はファルとセナが2人掛かりで戦っているが、2人は手も足も出ない。軽く捌かれており、そもそもコトブキは殺意を出してはいないのだ。
その状態でも容易く捌かれており、反撃までされている。ボコボコにされているものの、それでも足掻くファルとセナ。結局2人の負けで終わる。ファルはともかくセナはまたもや負けた事に腹を立てているが、その事自体は悪い事ではない。
―――――――――――――――
召喚モンスター:ファルの【剣術・下級】に【兜割り】が追加されました
召喚モンスター:ファルの【盾術・下級】に【シールドバッシュ】が追加されました
―――――――――――――――
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
おっと、ファルのスキルにも追加があったみたいだね。なんだかんだとファルも訓練なんかはしてるみたいだし、十分な腕前にはなってたんだろうね。レベルが上がってないからアレだけど、たまには誰かと交代で連れて行こうかな?。
そんな事を考えていたらドースとシグマが来たので2体とも戦う。ドースは突進してくるから分かりやすいんだけど、最近かわすと後ろで止まって蹴り上げてくるんだよね。厭らしい攻撃だと思うけど、突っ込んで来る速度が遅いから分かりやすくもあるんだ。
そんな指摘をしつつ戦い、終わったら再びラスティアとキャスティと戦う。2人との戦いはどうしても殺意を持って戦う必要があるけど、それはそれで僕の修練にもなるから悪くないね。2人には申し訳ないけど。
そんな戦いを繰り返すも、夕方になったのでソファーの部屋へ。既に女性陣が居たけど、まずはラスティアとキャスティとファルを呼び出す。夕食の手伝いをファルにお願いし、僕もソファーへと座る。
「あー、疲れたー。仕方がないけど、コトブキの相手は大変よ。ちょっと本気で何とかしなきゃいけないわね」
「そうですね。とはいえ無事に元に戻ったというか、殺気と殺意を撒き散らしたので大分落ち着いたでしょう? 私達にとっては死闘に次ぐ死闘でしたけど、まさか2対1で負け越すとは思いませんでした」
「あー……御苦労様。とりあえずいつもに戻ったみたいだからいいけど、本当に何があったのかしら? アレと戦った後からおかしくなってるから、それがキッカケで間違いないとは思うけど……」
「治ってるんだから、もう良いんじゃない? 原因だって本人も分からないんだし、流石にどうにもならないと思う。考えたって仕方ないし、変な感じは無くなってるよ。だから、気にしない気にしない」
「そう。今さら原因が分かっても、それが解決に繋がるか分からない。なら解決する事の方が重要。原因と解決法に全く関係が無いという事はある。気にしなくていい」
「それにしても、天使と悪魔が死闘って凄いですね。私には何故そうなるのかが分かりませんが」
「姉である私だって分かんないわよ」
「私も知らなーい」
「主に天兵お爺さんの所為」
「「「「「「「えっ!?」」」」」」」
「イルは天兵さんの事を知ってたの!? 僕もお祖父ちゃんに紹介されるまで知らなかったのに」
「知ってる。天兵氏と五條家にはちょっとした繋がりがある。そして会った時にコトブキの事を褒めてた。「あんな小さくとも修羅は修羅。もっと早く生まれてきてくれていたら、良い殺し合いが出来たろうに」。そう言ってた」
「「「「「「………」」」」」」
「さすが天兵さん。本当に殺し合いにしか興味が無い人だったから、むしろその発言こそが普通なんだよね。面倒な奴等には言わないとか言ってたけど、お弟子さん達には普通に言ってたしさ」
「むしろ何故トモエが知らないのか不思議。私でさえ知っているし、見に行った事がある」
「いや、何故って言われても……ねえ。まさかお祖父ちゃんの知り合いにそんな人が居て、コトブキに教えてたなんて知らないし」
「殺し合いにしか興味が無いって、危ない人にしか思えないけど……?」
「天兵氏は天正流剣術の前当主であり、その界隈では有名人。活殺剣法の流派だって言われてるけど、知ってる人は知っている。本当は手加減無用の殺し合いの流派。だからこそ、人を活かす事が出来るっていう考え」
「いや、殺し合いの剣術で人を活かすっておかしくないですか?」
「おかしくない。天兵氏いわく、人は様々な才能を持って生まれてくる。その中には人殺しの才能しか無い者もいる。そういう人は普通の世の中だと才能の無い人間と見做されてしまう。なぜなら人殺しの才能しかないから」
「それはそうね」
「だからその才能を開花させてコントロールさせる。それが天正流剣術。別に剣に限ってないそうだけど、戦いの才能しかない者も世の中には居る。その者達が世の中からはみ出さないようにする為に活かす」
「そういう事ね。だから殺し合いが好きな癖に活殺剣法とか言い出す訳かー。まあ、言いたい事は分からなくもない。格闘家だってボクサーだって、もしかしたら殺し合いの才能で戦ってるのかもしれないしね」
「それもどうなんだろうと思うけど、そういう才能を持つ人の方がやっぱり強いんだろうね」
「カンカン」
ファルが来たので食堂へ行くと、既に師匠が居てお酒を飲んでいた。僕らも椅子に座って食事を始めると、師匠が僕をジッと見てくる。
「ふむ。随分と落ち着いたようじゃの。抜き身の刃は鞘に納まったか。良い事じゃが、どうだったのだ?」
「負けよ負け、まさかの負け越し。しかもこっちはキャスティと2人掛かりでよ? 流石にシャレになってないし、2人掛かりでコレはちょっと凹む」
「まあ、仕方がないと思えなくもないですけどね。殺気と殺意に関しては、【憤怒】よりも上です。唯の怒りではなく明確な殺意だからでしょうけど、物理的な圧迫を感じる程です。それと、やはり今までは抑えていただけでした」
「やはりか……。何となくそんな感じはしておったが、【憤怒】よりも上とは厄介な。とはいえ、怒りや怨みではなく、純粋な殺意であるところがコトブキらしいがの」
「まあねえ。スキルを使えば勝てるだろうけど、技量の勝負になるとコレなのよ。本気で殺し合いに特化した強さって感じかしら。普段も強いんだけど、殺し合いとなると変わり過ぎる」
「ここまで異常なのは初めて見ますが、同時に今まで触り程度にしか気づかせない程に制御できていたのが驚きです」
「そうね。初めての<神の遊戯>の時だって、暴れていただけでそこまでの殺意を撒き散らしていた訳じゃないわ。あれは周囲を威圧していただけで、明確な殺意では無かったし」
「確かにの。あの時はキッチリとコントロール出来ておったのじゃろう。何かがあって箍が外れたのであろうが、元に戻ったのならば問題ない。誰だって腹に一物ぐらいは抱えておるものよ」
「それはそうでしょうね。あんた達だって抱えているんだから、他人の事は言えないわよ?」
「方向性はバラバラみたいですけど、他人から見たらおかしな部分なんて抱えているものです。他人のそれを否定すると、自分に跳ね返ってきますからね。気をつけましょう」
「「「「はーい」」」」
……皆も抱えているものがあるのか。もちろん僕ほどおかしくはないんだろうけど、とりあえずスルーしておこう。聞いても誰も得をしないしね。




