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0493・死闘




 まずはラスティアからという事で正眼に構える。ラスティアも短剣を構えているが、アレはさっき急遽作った物だ。もともとファルがする【木工】の材料として木は買ってある。それを使って作ったんだ。


 流石に木製の短剣なんて需要が無いから、ファルもそんな物は作ってなかった。なので急遽作るしかなかったんだよ。


 それはともかくとして、構えた僕達は少しずつ相手ににじり寄っていく。この戦いは何故か魔法もスキルも無しと決まり、肉体の技術のみで戦う事になった。それが一番良いようだ。



 「ハッ!」


 「フッ!」



 僕が振りかぶって上段から振り下ろすと、ラスティアは短剣で滑らせてくる。さすがにそれくらいは当然だろうし、そもそも僕だって予想していた。だからこそ流されて態勢が崩れる前に左へ飛ぶ。


 流されながら飛ぶとは思ってなかったのだろう。普通は反射で逆側に力を入れ、体を止めようとする筈だからだ。こういう細かい事も1つ1つ練習したからこそ身についている。


 僕はそもそもVRだけじゃなくリアルでも色々と練習していた。ちなみに本格的な練習相手になってくれたのは祖父の家の近所の人だ。剣豪かと言わんばかりの人で、お年寄りだったけどシャレにならない強さをしていた。


 殺気と殺意が漏れていた際に相談したのもその人だ。最後まで師匠とか先生と呼べなかった人なんだけど、その人に僕は褒められていた。周りは怖がっていたけど、その人だけは褒めてくれたんだよね。


 その時に言われたんだよ。「この歳で殺意をたぎらせるとは、修羅として見込みがある」って。今思うと子供に言う事じゃないと思うんだけど、それでも楽しそうに笑ってたっけ。その後は大変だったなあ。


 僕の記憶力が非常に高く、人の真似が得意じゃなきゃ死んでたかもしれない。あのお爺さん……天兵さんって言うんだけど、敵が強いと喜ぶタイプだったから本当に大変だったんだ。


 結局技とか何も教えてもらえなかったけど、最後に「全て伝えられたのは、お前だけだ」と言っていたから、僕が真似ていたのは間違ってなかったんだろうね。というか、その事でお弟子さん達に嫉妬を向けられて困ったんだよ。


 免許皆伝とかそんな物を貰えた訳じゃないけど、その嫉妬が嫌で天兵さんの所には行かなくなった。まあ、その半年後に亡くなって、お葬式には行ったんだ。それで天兵さんとの思い出は終わり。



 「上の空で戦うなんて、随分と余裕ねえ!!」


 「そうじゃないって言いたいところだけど、確かにそうかも。僕に色々と教えてくれた人の事を思い出してたんだよ。天兵さんっていうお爺さんなんだけどね」


 「その! 爺が! どうした、の!!」


 「僕に戦い方とか殺し方とか、色々な事を教えてくれた人だよ。僕自身に何か指導をしてくれた訳じゃないんだけどね、僕は真似て取り込んでいった訳だ。そして自分で殺意を抑えこむ事が出来るようになった」


 「へえ! なら、恩人かしら?」


 「いいや、僕と同じ修羅だった人だね。だから斬り合いくらいしかしてないよ」



 さて、発散すれば良いらしいし、ここは訓練場だから死んでも問題ない。だから……本気で行くよ?。



 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 修羅だった。そうコトブキが呟いた後、圧倒的なまでに殺意が膨れ上がった。それは物理的な重圧かと思うほどに酷く禍々しいものであり、【色欲】の悪魔であったラスティアでさえ見た事が無い程のものだ。


 圧力を発散し、周囲を威圧しながら戦う者は知っている。それは<狂戦士>と呼ばれるものだ。ベルセルクやバーサーカーと呼ばれる者。しかし目の前のコトブキはそれに当てはまらない。


 なぜならコトブキの殺意は圧縮された殺意だからだ。あまりに濃密であるその殺気と殺意は、自らの内側に溜めこみ続けて練り上げ続けたモノである。それゆえに異常な程に濃密であり、迂闊に動けない。


 コトブキは笑いながらも刀を構え、一気に接近してくる。全く無駄の無い歩法であり滑るように移動しながら、そのくせ上半身に乱れは一切無い。上半身と下半身が別々に動いているのではと錯覚するような動きであった。



 「ラスティア、私も参戦します! まさかコトブキの抱えているものが、ここまでとは思いもしませんでした。常人ではあり得ない事ですよ、コレは!!」


 「今さらそんな事を言っても仕方ないでしょうが! というより、どうやったらこんなモノを持つヤツを創り出せるのよ。そっちの方が異常でしょう!」



 コトブキの下段からの切り上げをキャスティが防ぎ、その隙にラスティアが攻める。しかしながらギリギリで見切っているコトブキは流れるように左上からの袈裟切りを放ってきた。



 「ぐう! 全く流れが止まりませんね。どれだけ乱戦の戦い方を学んできてるんですか、貴方は! 止まれば死ぬのはそうですが、それを2人相手にしますかね!」


 「何言っても無駄よ。さっさと動く! こっちも止まったら死ぬわよ!!」


 「言われなくても分かってます!!」



 コトブキの突きを盾で逸らすものの、そのままの勢いで体当たりをしてくる。それも迎え撃って止めた瞬間ラスティアが襲いかかる。しかし今回も同じくギリギリでかわされた挙句、踵で太腿を蹴られた。


 まるで棍のように飛んでくる踵で、押し込むように蹴られたラスティアは、痛みに呻いて距離をとる。コトブキは足癖が悪いというより、全て使って殺しに来ている。それは2人も分かっているので文句は無い。


 3人がやっているのは死闘であり、1対2でありながら、2が詰めきれない死闘である。それがどれ程にとんでもないかは、見ているセナ達にも分かっていた。それとコトブキの殺意が凄まじいというのも分かっている。


 だからこそセナ、ドース、シグマはコトブキの動きを観察する。ドースは難しいが、セナとシグマは取り入れられる筈なのだ。あの修羅の技術を。



 「シャッ! ……!! カァァァッ!!!」


 「ふん!! ……ハッ! ぐぅぅ……!」


 「ナイス、キャスティ! ハァァァァッ!!」



 3人とも殺気と殺意を全開にして殺し合いを行っている。荒れ狂う暴風のようでありながら、同時に予定調和のようでもある。そんな戦いを繰り返す事、大凡おおよそ20分ほど。遂に決着の時が訪れた。



 「……ぐぅ! クッ! 今です!!」



 コトブキの袈裟切りを盾で受け止めたまま、キャスティは右手の剣でコトブキを突く。それは当然回避されるが、その回避先にはラスティアが攻撃をしかけていた。既にキャスティの攻撃への回避動作をとっているコトブキでは避けようがない。


 この攻撃は確実に受けてしまい、これで決着かと思われた。回避するスペースも最早ない。


 にも関わらずコトブキは膝を折ったのだ。正しくは膝を曲げて倒れこむようにして回避する。必殺の攻撃が回避された事により動揺するラスティアとキャスティ。


 そこから盾を構えたままのキャスティに水面蹴りを喰らわせるコトブキ。キャスティは足に攻撃を受け転倒してしまう。その直後、コトブキが持つ木刀が閃いた。


 一瞬後にはラスティアの首に入っており、本来の戦場では首を刎ねられていたのが分かる。



 「………あーあー。本気でやったのに2対1で負けるとかあるー? 冗談でしょ、本当」


 「あー……負けてしまいましたか。ラスティアが負けた時点で止められませんね。まさかここまでの差があるとは思いませんでしたよ。冗談でも何でもなく、ちょっと本腰を入れて練習しないと駄目ですね」


 「スキルとか魔法に寄り過ぎてた? でも私達って、十分な技術もあるから悪魔であり天使なのよね?」


 「その筈なんですが……」



 目の前に居る、殺意が治まったというか収まったコトブキを見て、呆れた視線しか向けられない2人。それを受けても特に気にしていないコトブキ。それとは別にしっかりと先ほどの戦いを見ていた3体。


 少なくとも、全員にとって有意義な時間ではあったろう。おそらく。


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