0047・第一回公式イベント03
元気に走って行くウルフマンのくまごろう氏を見送った僕達は、ラスティアを連れてゆっくりと進軍する。急いでもしょうがないし、殺されて戻ってきた時間を考えるに、そこまで遠い距離ではないと思われる。なのでユウヤを前面に出す。
「まあ、俺は盾士だからいいけどよ。それより後ろからの援護頼むぜ? って何かスケルトンが前に出てきたんだけど? これコトブキの召喚モンスターだけど大丈夫なのかよ。スケルトンって絶対打撃に弱いだろ」
「大丈夫だと思うよ。ウチのファルはちゃんと流したり弾いたり出来るからね。攻撃をまともに盾で受けたりしないし、その為に盾を持たせている訳。まあ、最初に持たせたのは師匠なので、元々スケルトンは盾を持つのが正しいのかな?」
「成る程なー。ま、打撃が弱点だと分かってるなら、そこを補強するのは当然だよな。盾は上手く使うと殆ど耐久力の減りなく使えるから、スケルトンでも安心ではあるか。スケルトンがその技量を持ってる事にビックリだけど」
そんな話をしつつ、ラスティアを乗せたドースと共に前へと歩いて行く。何処かに隠れる事も考えたが、それをやったところで意味がない。更には将棋の入玉のように、敵陣に大将を突っ込ませる事も考えたが、それもイマイチだと却下。
結局は前進したり後退したりしながら戦う事に決めた。というより、それが一番安定してるだろうし、このイベントで勝つには師匠達の言っていた通りにするのが一番だ。とにかくザコを削りきる。それが勝利への近道となる。
皆で専用掲示板にそれを書き込み、勝つ為の道へと誘導する。とにかくザコが減れば減るほど、こちらに有利になるし、相手にとって不利になる。なるべく死亡を減らし、相手を殺す事を優先してほしい。そう書いて後は祈る。
「掲示板に書いたところで皆が従ってくれるとは限らないからなー。イベントなんて祭りみたいなものだし、どう考えても好き勝手に暴れる奴等ばっかりだろう。それは向こうも変わんないだろうけど」
「こういう争いだと、いかに纏まって戦えるかが鍵。今回は第一回のイベントだし、纏まるのは無理。そういうタイミングに纏まらないと勝てないイベントをブッ込んできてる。運営は悪辣」
「まあ、でもそういうものじゃない? イベントなんて運営からしたら大変だけど楽しい日だろうし、今ごろ自分達の予想通りでケタケタ笑ってるでしょ。そういう性格の悪さがないと運営なんて出来ないだろうしね」
「おっと、そろそろ接敵するよ。向こうの獣人みたいだけど、やっぱり正式版でもほぼ人間かー。こっちはケモナー御用達だから、逆に新鮮な感じするね」
「何あれ、気持ち悪いわね。人間か獣かハッキリしなさい、中途半端で気持ち悪いじゃないの。天使の星の奴等は相変わらずねー」
「あれ? ラスティアって天使の星に行った事あるの? 聞いた事が無かったけど……っと、早速矢を射ってきたね。走る速度は微妙だから、それっぽい獣人でしかないのかな? となると悪魔の星は特化型の獣人か」
「ゲートで何度も天使の星には行、って危ないわねえ。向こうで何度か暴れた事もあるし、飽きて戻ってきたって感じかな? 向こうの連中って簡単に魅了が効くからさ、つまらなかったのよ」
「流石は古い時代の悪魔、普通に……っと、危ないなー!! 何、今の? 空中で爆発したんだけど!?」
丸い物が飛んできて嫌な予感がしたから【ダークボール】で迎撃したけど、まさか爆発するなんて思わなかったよ。それにしても丸い爆弾って、花火じゃないんだからさー。分かりやすい形状してるなぁ。
「あれは多分だけど爆裂玉じゃない? 鉱山とかで硬い岩盤を爆破する魔道具。【火魔法】の【ショックボム】を詰め込んだヤツだと思うわ。【ブレイズボム】じゃなかっただけマシでしょ。まあ、相手もショボそうだからそれはないと思うけど」
「とはいえアイテム持ち込み禁止だろうが、何であいつらあんなもん持ってるんだよ。幾らなんでも反則じゃないか? コトブキが空中で爆破してくれて良かったぜ。じゃないと盾が壊れてたかもしれねえ」
「多分だけど戦場にアイテムが落ちてるんだと、思う! よし、上手く頭に当たった。矢が回収できないから思ってる以上に辛い。後でお金稼がないと……」
「結構矢を放ってきやがるなぁ。それはともかく、イルはまだ金欠が続いてるのか? もしかして町から始まった方が厳しいのかも、な!!」
「「「ぐぼぉぇ!!」」」
「ハッハッハッハッハッ! 巨人族用の棍棒を舐めてもらっちゃ困るぜ!! 金無いから木を引っこ抜いてきて自分で作ったっつーの!! 碌に金なくても戦えるってところを見せてやる!!」
「何か悲しい言葉が聞こえてきたけど、私はお金持ってるから優しい気持ちで応援してあげるよ。ふぁいと!」
「流石ナツ。傷口に塩を塗りこむ鬼畜……! そこに痺れもしないし憧れもしないけど、友達ではある」
「お前ら緊張感持ってしっかり戦ってくんね!? 他は真面目に戦ってるんだからさ! でもコトブキの召喚モンスターが酷すぎる。何でこんな凄惨な死体を作り出すんだよ!!」
「えっ? 別に普通だけど? 師匠も言ってたじゃん、敵は殺せって。殺す方法と殺した結果なんてどうでもいいんだ、敵が死んだという事実さえあればね。そこが一番重要なんだから、他はどうでもいいよ」
「相変わらずねー、コトブキは。あんたここ最近マシになってたと思ったら、騎士か何かに殺されてから元に戻ったわよね。まあ、昔と変わらないと言えば終わる話でしかないけどさ!!」
「あひん!!」
「うわぁ……トモエが鞭で攻撃したあの人、何か悦んでない? 私、何となく嫌な予感がするんだけど。……ほら、おかしなのになった!!」
「よい、しょっと!!」
僕は近くに落ちてた石を【身体強化】して投げつけ、おかしな反応をした敵プレイヤーを殺害しておく。またシズに絡む変態が生まれたかもしれないけど、その都度殺しておかないとね。
「しっかしトモエが女王様スタイルだと、ああいうのが生まれるよなー。2年前にも生まれて結構しつこかったのを思い出したぜ。あのゲーム、運営が碌に動かなかった所為でウチまで圧力に参加してたからなぁ」
「私の家もイルの家も圧力掛けたら警察が動いたけどね。ずっと変態行為を続けてたおかしな人だったって聞いたし、運営が怠慢なゲームを狙ってあんな事してたって説明あったよ。あの頃はこういうゲームをしようとも思わなかったから、やっぱり危険なゲームなんだとしか思わなかったけどね」
「ゲームの問題じゃなく、一定数ああいうバカはいる。ゲームだと浮き彫りになるけど、リアルだと潜ってるから分かり難いだけ。仮想空間に居るって事は、現実にも居るって事」
「あんた達って思ってる以上に戦争慣れしてるわよね? そこのダークエルフはそうでもないけど、他のは慣れすぎでしょ。そこの同族、その使い方は駄目。短剣を使う時は脇をしめなさい、そしてコンパクトに、必要な力だけ篭めなさい」
「えっ? 何よ急に? どういう事?」
「トモエ。ラスティアは古代の悪魔であり、元踊り子で暗殺者。短剣と鞭を使ってたって言ってたから、アドバイスをくれてるんだよ。ちゃんと聞いといた方が良いよ」
「そうなの? ……えっと、こう?」
「違う、違う。腕が硬すぎ。もっと柔らかくもって、肘を支点にして使うの。スナップを効かせて、自分の腕が鞭になったような感覚で使う。刺す時は逆に、自分の腕が棒になったようなイメージで。短剣は小回りが効く分、使い方を瞬時に切り替える事が大事なのよ」
今イベント中なんだけど、何故か指導してる。良いのかなぁ……ま、僕達が守ればいいか。




