0449・運営さん達32
2000年 11月6日 月曜日
『プレイヤー<コトブキ>がゴーグルの代わりのアイテムとして首輪を作りました。効果としては殆ど変わりませんが、場合によっては首防具との併用も可能かと思われます』
「そのこと自体には何の問題もないんだが、首輪でも同じ効果が出るのか。ま、オシャレに作れば、決して悪くはないだろう。チョーカーの変形と思えば」
「変形って言ってる時点で、色々アレだと思いますよ。それでもゴーグルよりはマシですけど。どうして弟君はアレを着けようと思ったんですかね?」
「古い時代のアニメにあんなのがあったような気がする。作品のタイトルは忘れたが、スチームパンクかSFか、それとも空想科学だった? ……すまん。詳細には覚えてないが、トンカンするキャラがあんな感じのゴーグルを着けてたと思う。もちろんレンズはあったが」
「んー、何となくそれっぽいイメージはありますけど、でもゴーグルってダサくないですか? もう1人の彼も着けてますけど、あっちもどうなのやら」
「あっちのはバイクに乗った時に使うヤツだな、もしくは旧時代の戦闘機のパイロットが使ってるイメージだ。あれも別に悪くはないと思うがね?」
「あれだけを見たらそうかもしれませんが、壮絶に他の装備と合ってませんよ。もうちょっとしっかりコーディネートしてほしいですね」
「そうか? 昔ながらのゲームなんて、最強装備にしたら見た目がチグハグなんてよくあると思うぞ? 浮いてようがダサかろうが、最強ならそれでいいという感じで使うのがゲーマーだろう」
「それはまあ、そうなんですけどねー……。ま、いいか。それよりも<破滅>が弟君に転移札を売ってるんですが。地味にマイホームの強化を弟君のお金でやろうとしてますね」
『別に構わんであろうが。セントラルに聞いたところ、プレイヤーで一番金を持っとるのはコトブキだと聞いておる。ならば妾が取って還元すれば良かろう?』
「まあ、言いたい事は分かるし、それが一番良いからセントラルも答えたんだろうからな。その辺りはセントラルと相談しつつ好きにしてくれ。しかし、そんなに弟君は稼いでいるのか?」
『プレイヤー<コトブキ>は全プレイヤーの中で、一番稼いでいる事は間違いありません。何といっても属性武器の主な供給元である為、プレイヤーマーケットに売り出すと即座に買われます』
「成る程ね。属性武器で荒稼ぎしてる訳だ。まあ、自分達で採ってきた素材で作って流してるから、そこまで量産してバラ撒いてる訳じゃないんだけど、自分達で採りに行ってるから品質は良いのよねえ」
「元々の品質が高いのだから、出来上がる完成品の品質も高いに決まっている。決まっているのだが、彼の場合はそれだけではない。やはりマニュアルでしているからか、隠しパラメータの伸びが良い」
「盲点でしたよね、自分達でそう設定しておきながら忘れてたくらいですし。スキルに任せるよりも、マニュアルの方が隠しパラメータの上昇は高くなる。そんな当たり前の事を忘れてました」
「元々は努力した分をプレイヤーに還元する為のものだからな。難しい方に挑んだにも関わらず、何の特典も無いなんて悲しすぎる。だからこそ隠しパラメータの方を変えてる訳で、それをずっと熟し続けているのが彼な訳だ」
「ずっと続けているからか、他のプレイヤーとの違いが顕著に出てますね。ここまでだと逆転は難しいかな? ここからもマニュアルのみで突っ走って行くでしょうし」
「それ自体はこのゲームのサービスを開始する前、ベータ版の時から狙っていた事だから構わんがな。とはいえ、こちらがセーブせねばならんぐらいに差がつくとは思わなかったぞ」
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2000年 11月7日 火曜日
『プレイヤー<コトブキ>が【背水】のスキルを習得しました。【爆力】で9割のHPを消費していたので、習得は極めて早かったと思われます』
「それはねえ……。とはいえ、これで弟君が更なる囮を買って出るのか、それとも囮になる方法を使わないのか。いったいどっちかは分からないけど、少なくとも選択肢は出来たわね」
「いやー、早速使うんじゃないの? こっちに来てから日が浅いけど、この子とんでもないじゃない。ナーフしなきゃいけない筈なのに、何故かナーフしてないし。これ程の子なら使うでしょ」
「申し訳ないけどナーフは無いわね。そもそも彼はマニュアルでやってるのよ、である以上は無理なナーフなんて出来ないわ。それに努力している人の頭を押さえつけてもねえ、評判が悪くなるだけでしょ?」
「まあね。私の元の所もサ終したけど、やっぱり上があれやこれやと押さえにかかったもの。サ終して当然なんだけど、課金させる為にね……」
「あー、そういう人って居るわよね。運営の総責任者の意向で変わるから現場の者じゃ文句も言えないし。爆死するのが分かってる所でも仕事だから入らなきゃいけないもの。先が見えてる部署ってキツいのよねえ」
「そうそう。今後に期待できないからモチベーションも上がらないし、そうなると納期ギリギリとかバグ多数とか、余計な失敗が更に増えるのよ。やーよねー」
『プレイヤー<コトブキ>が暗闇ダンジョンへと入りました』
「おっと遂に弟君が入ったかー。さてさて、彼は何処まで行けるかしらねえ。罠があるから結構な足止めは出来ると思うんだけど、次のイベントまでに60階に到達しそうな気もするし」
「??? ……次のイベントってアレでしょ、ダンジョン脱出ゲーム。あれって能力固定のうえに装備は一切持ち込めないじゃない。ついでにスキルも無くすし。別に強力な武器を使えても意味無くない?」
「聖結晶を弟君が見つけて、それが情報として出回ったら最悪なのよ。イベントそっちのけで暗闇ダンジョンの攻略を始めようとするプレイヤーが多発するわ。かと言って、いきなり制限するのはおかしいし……」
「ああ、聖結晶を使った装備って強力なんだねー。成る程、成る程。確かにこの性能ならイベントそっちのけになっちゃうかぁ。とはいえ手に入れても秘匿する可能性が高いでしょ」
「そうだったら良いんだけどねえ。あそこの女の子が問題なのよ。鍵付きの隔離スレッドに書き込む可能性があるの。ネタバレだから削除という強権も揮えなくもないけど、なるべくはしたくないのよねえ」
「書き込み制限なんて、1回やり始めると止まらなくなるからね。余程のもの以外は許可するしかない。監視だって増やすと無駄にリソースを喰うし、出来ればやりたくないのが運営側の本音だし」
「本当にね。その分のリソースをゲーム運営につぎ込みたいのが本音よ。無駄に荒らされると迷惑でしかない」
「でもこのゲームはマシでしょ。掲示板を見る事すら禁止できるんだし、実際に見せ付けてる。文句言ってきたら更に延長するチャンスとばかりに、相手の自爆発言を残してるし。色んな意味で楽しい職場だよ」
「今までと違って?」
「それはね」
『プレイヤー<コトブキ>が暗闇ダンジョン10階に到着。転移魔法陣を登録しました。そして近くの魔法陣で脱出します』
「そろそろいい時間だし、区切りとしてもちょうどいいみたいね。今日はもう何もしないでしょう。他の有名プレイヤーは?」
モニターに新たなプレイヤーが映り、それらに関しても議論をしていく運営。彼等がリアルタイムで監視しているからこそ、ゲーム内の秩序は保たれている。
決して有名プレイヤーを覗いて言いたい放題に言っている訳ではないのだ。




