0442・神の贈り物の話
ユウヤとはいつも通り師匠の家の前で別れたけど、僕達は師匠の家に入らなきゃいけない。別に戻るのが嫌な訳ではなく、今日はこうなるのが分かりきってる訳で……。
「だってさー、手に入ったんだから着けてみるじゃない? あれって幸運になるハチマキだよ? 着けてたら良い事あるんだから、すぐに着けるよ。普通は」
「皆、戦闘終了後に確認して装備したりしてる。それは戦闘中に確認したり着けるのが危険だから。そんな事は少し考えたら分かる当たり前の事。にも関わらすナツは迂闊な事をやって自滅した。全部自分の所為」
「そうだけださー、ちょっと厳しすぎない? こう、もうちょっと優しくしてくれてもいいでしょう?」
「優しくすると勘違いしたままになる。どれだけ嬉しくても迂闊な事はしない。皆がしないって事は、隙を晒したり危険になるから。やってはいけない事をして死んだ。それはナツが悪い」
「むー……」
凄い、面倒なナツを封じ込めてるよ。流石はイル。そこに痺れも憧れもしないけど、ありがとう!。
内心でイルに感謝しつつも、余計な事は言わない僕達。どこでヘソを曲げるか分からない為、慣れていない僕達は地雷原を歩くなんていう危険は冒せない。イルは赤ちゃんの頃からの付き合いだから出来るのであって、僕達にはそこまでは無理だ。
その証拠にトモエだって黙ってるからね。ナツはヘソを曲げると面倒なんだよ。もち米が出ない間もそうだったけど、一旦ヘソを曲げるとおかしな方向に曲がる可能性もあって、簡単には機嫌が治らない事も多い。
流石にこれ以上は愚痴を聞いていても仕方ないので、僕は一旦マイルームへと戻り、ラスティアとキャスティとファルに声を掛ける。ソファーの部屋へと戻り3人を呼び出した後、皆にプレイヤーマーケットに流すよう頼み、再びマイルームへ。
ユウヤも既に出してくれていたので購入し、皆が流してくれた分も購入したら、精錬作業へと移る。特に変わらずいつも通りにやっているが、特に何か幸運な訳でもないな? 本当に効果があるのか疑問に感じながらも続け、メールが来たのでソファーの部屋へ。
イルに感謝を言って食堂へと行くと、何故か師匠の他にマリアさんが居た。
「うむ? コトブキの頭のそれは<幸運のハチマキ>か。また珍しい物を手に入れたの。妾でさえ3つか4つしか手に入れた事のない物だ。よくもまあ短期間であっさり手に入れたものよ」
「いや、3つか4つ手に入れるだけでも凄いと思うけど……。あれって相当出にくいだろうし、しかもどうしてそんな数を手に入れるまで戦ってるの?」
「うむ。実はな、マリア。暗闇ヘルムが落とす<神の贈り物>には、<呪印の兜>という物があるのだ。何故か安全地帯でしか外せん代物なのだが、代わりに攻撃しただけで相手の魔力を奪えるという物でな。それ欲しさにウロウロしておった事があったのだ」
「えっ!? 魔力を奪えるの? ……それは凄い。相手の魔力を奪うって、貴女達のような魔女が持ったら反則じゃないの」
「悪いがあれは人前では被れんぞ? 異様な程に見た目の悪い代物でな。そのうえ魔力を奪えるのはいいが、前を見る為のスリットがおかしな形に空いておるのだ。妾は召喚モンスターの分が欲しかっただけよ」
「ああ、成る程ね。……っていうかそんなに見た目が悪いの? だって結局は唯の兜でしょ? 上手く他の物を合わせれば済むと思うけど……」
そんな話の最中に僕達がアマロさんを見ていたからだろう。アマロさんは溜息を吐いた後に<呪印の兜>をインベントリから取り出して、マリアさんに渡す。
「これが<呪印の兜>? ………うーん、これはどうすればいいのかしら。何か赤黒く明滅してるし、ちょっと自己主張が激しいかなぁ?」
「だから言うたであろうが、見た目が悪いと。それでも魔力を奪えるという一点で優秀なのだ。あとは<必中の剣>も優秀だな。あれに付いているスキルは上手く使うと、急激に剣の軌道を変えられるのだ。……スケルトンしか使えんが」
「スケルトンしか使えない剣? そんなのあるの?」
「いや、<必中の剣>を持って「必中」と唱えると、目の前の敵に必ず当たるのだ。ただし体を無理矢理に動かされての。その結果、体がメチャクチャな動きになり、手首や肘があり得ない方向に捻じ曲がったりするのだ」
「………」
「気持ちは分からんでもないが事実でな。剣としてはそれなりに優秀なのだが、常人では【必中】を使い熟せん。だがスケルトンは別だ。手首が360度回転しようが、肘が逆を向こうが関係無い」
「ああ、何となく分かったわ。スケルトンだけは、そのメチャクチャな動きでも怪我しないから使える訳ね」
「正しくは使い熟せるのだ。敵からすれば、あり得ない角度から攻撃が飛んでくるという事よ。常人ならば絶対に出来ない角度や方向から攻撃できるのだが、これは人間種との戦いで極悪な威力を発揮する」
「確かに対人戦に慣れている人ほど引っ掛かりますね。この角度なら安全、この方向ならば敵の攻撃が来ない。考えるよりも先に体が反応しますから、そこを突くという事ですか」
「うむ。コトブキはすぐに分かったか。これは対人戦において明確なアドバンテージなのだ。手首や肘がどの角度を向こうが問題ないスケルトンだからこその戦術。対人戦に慣れている者ほど引っかかり、達人ほど見切る事が出来ぬ」
「本当に怖ろしいですね。達人と言われる人ほどギリギリの距離で見切る。にも関わらず【必中】で攻撃の軌道が変わり、あの切れ味の剣が襲ってくるんですか……」
「む? 切れ味を知っておるという事は、コトブキは手に入れたか?」
「はい。既にファル、スケルトンクラフターに渡しました。たまたまですけど、渡して正解でしたね」
「そうなる。アレを使い熟せるのはスケルトンぐらいだからの。特に生きている者というか、肉のある者は使わぬ方がよい。体が壊れるでな」
「体が壊れる武器って、普通に呪いの武器みたいね。もちろん<神の贈り物>が呪われている事なんて無いんだけど」
「他にも色々と手に入る<神の贈り物>はあるが、他はそれなりに使えるという程度だな。一番使えぬのが<復讐の盾>だ。あれは受けた傷をそのまま相手に与えるという物なのだが、自己修復といって放っておくと勝手に元通りに直るのだ」
「凄いじゃない! 勝手に直るなんて凄すぎる! 何でそれが使えないの!?」
「修復が遅いからだ。アレの修復は猛烈に遅くての、まともには使えぬ。そのうえ復讐のダメージを限界まで高めるには、盾が壊れるギリギリまで使わねばならん。そうなると修復は更に遅くなる。【復讐】自体は物凄く強いのだが、盾の使い勝手が悪すぎるのだ」
「敵の攻撃を受けたり流したりっていう、当たり前の事に使えない?」
「ナツの言う通りでな。どうしても【復讐】を使おうとすると、別に盾を持って戦わねばならなくなる。しかし攻撃手段が【復讐】だけなど、まともに戦う事すら出来んわ」
「「「「「あー……」」」」」
言われればその通りだ。他に武器を持っていたとしても、わざわざ<復讐の盾>を使う理由が無い。そして盾の代わりには使いにくいときてる。色々な意味で使えないんだなぁ。
もちろん活かし方はあるんだろうが、そこまでして活かす物でもないって事か。初めて見た時にイルが言ってた、「使わず普通に戦った方がマシ」っていうのが当たってた訳だ。
その御本人は小鼻が膨らんで、ちょっとドヤ顔してるけど。




