0428・ブラッディアの騎士の話
僕は一旦マイルームへと移動する。このまま話を続けてもいいが、まずはラスティアやキャスティにファルを呼ぶのが先だからだ。
「ここに戻ってくるのに、いつもより時間が掛かってる気がするんだけど……何かあった?」
「マリアさんが来てて、色々と話をしていたから時間が掛かったんだよ。師匠の家に戻ってきたらソファーの部屋に居てビックリしてさ。どうも暗闇ダンジョンの素材が目当てだったみたいだけど……」
「抜け目がないと言いますか、それとも細かいところまで見ているというべきか……ちょっと判断に迷いますね。実際に1国の女王がするべき事とは思えませんが、<破滅>と呼ばれる者と交渉するのであれば、1国の女王でないと無理でしょうかね?」
「まあ、確かに1国の女王じゃないと難しいかもね。<破滅>って基本的に他人に興味無いし、知り合いぐらいとしか交渉しないし。まず<破滅>と知り合う事が難しいわよね」
「ですね。最初が悪いと後まで尾を引きますし……おっと、私達も話ばかりしていても仕方ありません。さっさとコトブキに召喚してもらいましょう」
僕はその後ファルにも声を掛け、ソファーの部屋に戻った後で召喚する。マリアさんは未だに居て、何故かトモエ達と話していた。師匠は居ないのに何かあったかな? そう思っていると、皆にも良い物がないか聞いているだけだった。
「何で1国の女王が、と思うかもしれないけど、暗闇ダンジョンに挑戦する者はそれぐらいに少ないの。素材であれば何でも手に入る場所だと言っても過言ではないのだけれど、代わりに奥まで行ける者は殆ど居ない」
「まあ、そうですね。多くの者が挑戦し、そして危険が大きすぎて諦める。実際、罠と魔物は強烈ですし、思っている以上に死亡する確率は高い。浅い階層では良い物が手に入らず、深く潜ると死亡確率はどんどん上がっていく」
「深い階層でも当たり前に素材が採れる<破滅>がおかしいのであって、私やキャスティでさえ諦めた場所でもあるのよ。と言っても、悪魔になる前だけど」
「私も天使になる前ですが、天使になってからは行っていません。行く必要が無くなったと言いますか、特に思い出す事も無かったですからね。それにそこまでの素材の武具も必要としませんでしたし」
「そんな敵がそもそも居ないものね。私達は悪魔という枠組みの中に入った訳だし、本当に強力な武器が必要なら大悪魔が支給してくれるし」
「私達もそうですね。本当に必要なら大天使様から支給されますので、別に強力な武具が必要という事はありません。自分で素材を採りに行き、作ってもらっても良かったのでしょうが……」
「そんなに強い武具って要らないの? 鍛えればそこまで強くなるって事?」
「ちょっと違うわね。そこまで強い武具が必要な相手と戦わなかったってところかしら。別に何でも敵に回して戦う訳でもないし、無理に戦う必要も無いなら戦わないでしょ? そういう事よ」
「天使や悪魔になってからは、戦うような生活じゃなかった?」
「そうですね、それが正しい言葉でしょう。天使や悪魔とはそういう存在だとも言えます」
「「「「へー……」」」」
トモエ達はともかく、1国の女王が口を開けて「へー」はないと思うんだけど……いいのかな? 影の人達が出てこない以上は、おそらく問題ないんだと思おう。っとファルが来たか。食堂に移動しよう。
食堂の席に着いた僕達は、食事を始める。師匠とマリアさんは話しているが、何だかまた薬の催促をしているらしい。どうやら若手の騎士を鍛えるのに薬が必要なようだ。……薬漬けで騎士を鍛える?。
「勘違いしているかもしれないけれど、若く騎士になった者達は妙な癖を持っている事が多いの。それを矯正しなければいけないのだけれど、これがなかなかに厄介で、騎士団からも求められてるのよ」
「アンデッドである以上は、死はあっても寿命は無い。つまり騎士になるほど研鑽を積んだのは良いが、矯正せなばならん癖がついている者も多いのだ。なかには全て自己流で腕を磨いてきた者もおるでな」
「自己流で騎士になれるっていうのも、それはそれで凄い事なんだけどね。その反面、それ以上には行けないから、結局は癖を矯正して直す必要があるの」
「最初から正しい技術を学ばせる事は出来ない?」
「出来ない訳じゃないわ。それが王都の者ならばね。ただ、騎士になれる者は必ずしも王都出身とは限ってないのよ。優秀な人材なら国家として門戸を開いているから……」
「田舎というか、地方だとそこまで教育環境も整っておらん。だが、優秀な才能はどこで生まれるか分からんからのう。集めた段階で矯正する必要は必ず出てくる。しかし、今ごろになって集めるというのもな……」
「アホな国とゲートの向こうが揉めそうだからね。今の内に増強を計りたいわけ。騎士団の中にも辞めていく者は出るし、補充をしなきゃいけないのはいつもの事よ」
「寿命が無いのに騎士を辞めるの? 意味が分からないんだけど、どういう事?」
「我が国の騎士の場合、年齢での引退が無い代わりに異動が認められてるのよ。つまり故郷に戻りたいとかね。騎士って当然だけど実力者だから、そういう実力者は大抵地方に行って教導をするの。それでも癖のついた者は来るんだけど」
「この国には一般人のフリをした、隠れた実力者もおるという事じゃな。家業を継ぐ為に騎士を辞める者もおると聞く。もちろん訓練をしておらぬから実力は落ちておろうが、それでも刻み込んだ技を忘れてはおるまい」
「現役と比べれば落ちるけど、それでも咄嗟の時に戦える者は多く居るという事ね。傭兵になっている者もいるし、色々な者がいるわ」
国民全員じゃないんだろうけど、元騎士が増えて増えて……とはならないか。ずっと騎士で居るという人も居るんだろうし、そういう人が騎士団の中で上に上がっていくんだろう。
とはいえ、他の国の騎士と比べれば途方もなく長い時間が掛かるんだと思う。そもそも不老のアンデッドが騎士として勤めるんだ。100年や200年じゃない、場合によっては500年や1000年かもしれない。
そこまで腕を磨いた人じゃないとは思うけど、この国の騎士って相当強い? それともNPCだから頭打ちなのかな? ゲームの世界だから成立するアンデッドの国だしね。
食事後。ソファーの部屋からマイルームへと戻り、そのままログアウト。ラスティアとキャスティは、師匠とマリアさんと飲むらしいので放置。酒飲みに巻き込まれるのも嫌だからね。
現実でのお風呂や夕食に雑事を終わらせたらログイン。マリアさんが居たから出来なかったけど、早速物作りをしていこう。
ちなみに皆とは明日売買をする事で話はついている。なので今日は僕自身が手に入れてきた素材と、昨日から持っている物しかない。
精錬作業を終わらせていくものの、金はやはり少ないな。黒魔金がないと【闇視】付きの装備が作れないし、これが作れないとダークゾーンを突破できない。厄介だし多くの金が必要だ。
結局、黒魔金が必要数揃うまで、50階から先に行く事は出来ないなー。罠が全て見破れないけど、それ以上に【闇視】という必要な物が出てきたので余計に無理か。ま、急ぐ必要は無いし、ゆっくり進もう。
その間に白魔銀の装備を整えたいところだ。それさえあれば暗闇ソードは楽に倒せる筈。出来れば打撃系武器を作りたいんだけど、そうなるとナツとユウヤの武器になるんだよね。2人は……買うかな?。




