0417・ナツの状態
ナツがマズいとの事で僕達は急ぐ事に。もちろん急いだところで早く先に進めるかどうかは別なんだけど、それでも急ぐしかないのが実情だ。仮に強制ログアウトなんて事になったら、また攻略しなければいけなくなる。
早歩きで先に進みつつ。イルとトモエにナツの介護を任せる。介護という言い方はアレかもしれないが、しかし適切な言葉が他に見つからない。とりあえず今は安定しているようだから、今のうちに突破したいところだ。
ナツも【光魔法】持ちの1人なので本当は活躍してほしいところなんだが、冷静に使ってくれるわけでもないので、微妙に戦力に数えられない。無理に放とうとしたりしてイルが取り押さえている。
どうしても早く殲滅したいらしく、トカゲやヘビの際とGでは明らかに反応が違う。イル、トモエ、アマロさんに関しては昨日よりマシなので、3人は慣れたというか、そこまで過剰反応はしなくなっている。
誰であっても苦手な物などはあるので言えないが、ここまでの過剰反応だと本当に危険すぎる。いつ強制ログアウトになるかヒヤヒヤものだよ。昨日はいったいなんだったんだろう? 昨日の方が安定していたように見えるんだけど。
「昨日は多分いきなりだったからだろ。だからこそ、まだよかったんだと思うぜ? 今日はGが居るって分かってるからな、更に厳しいっていうか、自分から厳しい所に入って行ってるから余計じゃね?」
「ああ、予想をしていたけど、だからと言って耐えられる訳じゃないもんね。ジェットコースターみたいなものかぁ。何回乗っても失神する人って居るからさ」
「まあ、それで合ってるかは分かんねえけど、そんな感じだろうと思う。むしろ出てくるって分かってる場所に行ってるから厳しいんだろうと思うし、30階から既にストレスを受け続けてたんじゃねーかと思う」
「うあーーーーーーっ!!!!」
「ナツ! ストップ!!」
「ああ……それで溜めて溜めて、今爆発してると。恐怖が溜まると、あんな感じ……かなぁ? まあ、とにかく少しでも早く攻略しないと駄目だ。多分だけど、今日中に突破できなきゃ辞めるよ?」
「だな」
僕とユウヤは戦闘をしつつも話し合い、出来得る限り急ぐ形での攻略を決意する。皆もそうだし、アマロさんの召喚モンスター達も頑張ってくれているんだから、ナツも頑張ってほしい。
流石にこんな所で引退となったら妙なしこりとして残りかねないからさ、こういう小さな事が全員の引退のキッカケになったりするんで怖いんだよね。小さな事をバカにしちゃいけない。
現在37階を進んでいるけど、ここの攻略に少し手間取ってる。何故なら青い魔法陣が見つからないからだ。しかも立て続けにGが襲ってきた所為で、ナツが結構なMPを消費してしまっている。
対抗手段をなくした際にどう暴走するか分からないので、できればMPを残したまま居てほしい。そんな事を考えていると、散々迷ったうえでやっと青い魔法陣を見つけた。僕達は苦労しながらも38階へ。
再び移動して行くも、最初に出てきたのはトカゲだった。こいつが一番楽だから、こいつだけ出てきてくれないかな? とは思うものの、こいつが一番出現頻度が低いんだよね。ワザとだと感じるくらいに。
頻度が一番高いのがGじゃなくてヘビなのは助かるんだけど、それでもGの出てくる頻度は高い。腹立たしい事……うん? もう見つかった?。
青い魔法陣が見つかったので素早く乗り、現在39階。37階で随分迷ったものの、ここに来て一気に進めた。あと1階、これで40階に到達できる。何としても40階に到達して、G地帯を抜けたい。
そんな祈りを篭めながらも早歩きで移動し、出てくるGを抹殺しながら進んで行く。もはやヘビもGも慣れてしまい、さっさと倒すパターンを確立してしまった。後は強制ログアウト無く進めばいいだけだ。
しかし僕達を嘲笑うかの如く、ヘビとGが出現し、罠が僕達に襲いかかる。特に厄介なのが<爆発壁>だ。爆発するだけじゃなく破片が飛んできてダメージを受けるんだ。兵器じゃないんだから勘弁してよ。
今はナツを後ろに回しているのでナツが罠を受ける事は無いが、僕の召喚モンスターやラスティアにキャスティが前に居るので、結構なダメージを受けている。
仕方がないとはいえ、回復にそれなりのMPを使わざるを得ない。それに<爆発壁>だけじゃなく、落とし穴とトラバサミも厳しい。落とし穴はダメージが高く、トラバサミは解除に時間が掛かるんだ。
無理矢理に動かしていると外れるんだけど、それまでに時間が掛かるのと、地味にダメージも受ける。それでも受けるダメージ量は落とし穴より低いので、時間が掛かるのが鬱陶しい罠だ。
「急いでる時に限ってこれなんだよな。ワザとかと言いたくなるが、急いでるから気になっちまうだけだと思おう。そう思ってないとイラついてしょうがない」
「イライラしてると妙なミスとかするし、それだと僕達まで危険にさらされる可能性がある。だから気をつけ……こんな時に十字路か。これは困ったな」
3方向のうち正解ルートは一ヶ所だけだ。仕方なく真っ直ぐ行こうと進んだんだが、何故かナツは右に曲がったらしい。僕達は慌てて戻り、ナツの前に出て右の道を進む。何故か強硬にナツはこちらへと進もうとする。
何があるのか分からないけど、ナツがこういう態度の時は何故か妙な引きをしていたり……するんだよねー!。
「ナツは相変わらずだな。暴走しててもコレかよ。訳の分からない引きは、あんな状態でも発揮されるんだなー」
「それよりも、さっさと移動しよう。このままだとナツがどうなるか分からないからさ。青い魔法陣に乗ってさっさと40階に行った方が良い。登録さえすれば40階から進める」
女性陣も頷いたので、すぐに40階に飛ぶ。やはり登録の魔法陣がある階は、必ず登録の魔法陣近くに飛ばされるね。迷う事は無くて助かるし、ここら辺は優しい部分だと思う。
せっかく登録階まで来たのに見つからずに殺される。なんて事が無い設計だからなんだけど、そこまでの優しさがあるならGは止めてほしいところだ。
全員が登録したのを確認したら、僕達は赤い魔法陣に乗って脱出する。やれやれ、本当にどうなるかと気を揉んだけど、無事に40階の登録が出来てよかった。
外に脱出し、イルがナツに話しかけると正気に戻ったっぽいけど、何故か呆然としてる? いったい何があったんだろう?。
「ナツ……ナツ! 大丈夫? 何かあった?」
「え? あー、うん。大丈夫だけど、ダンジョンは? ……それと、コレなに?」
「コレってなに? ナツの前にウィンドウが出てるのは分かるんだけど、それがどうかした?」
「スキル【暴走】を習得しましたって出てる……」
「「「「「………」」」」」
運営はいったい何を用意してるんだろうか? しかも精神的におかしくなって暴走しないと手に入らないっぽいんだけど、そこまでしないと手に入らないスキルってなに?。
ちなみに【暴走】の効果は、AIに体の制御を奪われて勝手に暴れ回るらしい。自分は傷つけないが、自分以外の全てがターゲットになるみたいだ。でも代わりに全能力値が3割上がる。
任意で解除する事は出来ないものの、暴走時間は最大でも10分。微妙なところだなー。10分以上掛かる戦闘……いや、無理か。そもそもナツを1人で運用するのが無理だ。
使えるか使えないかで言うと、ソロダンジョンなら使えるといったところだろうか? 実際に魅了されると勝手に体が動かされるという書き込みもあるらしく、【暴走】もそれと似たようなものだと思う。
入手の経緯がおかしい気もしないでもないけど、それほどまでに暴走しないと手に入らないなら、入手難易度としては高いんだろうな。
「多分だけど、VRマシンで測ってるバイタルを元に習得できるかどうかを決めてるんじゃないか? アレなら嘘は吐けないだろうし」
「ああ、成る程。その可能性が一番高そうだね」
ナツは微妙な顔をしてるけど、レアスキルなんだから喜んでいいと思うよ?。




