0415・ストレス
未だに女性陣は過剰な攻撃でGを倒している。まあ、G自体が毒や病気持ちなので、おそらく噛みつかれたら毒や病気になるのだろう。
どれほどのレベルの毒や病気か分からないので、迂闊に噛まれる訳にもいかないし、過剰攻撃も已む無しな部分はある。
「毒や病気なんて喰らわない方が良いに決まってるからなぁ、それを考えるとアレらも決して悪いだけじゃないんだが……。それでも無駄な消費をしてる事実は間違い無いんだよなー」
「まあねえ。無駄というか過剰なだけではあるんだけど、トカゲやヘビに関しては過剰さが全く無いから、理性はキチンとあるんだと思う。ただ、アレが出てくると途端に過剰攻撃を始めるっていうぐらいか……」
「ぐらい、じゃないけどな。それでも順調に倒せてるのは間違い無いし、階段も発見できてるから、この調子で30階まで進めるかもな。というか、運良く30階まで行きたい」
「いつMP切れを起こすか分からないし、怖いんだよね。できれば素早く無駄なく殺す方にシフトしてほしいと思うんだけど、それは一度帰ってからかなぁ……」
「未だに冷静になれないっぽいから無理でしょうね。落ち着いたかに見えて、あの虫が出てくると声が上擦ってるし、それに過剰反応もしてるわ」
「ええ、相当嫌なんでしょうけど、反応が非常に速いです。おそらくですが、あの虫がいつ出てくるかと緊張と警戒を続けているのでしょう。少なくとも40階まで行かなければ、あの虫が出てこなくなる事はありません」
「最短でも、今日と明日はアレが続くって事か。それも上手くいった場合であって、失敗したらそれだけ日数が延びそうだ。【光魔法】が一番良く効くんだが、あの4人はそれを無視して叩き込んでるしなぁ」
「仕方ないよ。嫌いな虫が出てくる場所だし、運営に対する怒りも凄そうだしね。僕達だって何だかんだといって、迂闊にあれに触れようとしないじゃない? 放っておくしかないよ」
「「「「死ねぇ!!!」」」」
「あれもどうなのかねぇ……」
まあ、うん。言いたい事はよく分かる。僕もそうだけど、口に出すとあのヘイトがこっちに向きそうで怖いんだよね。だから黙ってるんだけどさ。
それでも順調に進めているところが何とも言えないというか、あの4人にアマロさんが加わってるからだろうと思う。アマロさんの召喚モンスターが、割と順繰りに魔法を使ってるんだよ。
その御蔭か、それなりに効率よく進めているとは思う。あの4人? 出現したら殺すって感じ。トカゲやヘビだと皆と連携をとる癖に、Gだと即座に殺そうとする。
見敵必殺っていうよりは、Gは死ねって感じの方が正しいと思う。ここダンジョンだからGは居なくならないんだけど、忘れてるのかな? もちろん余計な事は言わないけどさ。
「それでもこうやって来れるんだから、おっそろしいよなぁ……。気付いたら30階だぜ? ギリギリとはいえMP残してるし、ある意味とんでもねえな」
「あの子達、妙なところで冷静なのかしら? それともたまたま? 上手くいったみたいだからアレだけど、何となく偶然の気がするわね」
「私もそう思います。あれは冷静に見えて、全くそんな事はありません。完全に頭に血が上ってますよ。上り過ぎて冷静に見えるというアレでしょう」
「登録は……全員終わったね? 一応プレイヤーだけで良い筈だけど、出来るなら全員やっといた方が良いから。よし、終わってるなら、さっさと帰ろうか」
脱出した僕達は前回までと同じように、全員をマイルームへ戻して、知らない国の首都へ。そこでパーティーを組み、さっさと転移札で師匠の家へ戻る。
やっと安堵できた僕とユウヤは互いに労い、別れの挨拶をして別れた。女性陣はさっさと師匠の家へと入ったけど、まだ怒りが治まってないのかな? 撒き散らさないだけの分別はあると思おう。
師匠の家で怒りを撒き散らしたら、師匠がブチギレるかもしれないし、それは僕も勘弁してほしいところなんだよね。まあ、可能性は低いと思う。おそらく。
僕は師匠の家に入り、ソファーの部屋へ進むと、マイルームに移動してラスティアとキャスティとファルに声をかける。そしてソファーの部屋に召喚したら、後は自由にさせる事にした。僕は物作りだ。
ファルは夕食の手伝いだけど、時間が早かったらゆっくりしてていいから。それじゃ、マイルームへ戻ろう。
囲炉裏部屋に戻った僕は、相変わらずトンファーやヌンチャク、それと要望のあったメイスを作成する。メイスに関しては、先が球体になったタイプで、その球体部分のみ青魔銀で作っている。
これで十分な水属性効果は出るらしく、誰が実験したのかは知らないが、この形で要望が入っていたので作成した。流すとすぐに売れている事から、多分だけど使えるんだろうね。ちなみに柄は魔鉄だ。
物作りが終わったら少しゆっくりし、休憩した後でソファーの部屋へ。そこでは地獄のような光景が待っていた。ファルが居たのだが、女性4人から愚痴を溢されていたんだ。そのうえ僕が来た途端、ファルは立ち上がって何処かへ逃げた。
「ファルはそろそろ夕食の用意みたいね? コトブキ、ちょっとこっちに来て!」
「そう。ちょっとコトブキにも聞いてもらう。私達が如何に苦労して戦ってたか」
「何故かコトブキ君とユウヤは後ろに居たもんね? 私達が前で戦ってたのにさー」
「アレは何故だったのでしょうね? 何かしら理由があるのでしたら、お聞きしたいのですが?」
どうやら今度は僕が愚痴を聞かされる番らしい。愚痴を言いたい気持ちは分かるんだけど、聞かされたって迷惑なだけなんだけどなー。ラスティアもキャスティも居ないし……。おそらく面倒だから逃げたな?。
◆◆◆
結局ファルが呼びに来るまで愚痴に付き合わされたぞ? 何で僕がこんな迷惑を掛けられなきゃならないんだろうか? 沸々と怒りが込み上げてくるが、これを出すと面倒臭い事になるから落ち着こう。
夕食の席に座り、ようやくストレスから解放されて食事をする。食事は娯楽って言うけど、本当だよねー。さっきまでのストレスが嘘のように……とはいかないけど、それでも癒されてるのは間違い無い。
流石の4人も師匠に愚痴を溢したりはしない。いやー、良かった、良かった。師匠が激怒して夕食が無残になったら嫌だからね。気持ちは分かるけど、愚痴を言うって誰かにストレスを放り投げる行為でしかないんだよ。
投げられた側が新たなストレスを溜めるっていう自覚が無いんだよね。それってストレスが減るんじゃなくて、誰かに自分のストレスを背負わせてるだけでしかないんだ。いい加減に自覚してほしいよ、まったく。
そんな愚痴を心の中だけで吐いていた僕は、夕食後、さっさとソファーの部屋からマイルームへ。ラスティアとキャスティは師匠と飲むらしいのでそのままだ。
マイルームへと戻った僕は、すぐにログアウトして現実に戻る。お風呂と夕食と雑事を熟したら自分の部屋へと戻り、<BUSHIDO>の世界へ。ストレスを溜めるのは良くないので発散しよう。
剣豪だのバケモノだのとの殺し合いは、やはり良い。殺伐とした中にも、ちょっとした語り合いが存在する。相手がどのように思考しているか、どんな狂気を持っているか。それに触れる事も語り合いだ。
その狂気の中にも冷静さがあり、本人の中の言葉に出来ない何かを訴えかけてくる。単に僕がそう感じているだけかもしれないが、不思議と殺し合いだけじゃないものが、そこにはあるんだよね。
いやー、良い殺し合いだった。これでスッキリして眠れそうだ。本日はここまで、さっさと寝ようっと。
別作「ミク ~喰らうもの~」が300話に到達しました。こちらも宜しくお願いします




