0401・運営さん達30
2000年 11月4日 土曜日
『プレイヤー<コトブキ>が属性金属で短剣を作ったようです。現在豪雪山で試させているようですが、あまり上手くはいっていません。使っているのが水属性と闇属性だからでしょう』
「まあ、豪雪山のような雪山で水属性を使ってもねえ……。闇属性ならそれなりに効くでしょうけど、そもそも豪雪山って水精石が採れる所なんだから、ダメージが出ないに決まってるじゃない」
「水属性が強い環境だから水精石が採れるんですしね、幾らなんでもその環境ではダメージが出ないのは当たり前です。彼も分かっていない訳ではないみたいですし、実験といったところでしょうか」
「あー、分かる。MMOってたまにそういう事あるわよね。自分が先に作ったとか、作ってないとか言って揉めるの。高がきぐるみ、されどきぐるみと言ったところかしら」
「面倒ですよねー。そもそも誰かが気付く事ですし、きぐるみ何て世の中にあるっていうのに、誰が先に作ったとかどうでもいいと思います。にも関わらず、いちいち五月蝿い奴は出そう」
「彼らが使うだけなら好きにすればいいと思うわ、どうせ作ってるヤツも多くないでしょうし、そこまで需要も無いでしょうしね。可愛い系で装備するのが居ても、ハッキリ言って需要はニッチにならざるを得ないし」
「まあ、このゲームだと普通に暑いですからね。そういうのがオフになってるゲームならまだしも、このゲームはがっつりオンですから。オシャレの為には暑いのを我慢しなきゃいけませんし、そうなると需要は……」
「殆ど無いでしょうね。まあ、あっても少ないわよ。っと、彼らは鉱石掘りか。そうそう、このゲームは銅とか鉄とかと長いお付き合いをしなきゃいけないのよ。もちろんファンタジー金属もあるんだけど」
「圧倒的に銅、鉄、銀、金の需要が大きいですからね。そして金の少なさったら、プレイヤーが知れば激怒するでしょう。一番確率が高いのが、そもそもランダムダンジョンである<暗闇ダンジョン>ですもん。嫌になりますよ、普通は」
「仕方ないわよ。いつだって金は価値ある金属だし、それに金貨にだって使ってる。ワールド全体の事を考えたら、金の量は少なくて当たり前なの。そのうえワールドに金の量が増えると……」
「確か、自動的に金が出なくなるんですよね? 総量が決まっていて、金の量が増えすぎると暴落する前に金が出なくなるっていう、そういうストッパー付きだったような……」
「そうよ。錬金術師なんかが消費してくれて、減れば出るようになるけどね。市場、特にNPCを含めたワールドに売ると、そうなってしまうのよ。プレイヤー同士の売買なら影響は無いんだけど」
「貨幣が作れないからですね。それは禁止されてますし、警告がいっても止めなかった場合、1週間のログイン禁止です。貨幣の偽造はゲームでも重罪ですから」
「作れるようにしてあるところがポイントよね。作れるけど、作っていいとは言っていない。リアルの犯罪だって、出来るけど、やっていいとは言っていないもの。それと同じよ」
「まあ、彼なら問答無用で金を錬金術に使いそうですけどね。金を売って得る儲けと、金を使って得る経験。どっちが上かといえば、金を使って得る経験の方が、長い目で見て上ですから」
「普通はそう考えるんだけどね、普通は。でもゲームの中でさえ短絡的に考える奴が居るのよねえ、儲かればいいっていうのが。仕方ないとはいえ、こう見ると社会の縮図というのは正しいわ」
『プレイヤー<コトブキ>が運営ダンジョン36階に踏み込みました。昨日、40階で死亡していますので、今日は地道に探すと思われます』
「さて、彼は何処で気付くかしら? おそらく今日にも気付くと思うけど、こういうのは一旦嵌まると長い間気付けなかったりするから」
「あー、ありますねえ。クイズとかで、気付けば当たり前に分かる問題。あれって気付かないと焦るんですよ、え!? え!? え!? って感じで」
「分かる。その後に答えを見た時の腹立たしさね。なんであんな簡単なのに気付かなかったのか!? って愕然とする時があるのよ。シンプルなほど気付かなかったりするのよねえ……」
『プレイヤー<コトブキ>が39階にて、<ホワイトフロッグ・ヒーロー>を見つけました。戦闘を開始しています』
「あらら、もう見つけたか。意外と言ったらなんだけど、引っ掛かって迷う事は無かったわね。流石は弟君と言えばいいのかしら」
「あっさり倒して………上がっていきますね。これはやっぱり……蛙戦隊という名前で気付いているみたいです。このまま突破されるでしょうけど、何だか妙に弱いような……」
「こいつら1匹ずつじゃ弱いのよ。蛙戦隊だからね、5匹集まって真の力を発揮する仕様にしてあるわ。蛙戦隊で出てきた時は、高魔法防御と高打撃耐性を持つ連中ね。簡単に言うとメタってる」
「メタですか。打撃武器を持っているプレイヤー多いですけど、恨まれません? 特に<闘士>とかは厳しいと思いますけど。打撃専門じゃなければ威力が落ちますよね?」
「大丈夫よ、こいつら実は水属性が弱点だから。それもあって各階層で出てきた時に弱いの。そこまで考える事が出来ていれば満点なんだけど、流石にコレは気付かないと思うわ。彼なら青魔銀の武器さえ作っていれば楽勝で突破できるんだけど……」
「青魔銀の短剣は使わせてましたけど……使う気配がありませんね? という事は気付いてないと。とはいえ、この編成だと普通に勝ちそうですよ?」
「勝つでしょうけど、大変だと思うわ。こいつらさっきも言ったけど、高魔法防御なのよ。だから水属性以外の魔法には物凄く強いの。チマチマとダメージを与えていくか、打撃以外でダメージを与えていくしかないわね」
「よく考えたら、蛙なのに水に弱いって……結構な捻くれ設定ですね。もちろん意図的なんでしょうけど」
「まあねえ。蛙が水属性に弱いとは、普通は思わないものねえ。だからこそ設定されるんだけど。それはともかく、ピンクが沈んだから一気に行きそうよ。流石に武器だけでも突破は出来るかー……ま、ある意味では正攻法だしね」
「弱点を突くと簡単に倒せるボスの弱点を、敢えて突いてませんからね。ある意味で正攻法ですけど、突かない意味はあるんですか?」
「まったく無いわよ? 精々、ごくろうさまーって感じね。それだけ」
「わー、苦労の価値が無い」
「それはそうでしょ。でも初回クリアなんてそんなものよ。事前情報も何も無いんだし、代わりに報酬として特殊スキルが貰えるんだしねえ」
「特殊スキルってコレですか? …………微妙。何ですかこの絶妙に役に立たないのは。意味無いでしょうに」
「そんな事は無いわよ。それ使って瀕死で戦い続ければ、とあるスキルが解放されるの。もちろん天然でも出来るんだけど、訓練場じゃ無理っていうスキルが」
「何ですか、それ?」
「【背水】というスキル。HPが15%以下の時に限り、全能力値が20%上昇するスキルよ。そして【爆力】は重複するの、後は分かるわね?」
「わー……30%プラス20%ですか、それなら結構な威力にはなりそうですね」
「でしょ。ついでに彼なら意図的に【背水】を使ってくれそうなのよね。常時瀕死で能力値底上げとか。案外死なない気がするのよ、弟君だと」
「嫌な期待ですねー……彼に同情しますよ。運営からおかしな期待をされてるっていうのは」
「失礼ね。どっかの意味不明な夫婦よりマシでしょうよ。そもそも彼の訓練風景とか見てたら、生き残れそうなのは分かるわよ。あの先読みでの、瀕死をもろともしない戦闘を見たらね」
「そんな事してるから変な人達に目をつけ、アタッ!?」




