0004・黒い草の採取完了
「おっとこんな所にあったのか。思ってるより分かりにくい所に生えてるなー、しかしコレ何に使うんだろう?」
師匠から頼まれたのは、見た目が分かりやすい黒い草だ。いろんな方向に尖っている鋭そうな葉っぱの形をしている草だが、実際はとても柔らかい。なので怪我をする事は無いが、僕はこれが薬草には思えないのだ。
そもそも黒い草っていうのが珍しいとは思うけど、それ以前に唯の雑草にしか見えないんだよ。ベータ版の時にも【鑑定】スキルなどは無かったので、今のところはこれが何なのか分からない。
師匠が名前だけしか書いてくれていなかったら、どれを採っていいか欠片も理解できなかっただろうね。そんな調子で黒い草を掘る際にはファルに見張っていてもらうんだけど、このファル、簡易的な命令しか理解できないみたいだ。
簡単に言うと「アレをしろ」だと通るんだけど、「アレを見張りつつ、コレして」というと途端に無理になる。何か一つしか出来ないので、現在は周囲を見張れとしか命令していない。そのまま立って周囲を見張っているだけだ。
少し調べに行って異常がないか確認して戻る。そういった高度な事はまだ出来ないらしい。師匠の所のスケルトンは自在に動いていたので、おそらくレベルが足りないのだろう。このゲーム職業レベルなどはあるが、スキルにレベルが無い。
ベータの時から運営は言ってきているが、内部情報としてはレベルがあるらしい。ただし、これを表に出す事は無いそうだ。理由としてはプレイの邪魔になるのと、テンプレを作らせない為だという。
誰もが同じ事をし、同じスキルを得て似たような戦い方をする。それは確かに面白くないし、どのみち強いスキルはナーフされてしまいテンプレは崩壊する。それを繰り返す毎に設定が崩壊するのも間違いない。
ならば数値を最初から分からなくしてしまい、計算できないようにしてしまえばいい。なので、このゲームではダメージ値すら出ない仕様になっている。なのでテンプレが異様なまでに作りづらいのだ。ベータの攻略が何回も止まった理由でもある。
でもそれで様々に話し合い、プレイヤーが協力して解決していったのは楽しかった。そういう意味では運営の狙いは成功していたと言える。まあ、今は僕一人だから自由に遊ぶけどね。
「おっと、ここも岩の裏側に生えてるのか。なかなか厄介だなー……で、掘り始めたら出てくると」
またゾンビが出てきたが、掘り始めると必ずと言っていいほど出てくる。これ、間違いなく黒い草を採ってこいってクエストだよね。となると帰り際が怖いな。今まで1体ずつしか出てきてないけど、帰り道では2体か3体出てきそう。
またもや転倒させてストンピングで倒したが、また<腐った肉>が出たぞ。本当に出るとは思わなかったけど、こんなアイテムいったい何に使うんだよ。一応もったいないから持っていくけどさ。
次で8ヶ所めだ。これで最後だから、さっさと採って戻るか。土をサクッとしたら出て……?。
「グルルルル!」
何か骨の犬が出てきたんですけど!? これがボスって事? とにかく距離をとっちゃ駄目だ。こういうヤツは噛み付いてくるから、その時に横から手を出して……そぉい!!。
「ギャン!!?!!?」
はは、見たか! こっちに突っ込んで来るのを利用して投げてやった。やっぱり骨に硬い地面はよく効くなー。あからさまに動きが鈍ってる。更に骨は数本飛んでいったからか、身動きがとれないみたいだ。
あっ、ゆっくり骨が飛んで戻ってきた。……成る程、骨が全部揃うまで動けませんと。よし、それならもう一度……今だ!!。
再びファルに襲いかかってきたので、横から持ち上げる形で肩の近くから叩き落とす。中腰で横から掻っ攫い、そのまま後ろに倒れるように相手を叩き落としてやった。
技の名前なんて知らないけど、勝てれば何でもいい。<BUSHIDO>の合戦でもよくやってた事だ。ただし乱戦でやると高確率で横から槍を刺されて死ぬけどね。
「今だ、ファル! 蹴りまくれ!!」
「カタ!」
何か「了解!」って感じで返事されたな。初めてだけど、何かあったのか? それはともかくとして、骨が飛んでいった今の内に蹴って倒す。ストンピング、ストンピング、ストンピング!。
「ギャウ~~~」
「よし、勝ったぁ! ファルもよくやってくれた。それにしても、何かやたらに狙われたね?」
「カタ?」
黒い草を採りに出てから初めて魔物と戦闘してるんだけどさ、魔物がファルしか狙ってない気がする。僕より弱いから狙われてるのか、それとも召喚された者を優先的に狙うのか。いったいどっちだろ?。
調べても良いけど、ファルが居ないと勝てない可能性が高い。とりあえずは余計な事をせずに帰ろう。黒い草を掘るのに道を外れなきゃならなかったが、一本道が続いているので戻るのは簡単だ。
おそらくスケルトンなどの師匠が召喚した魔物が歩いているんだろう。何故か草も生えていない道がまっすぐ師匠の家まで続いてるもんなー。誰かがよく通ってるっていう証拠だ。
帰り道でもゾンビが出たが、転倒させてのタコ殴り戦法で勝利し続けた。魔石が2個はともかく、腐った肉が3個も手に入ったけど。
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「師匠、戻りました」
「おお、戻ったか。<澱み草>は採ってきたか? アレが生えるとこの森が悪くなるからの、定期的に抜くのだが、修行の間はお主の仕事にするか。とりあえず、そこの地面に出せ」
「はい」
インベントリから<澱み草>とかいう黒い草を出すと、離れるように言われたので離れる。すると師匠は【ファイアストーム】と言い、一気に全て燃やしてしまった。危ないので火力は控えめにしてもらえませんかね。
「で、<澱み草>の近くにはゾンビやスケルトンが多かった筈じゃがどうであった? 逃げ帰ったとは思わんが、何度スケルトンがやられて召喚し直した?」
「えっと……最後の場所以外ではゾンビしか出てきませんでしたので、転倒させてから踏みつけて倒しました。最後の所だけは骨の犬だったんですが、ファルしか狙われなかったので、横から掬って後ろに投げ落とすという形で倒しました」
「…………何をやっとるんじゃ、お主は。それはネクロマンサーの戦い方ではあるまい。まあ、武術の真似事は出来るようじゃから分からんではないが……。本来なら苦労を教えてから武器を渡すつもりであったが、持っていけ」
師匠は先ほどから手に持っていた短槍を僕の方に放り投げてきた。それと盾と棍棒もだ。でもこれ、石と木で出来てる。穂先が石で出来てるんだけど、これって普通の石じゃないの? どうやって作ってるんだろう?。
「石と木で出来ているのが不思議か? それは錬金術で作ったものじゃ。適当な木と石があれば作れる。最初から良い物を持たせても碌な事にならんからの。ではスケルトンとの修行だ、励めよ?」
師匠のスケルトン2体との修行らしいけど、休む暇も無しですか。とにかく僕は【槍術】のスキルを持ってないから最低ダメージしか出ない。敵への牽制役に徹して、ファルに戦ってもらおう。
………そう思っていたけど甘かった。威力を抑える事もせずに盾ごとブン殴られて、一撃でファルが逝った。そこからはひたすら回避しつつ、何とか集中してファルを召喚。そしたらまた一撃でファルが逝った。いったいどうしろと?。
とにかく回避、回避、回避。いったいどうするのが正解かも分から、あ!?。
そう思った時には目の前に拳が来ていてブン殴られた。どうやら一撃で逝ったらしい。気付いたら師匠の家の前に立っていた。
「おお、稀人が死ぬと転移させられると聞いておったが真のようじゃの。どうじゃ、必死になって振り回したから覚えたじゃろう?」
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※スキル:【槍術】を習得しました
召喚モンスター:ファルが【棍棒術】を習得しました
召喚モンスター:ファルが【盾術】を習得しました
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「命の懸かった実戦に勝るものは何も無い! 命を危険に晒すのが一番早い習得への道じゃ」
いや、そうかもしれませんけどねぇ……。