0388・使えないスキル?
夕食を終えた僕はソファーの部屋へと戻り、そのままマイルームへ。ラスティアとキャスティは師匠とお酒を飲むので放っておき、僕はログアウト。現実へと戻る。
雑事を終えた後、夕食やお風呂などを終わらせたら、再びログイン。マイルームで金属の精錬などを行っていく。魔力金属を作った段階で終了し、僕はラスティアから返して貰っていた各種短剣とツルハシをプレイヤーマーケットに流した。
これ以上は物作りも出来ないので訓練場に行き、カカシ相手に訓練を行ったら囲炉裏部屋に戻ってログアウト。本日はここまで。
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2000年 11月5日 日曜日 AM8:17
本日もゲームにログインするも、今日も素材を収集に行かなきゃいけない。とにかく大量の素材がないと練習も出来ないんだからしょうがない。それよりも最近グリーントレントの居るウェズベア森に行ってないなぁ。
今日はウェズベア森にも行こうかな? どのみちダンジョンは攻略済みだし、今のところ先に進める訳でもない。あのジャングルにも採取ポイントとか無かったしなー。ダンジョンにはあまり無いんだろうか?。
ファルの作った物を流し、売り上げを回収して倉庫へ。昨日流した短剣とツルハシは何故か全て売れていた。興味本位で買ったのか、それとも役立てられる方法があって買ったのか……。
どちらかは分からないが、全く売れない訳じゃなさそうだ。特に魔銀は攻撃力も耐久も低いからね、属性ダメージがどこまで評価されるかなんだけど……駄目なイメージ付いたら売れなくなりそうだから、動向に気をつけておこう。
ファルに呼び出す事を伝えたら、僕はソファーの部屋へと移動。いつもの場所でファルを呼び出し、そのまま朝食の準備に行かせる。ナツ、イル、トモエ、アマロさんは話が弾んでいるらしいが、僕は入らずに聞いているだけだ。
あのパワーの場所に入りたいとも思わないし、あのパワーに巻き込まれると大変だからね。存在感を消して、プレイヤーマーケットの売れ筋や掲示板を見ているとファルが呼びに来た。
食堂へと移動すると、既にラスティアとキャスティが居たので挨拶。師匠が居ないものの、気にせず朝食は進む。半分ほど食べ終わったタイミングで師匠は現れた。
「おっと、遅れたか。少し前にマリアから頼まれておった薬の調合がやっと終わってな。随分時間の掛かる物だったから、苦労したわ」
「時間の掛かるヤツって素材が面倒な薬? それとも反応に時間の掛かるヤツ?」
「反応に時間のかかるタイプじゃな。あれ系は放置してゆっくり時間を掛けんと、正しい反応をせんからな。おかげで反応が終わるまで作業が進まん。面倒ではあるが、あれ系の物は必要とする物が多いのだ」
「薬の基本になるものですね。色々な薬を作る際の下地というか、素となる物で非常に厄介だと聞きます。というより、それ系の物を使うのは基本的に高位のレシピでは?」
「そうだ。マリアが頼んで来たのは<強魔精水>だからの。一時的に魔力を強化する薬だが、何故あんな物が必要なのやら……。ま、妾は頼まれた物を作るだけだ」
「普通は強い魔物と戦う前だったり、何らかの強力な魔法を使う前に飲んだりする物ね。体内が活性化されて魔力が強化されるけど、大抵は失敗する薬。あれ系も慣れなきゃ使えないのよね」
「どういう事? 魔力が強化される薬なら、相当使える薬の筈。なのに失敗する?」
「ああ、想像が出来てないのね。<強魔精水>を飲んで魔力が強化されても、制御力が強化される訳じゃないの。だから強化された分、高い制御力が要求されるんだけど、大抵は慣れてなくて暴発。失敗するってわけ」
「成る程、それなら分かる。というか、魔力を強化しただけでは強くなれない。それは厄介……」
「自らの能力を磨いていくならば構わんのだ。しかし一時的に薬で強化したのでは、己の能力ではないからな。それ故に魔力だけが強化という状態になる。制御に慣れんのであれば失敗して当然よ」
「となると【爆力】も上手く使わないと失敗しそうだなぁ……」
「コトブキ、【爆力】とは何ですか? 聞いた事が無いのですが……」
僕は朝食の席で、運営ダンジョン40階を初攻略した際に貰ったスキルの説明をする。それを聞いた皆は呆れた顔だったり、疑問の顔だったり、嘆息したりしていた。
「神どもも何を考えているのやら。肉体の耐久力を9割消費して、一時的というより一度だけ筋力を3割増しにする事が出来るとは。何が何やら訳の分からんスキルだな。おまけに使い勝手が悪過ぎる」
「ですね。幾らなんでも肉体の耐久力の9割など、稀人でなければ使えません。私達が使うと簡単に死んでしまいます。稀人にしか行けないダンジョンですから、受け取るのも稀人だけなのですが……」
「たまに訳の分からんスキルを持っておる者も居るが、ああいう類のものに少々似ておるな。一時的に動きがゆっくりに見えるというスキルなども知っておるが、あれらに似ておる感じか」
「おお、ゾーンに入る事が出来るスキル。高速で飛んでくる物を見切ったり、相手との近接戦闘で全部見切ったりするヤツだ」
「まあ、出来るらしいが、代わりに使った後は頭痛と吐き気が止まらんスキルだの。最後の最後、そいつさえ倒せば安全という際にしか使えんそうだ。頭痛と吐き気で、戦うどころではないのであろう」
「急に夢が無くなった。でも現実はそんなもの。脳に過負荷が掛かる以上、そうなるのは仕方ない」
「そうだけど………そう考えると、コトブキ君の9割消費の方がマシなのかな? いや、どっちもどっち?」
「どっちも似たような感じじゃない? 避けられない魔法とかあるし、そういうのを受けたら一発で死にそうじゃない。だからそこまで使えないと思うのよね。物理攻撃オンリーの敵か、回復手段を持って使うしかないでしょ」
「でも一度なうえ、しかも筋力が3割上昇するだけでしかない。回復すれば連発できるといっても限度がある。スキルとしては使い勝手が悪いように思う………けど、筋力が上がれば3割は大きい?」
「割合だから強くなればなるほど大きいだろうけど、それでも9割消費も大きいよ。そのうえHPが9割以上ないと使えないし」
「結局のところ、使いにくいスキルに変わりないのでは? 流石に9割消費は酷いですけど」
そうなんだよね。HPを9割消費するって結構シャレになってない、にも関わらず上昇する筋力値は3割。今のところは使えるスキルじゃない。それでも全く使えない訳じゃないのが何とも……。
朝食を終えた僕達は師匠の家の前でユウヤと合流、魔隠穴へと飛んだ。今日からはアマロさんだけではなく皆で戦い、アマロさんは【精密魔力感知】の練習に励む。僕達はいつも通りの素材収集だ。
昨日の短剣とツルハシが売れた事を説明するも、皆は興味無しだった。どうやら売れ筋は気にならないらしい。
「売れるか売れないかに関わらず作るしかねえし、買う側は役に立つかどうかだからなー」
「そうなんだけど、何が売れるかにすら興味が無いとは……。といっても、興味を持つのは作る側くらいか。面白い結果が出たりする事もあるんだけど……」
「まあな。作った本人が売れないと思った物が売れたり、何でそんなのがって言いたくなる物が人気商品になったりな。市場動向も結構面白いんだが、ニッチな方だぞ?」
「そっかー。僕は結構面白く見られるんだけどね。あと掲示板での使用感を話してたりするの」
「そっちは私も読むし、嫌いじゃない。でも数字から想像するのはそこまで……。特にこのゲームでは物作りをやってない」
「まあ、自分が物を作ってなきゃ興味も湧かねーだろうな」
そんなものなんだね。




