0383・きぐるみ
朝食後。再び昨日と同じく魔隠穴へと向かう。ユウヤとアマロさんと共に転移し、魔隠穴へと着いたら早速中へと突入していく。僕達がやるべきは中での空間把握と戦闘だ。とはいえ、まずはアマロさんが中級になるのが先だが。
「それなりに戦えるようにはなったと思いますが、それでも怖いですね。未だに中級になってませんので、周りがあまり見えません。どちらかと言うと仲間達の行動を見ながら動いてます」
「それで良いんじゃないかな。最初の方っていうか下級の状態だと、【魔力感知】も【精密魔力感知】も殆ど違いが無いみたいだし。どっちも感知出来る範囲に殆ど差が無いなら苦労は変わらないよ」
「2回か3回目だろ? それで中級に上がらないなら、何か根本的な経験が足りないって事になるんじゃないか? それが何かは分からないけどさ。でも、その辺りしかないと思うぜ?」
「そうだね。流石に3回で駄目なら、何か駄目な理由がある筈だよ。ただ、隠されてるから、それが何かまでは分からないけど」
「それは仕方ない。ここまで隠されないと、テンプレ作って右へ倣えが多すぎる。同じような装備、同じようなスキル、同じような構成、同じような立ち回り。雨後の筍みたいな連中が生まれる」
「あれはなー、やってて楽しいのか理解できないんだよな。しかもプロと違って下手だから上手くかみ合わないし。結局、それっぽい何かにしかならないんだよ。そのうえ、やってる本人達は理解してないしさー」
「プロなら作った能力に合わせられるんだけど、素人だと合わせられないからね。仕方ないよ。シビアなタイミングを連続で熟さなきゃいけないとかさ、そういうサイキョーだし」
「そういうサイキョーも限定的なの多いしね。周りの仲間に助けてもらってだから、タンクが多く居てくれないと足を引っ張るだけっていうのも多いわよ。連携も出来てなかったりするし」
「それはある。凄まじい攻撃力を持ってる代わりに紙装甲とか、鉄壁の防御力を持ってても状態異常に凄く弱いとか。基本的に絶対に強いなんてないんだから、大半のプレイヤーは平均的な方が楽しくプレイできる」
採掘ポイントで掘っているけど、今日は魔纏石が多いな。そろそろ結構溜まってるし、師匠のスケルトン・クラフターに売っておくか。それにしても銀鉱石と闇精石が欲しいんだけど、あんまり出ないねー。物欲センサーかな?。
暗曜石は要らないし、プレイヤーマーケットに流そうか。別に使わないし、今は魔鉄を使うからなぁ……。<石工師>が使うだろうし、流せば誰か買うでしょ。帰ったら倉庫を整理しよう。
素材を掘っていき、いつもの場所まで来たら反転して帰る。奥の採掘ポイント………結局行っても然して良い物が出たりしないんだから、無視、無視。ああいうのは掛けた時間に比べて損するって決まってるんだ。
その後も順調にアマロさんが倒して戻り、入り口を抜けた段階で待望のインフォが来たようだ。
「やりました! 【魔力感知・中級】です!」
「「「「おめでとう」」」」
「おお、おめでとう。……っていうか、【精密魔力感知】にはなってないんだな? 足りないのはそっちの経験か。今度は心臓から魔力を練り上げる練習だ」
「そうですね。とにかく周囲を把握して戦うのが先で、細かい事は難しかったですから」
「それはしょうがないわよ。次からは感知範囲が広がるから、かなり楽になるだろうし、今までよりも余裕が出るから練習も出来る筈。あとは練習あるのみね」
「じゃあ、そろそろ戻るよ。次は豪雪山とバイゼル山だから」
僕達は師匠の家に転移し、一旦マイルームに飛んで防寒具を着る。その後はバイゼル山へ行って豪雪山へと飛び、素材の回収に出る。ここからはラスティアに短剣を渡して使ってもらうが、微妙な結果となった。
「青魔鉄は碌に効いてないし、黒魔鉄も効いてるんだか効いてないんだか分からないね。やっぱり(微)って付いてるのは駄目か。むしろ属性が邪魔な場合もあるし、付いてない方が安心して使えるね」
「そうね。属性金属の魔鉄は道具に使う方が良いと思うし、そっちならまだ使えるわ。【耐寒】であったり【盲目無効】であったり効果が微妙だけど、工夫すれば使える筈よ」
「何だそれ? 魔鉄を属性金属にして、道具に使うとそんな事になるのか? おかしな金属だな」
「ユウヤは居なかったから聞いてないんだね。私やイルは、おかしな効果があるのを聞いてるよ。最初コトブキ君はツルハシを作ったんだけど、道具であり武器だから、おかしな効果が付いたんじゃないかって。そうエンリエッタさんが言ってた」
「色々作ってみないと分からないみたいだから、相当厄介な素材だとは思う。特に道具に使うと変化するのは厄介。魔銀は変わらないらしいけど……」
「ツルハシは魔銀でも作ったんだけど、魔銀の方は属性効果が付いただけで普通だったんだ。でも魔鉄だけが【耐寒】と【盲目無効】なんていうおかしな効果になった。もしかしたら魔銅もおかしな効果になるかも」
「勘弁してくれ。経験の為に俺も色々作らなきゃ駄目じゃんか。マジかよー……属性金属はコトブキから買うしか無いんだぜ? それで訳の分からん物を作らなきゃなんねーのかよ」
「仕方ないよ。僕だって作るんだし、諦めるしかない。とにかく金属とか精石を集めるしかないから、それらが集まるまでは作れないんだ。スライムの抜け殻も要るし<魔石・中>も必要だし」
「魔石もか……。思ってるより使うところ多いなー。ところでアマロのあのきぐるみ、作ったのコトブキか?」
「そうそう。アマロさんが麓の町まで買いに行くの面倒そうにしてたから、フリーズベアの毛皮を繋いで作ったんだよ。結果としてみれば、上手くいったんじゃないかと思う。本格的な防寒具じゃないのに【耐寒(中)】だしね」
「まあ、うん。そういう意味では上手くいってるとは思う。思うが……見つかると、可愛い系の装備として五月蝿そうだな。あれは単なる防寒具だろうけど、もうちょっと色々すれば完全なきぐるみだし」
「あー……そういう系統の装備が流行ったゲームもあったね。こっちでも流行るかは知らないけど、知らないフリして放置しておけば誰か勝手に作るんじゃない? それに見てるの僕達だけだし」
「まあ、そうだな。権利がどうこうで揉めるのも面倒臭いって思ったけど、見てるのが俺達だけならスルーすれば済むか」
「そうそう」
フリーズベアの出てくる洞窟には誰もいないので無視し、そのまま崖の方に進んで行く。アマロさんは余ほど嬉しいのか、雪の上を歩きながら魔物を倒していく。後でアイススライムの抜け殻は売ってもらおう。
そんな事を考えながら崖に行って掘り始めると、アマロさんがスマッシュタイガーに襲われた。そういえばスマッシュタイガーが出てくるの知らなかったんだっけ?。
すぐにセナが首を刎ねたから終わったけど、アマロさんは押し倒されていたので怖かったらしい。まあ、不意打ちで殺される事もあるし、油断大敵って事で……。
「何故、教えてくれなかったんですか!」
「ごめん、ごめん。皆知ってるから、普通にいつものままだった。そういえばアマロは知らなかったのよね。すっかり頭から抜けてたっていうか、考えもしなかったわ」
そこまで怒ってなかったので終わったが、こういうので拗れたりすると面倒臭いからね。この程度で終わって良かったよ。まあ、本人の注意不足もあったから、そこまで怒らなかったんだろうけどね。
これで死に戻ってたらキレてたかもしれないけど、単に一瞬ピンチだっただけだからセーフみたいだ。さっさとバイゼル山に戻って鉄と銅を掘ろう。それで落ち着くと思うし。
別作「ミク ~喰らうもの~」が200話に到達しました。こちらも宜しくお願いします




